近江商人は三方よし。琵琶湖の恵みを新しい形で未来へ継ぐ「Yoshio Fermented Foods」
はじまりは「魚を捨てたくない」という想い
滋賀県の食を語るうえで欠かせない琵琶湖の湖魚。現在は14種の固有種を含む約80種の魚類が棲息しているといわれ、毎日漁が行われています。吉男さんの父で「奥村佃煮」の創業者の龍男さんも、もともとは沖島の漁師さん。吉男さん自身も15歳まで沖島で暮らしていたということもあり、買い手がつかず廃棄される湖魚の存在に胸を痛めていました。
「美味しくてもサイズや知名度で価値の低い魚は捨てられてしまう。でも漁師さんにとっては売れる魚も売れない魚も、かけたコストは同じです。最初は『魚を捨てたくない』という想いだけでしたが、プロジェクトを進めているうちに、漁師さんや社会の役にも立つかもしれないと思い始めました」
約1400年の歴史を持つふなずしと、気鋭の地場産チーズの出会い
捨てられてしまう魚の代表格がオスのニゴロブナ。かの有名な伝統食「ふなずし」に使われる湖魚ですが、需要があるのは子持ちのメス。味は変わらないにも関わらず、オスはどうしても余ってしまいます。「オスの価値を上げて、なんならメスよりも高級魚にしてやろう」と、吉男さんが思いついたのが、チーズと合わせることでした。
「オスのお腹には卵がないので、そのスペースにチーズを入れて一緒に発酵させたらどうなるやろうかと。前代未聞の試みでしたが、とにかくやってみることにしました」
相方に選んだのは、Lactosérumでチーズをつくっているつやこさん。ふなずしに合わせるチーズには、爽やかな酸味ととろりとした食感が特徴のスペシャリテ「つやこフロマージュ」を使うことにしました。
完成まで約1年という年月がかかるふなずし。「鮒寿し×つやこフロマージュ」も通常通り、まずは内蔵を取ったニゴロブナを塩漬けに。約3ヶ月後に取り出して塩を洗い、お腹にチーズを詰めて炊いたお米と一緒に桶に詰めて再度熟成・発酵させていきます。
すぐには販売につながらなくても、クラウドファンディングや店頭で、商品に込めた想いを焦らず大切に伝えていったという吉男さん。時間をかけて美味しく発酵するふなずしのように、この「ふなずし×つやこフロマージュ」も徐々に価値を認められるようになりました。食べてみるとふなずし特有の凝縮された旨味と塩気と、ふんわりとしたチーズの風味がよく合います。
「初めて味見をする時はドキドキしましたね。アンチョビのような味わいなのでワインにも合う。オリーブオイルやはちみつをかけたり、ご飯に乗せてお茶漬けにするとリゾットのようにもなります」
味だけじゃない楽しみを持ったプロダクトをつくる。
第1弾商品の「鮒ずし×つやこフロマージュ」に続き、2022年には規格外の本モロコをカレー風味に仕上げた缶詰「24hour party fish gift for okishima HONMOROKO in COTTONSEED OIL びわ湖産本もろこオイル漬」もリリース。天橋立の缶詰会社「竹中罐詰」と開発したこちらは、“琵琶湖を見ながら食べられる琵琶湖のもの”というコンセプトがアウトドア好きの間で話題になり、一時品薄になるほどの人気商品になりました。
吉男さんが商品づくりで大切にしているのが、味+もう一つの価値があること。そして常識を疑うこと。信頼するクリエイターと組むことで、伝統を守りながら新しいアイデアを形にし、想いを理解してくれるお店にだけ商品を卸しています。
「食べ物の価値って味だけじゃないと思うんです。たとえばふなずしは僕にとって歴史があって、食べると大勢が集まる時に食卓に出された光景や、苦手やのに背伸びをして食べた記憶が蘇る。自分が作る商品もそんな風に、味とは別の楽しみがあるものに仕上げたいし、それが漁業や社会のためになったらもっと良いですよね。近江商人は『三方よし』。売り手と買い手が満足するのは当然、社会に貢献できてこそよい商売といえますから」
現在は京都の龍谷大学と一緒に、家庭で1匹分のふなずしが作れる「クラフトふなずしキット」を開発中。もともと家庭で漬けられていたふなずしを原点に戻すことで、未来へ残していこうというアイデアです。フードロスを減らし、漁師さんを守り、滋賀の伝統を伝え、食べる人に楽しみを与えてくれる。もはや“三方よし”どころではない「Yoshio Fermented Foods」の今後も楽しみです。