個性豊かな“アートな野菜”が照らす、規格外野菜の未来
被災農家から買い取った800kgの梨が一週間足らずで完売
2021年5月、千葉県佐倉市にある「ミレニアムセンター佐倉」内にカフェ「PUKU」(プク)がオープンしました。彩り豊かなチョップドサラダや旬の果物を使ったスムージーが自慢で、店内の一角には不揃いながらも新鮮な野菜が並びます。
「カフェで使う食材も販売している野菜も、市場に流通しないいわゆる『規格外』のものをできるだけ利用するようにしています」。そう話すのは、一般社団法人「野菜がつくる未来のカタチ」の代表理事・鳥海孝範さん。市内でゲストハウスを切り盛りしながら「PUKU」のオーナーも務めています。
PUKUは県内で出る規格外野菜の活用に取り組んでいます。立ち上げのきっかけは、2019年9月に首都圏で発生した台風15号でした。
「記録的な暴風となり、多くの農家が甚大な被害を受けました。SNSで知り合った市内の梨農家も同様で、ほとんどの実が木から落ちてしまい廃棄を待つばかりの状況。『どうにかできないか』との申し出があり、私の方で梨の実を買い取ることにしたんです。当時は、フードロス削減なんて考えてもいなかった。ただただ、梨の実を無駄にしたくなかったんです」
鳥海さんは、さっそくゲストハウスで梨の実を販売。経緯を知った人たちが次々と訪れ、一週間足らずで800kg近い実が完売しました。
台風発生からひと月後、鳥海さんは被災農家支援のクラウドファンディングを行うために「野菜がつくる未来のカタチ」を設立。集まった支援金は、規格外野菜の買い取りや破損したビニールハウスの解体、加工品製造などに使われました。
総収穫量の3割しかとれない“アートな野菜”
現在、鳥海さんは佐倉市内を中心に7軒ほどの農家と定期的に取り引きしています。みずから農園を訪ね、農家と交流していくなかで「規格外」の概念に疑問を持つようになりました。
「廃棄される農産物の多くは、サイズが小さかったり、形が悪かったりするために『規格外』とされています。しかし、それは物流の都合でしかありません。『我々は野菜を作っているのではなく、カタチをつくっている……』。そう語った農家さんの言葉がいまでも脳裏に焼きついていますよ」
物流に乗せられないだけで規格外のレッテルを貼られてしまう――。その事実を知った鳥海さんは、いつしか「規格外野菜」という言葉を控えるようになりました。
「個性的な形が多いので“アートな野菜”と呼んでいます。総収穫量の3割程度が規格外になるといわれていますが、裏を返せば、とてもレアな存在なんですよね。そういった規格外ならではの魅力も掘り下げていきたいです」
鳥海さんは、規格外野菜だからと安売りせず、新鮮さと味を重視して値付けしています。市内の小売店では手に入らない有機栽培の農産物も充実しており、仕入れの度に訪れるリピーターもいるほど。
「今後は、加工品の製造にも力を入れたい」と、鳥海さん。地元の食品業者と連携したレトルトカレー開発を構想中です。使う食材はもちろん“アートな野菜”。味覚を通じて、消費者に規格外野菜の在り方を問い続けます。