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THE POWER OF SHUN(October 2020)

SHUN STYLE

世界から注目を集める、日本発の味覚「うま味」

うま味素材

「うま味たっぷり」、「素材のうま味が調和しているね」。テレビ番組や雑誌などのメディアだけでなく、日常会話でもよく聞く「うま味」。言葉は知っていても、その正体を知る人はそれほど多くないのではないだろうか。「うま味」とは人間の味覚を構成する基本味(きほんみ)のひとつ。およそ100年前、日本人化学者で「日本の十大発明家」にも数えられている池田菊苗博士によって発見された。この偉業は、近年、国際的な展開を見せており「UMAMI」が世界共通語にもなっている。

美味しさの基礎になる「基本味」

そもそも「うま味」とは何なのか。特定非営利活動法人うま味インフォメーションセンターの理事・二宮くみ子さんにお話を伺った。

「人間が「美味しい」と感じる味は、甘味・苦味・酸味・塩味(えんみ)・うま味の5つの味覚で構成されており、これらを基本味といいます。基本味を含んだ物質が舌にある「味蕾(みらい)」という器官に触れると、瞬時にいずれかの味覚に分類され、味覚神経を通して味の情報が脳へ伝達されるのです」。

例えば、エネルギーのもとになる糖分は甘味として感知され、体液のバランスを維持するためのミネラルは塩味として感知される。酸味や苦味を感知することで未熟な果実や腐敗物を避けることもできる。基本味とは人間が生きていくうえで欠かすことのできない機能なのだ。

「中でもうま味は、人間にとって重要な栄養素であるたんぱく質が身体に入ってきたことを教えてくれるシグナルの役割をしています」と、二宮さんは教えてくれた。

うま味インフォメーションセンター二宮くみ子

日本人化学者が発見した第五の味覚

かつて基本味は、甘味、酸味、塩味、苦味の4つと言われてきた。1908年、化学者の池田菊苗博士はこの4つだけでは説明のできない味覚があることに気が付き、湯豆腐の昆布だしに着想を得て第五の味覚を発見。昆布に多く含まれるアミノ酸の一種グルタミン酸によることを解明し、うま味と名付けた。その後研究が進み、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の3つが代表的なうま味物質であることが解明されている。

うま味はどんな食品に含まれているのか。代表的な食材を教えてもらった。

グルタミン酸:昆布、トマト、玉ねぎや、チーズ、味噌、醤油などの発酵食品

イノシン酸:かつお節、肉、魚などの動物性食品

グアニル酸:干し椎茸、乾燥モリーユ茸などの乾燥したきのこ類

食材のうま味を引き出すときの肝になるのがグルタミン酸だ。グルタミン酸をベースにしてイノシン酸やグアニル酸をかけ合わせると、「相乗効果」によってうま味をより強く感じられる。その好例が昆布(グルタミン酸)とかつお節(イノシン酸)でとった出汁というわけだ。みそ汁や茶わん蒸し、そばのつゆ……うま味を活かした和食は数知れない。

「うま味を効果的に取り入れていることが和食の特長。その代表例が出汁です。出汁を一口含んだときにふわりと広がる風味がうま味物質の味なんですよ。料理に使われはじめたのは室町時代ともいわれており、古くから日本の食文化に根づいていたんですね」と、二宮さん。

海外でもその土地ごとの食材で、日本でいうところの「出汁」は使われてきた。例えば西洋料理ならスープストック、中国料理なら白湯(ぱいたん)が該当するが、これらは肉や魚、野菜などを長時間煮だしてつくられる。対する出汁は、昆布やかつお節などを数分から1時間程度煮こんでうま味を抽出する。

昆布とかつお節の合わせ出汁

UMAMIWORLDMAP

「スープストックが絵具を何層にも重ねる油絵なら、出汁はシンプルに描いた水墨画といったところ。うま味を生かして調理をすることで塩分を減らしたり、動物性油脂がなくてもおいしい料理がつくれるという点は、ヘルシーな和食が世界中から注目されている理由だと思います」と、二宮さん。

池田博士は、うま味を提唱する数年前に2年間のドイツ留学を経験している。異国の食文化を長期間にわたり経験したからこそ、日本食のなかにうま味の要素を見出せたのかもしれない。

出汁

世界の料理人が認めた、うま味の効果

「うま味なくして、美味しい料理はできません」。

「MATSUHISA」や「NOBU」など、世界主要都市にレストランを展開する料理人の松久信幸さんは、そう言い切る。

「2004年、うま味インフォメーションセンターが主催するセミナーをきっかけにして、うま味を強く意識するようになりました。そしてロンドン、ニューヨーク、アテネ、ケープタウンなどの店舗で『Sake and Umami Dinner』というディナーイベントを開催し、自分なりにうま味を追求してきました」。

世界各国でうま味の伝道師として普及活動に取り組むなかで、海外の料理人たちの「UMAMI」に対する意識の変化を目の当たりにしている。

「うま味を積極的に取り入れている料理人が増えてきましたね。グルタミン酸の効果を理解したうえで、うま味をたっぷり含んだチーズを料理に活かすフランス人シェフが現れたり、それぞれの地域に根づいたうま味食品を組み合わせて新たな一皿を生み出しています」。

十数年前は料理のジャンルごとに壁があったが、この頃はその垣根を越えて技術や食材の共有が始まっているという。松久さんも世界中の人に親しまれる料理を模索する。醤油にトマトのフレーバーを加えたり、味噌にチーズを混ぜたり。日本食の枠組みにとどまらない。

今回は松久さんに、家庭でも簡単にうま味を生かしてつくることのできるレシピを教えていただいた。

松久信幸

うま味食品

「うま味だけに固執していては、単調でメリハリのない味になってしまいます。ほかの味覚や食品との調和を心がければ、料理の可能性はさらに広がるでしょう」と、松久さん。

うま味の発見からおよそ100年。日本から世界へと広がったのは、料理人たちがうま味の効果を認めたからにほかならない。突きつめたその先には、食文化の新たな境地がまっている。

Writer : NAOYA NAKAYAMA / Photographer : CHIE MARUYAMA / SATOSHI TACHIBANA

特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター

住所 東京都千代田区二番町8-7-1202
TEL 03-3222-0235
URL https://www.umamiinfo.jp/