季節と出逢う「冬の和菓子」
冬の和菓子
●椿道明寺
道明寺粉を蒸し、砂糖を水で煮たものと合わせ、こし餡を包んだ繊細な一品。春の桜道明寺と違い、椿の葉は食べることが出来ないが、雪玉を連想させる透き通った餅米とともに冬の景色を楽しめる。
●酒饅頭
酒種を砂糖や小麦粉と合わせ発酵させた皮は、もっちりとした歯ごたえと、糀の甘い香りが特長。日本酒の仕込みと同じ寒い時期だけに作られる、手土産に人気の饅頭。
●ねりきり「梅」
小豆のこし餡を、赤く色づけした白餡で包み、梅の形を表現したねりきり。梅はおめでたいイメージもあることから、お正月にも人気のモチーフだ。
●唐饅頭(とうまんじゅう)
こし餡の入ったカステラのような焼き菓子。銅製の型で強火で短時間で焼き上げることで、しっとりとした食感になる。五十鈴のものは鼓の焼印が特徴。唐饅頭は夏目漱石の「門」にも出てくることで知られる。
●花びら餅
一般的に、初釜(一年の最初のお茶会)で出される、梅の花びらに見立てたといわれる和菓子。新ごぼうを茹でて蜜につけたものを、白味噌を混ぜた白餡とともに薄い皮で包む。皮は餅やういろうなど、地域により違いがある。
●うぐいす餅
桜より一足先に始まる、春を告げる和菓子。五十鈴では1月中旬から。なめらかなこし餡を柔らかい求肥(ぎゅうひ)で包み、緑色のうぐいすきな粉をまぶした一品。春を告げる鳥「うぐいす」を模している。
※掲載している和菓子の名称は「五十鈴」での販売名です。地域によって呼び方が異なるものがあります。
新年を祝う彩り豊かな和菓子
「冬は和菓子の種類が多い季節です。お店で選ぶのも楽しんでいただけますよ」。
正月などおめでたい行事の多い冬の時期は、華やかな色みの和菓子が多く出回る。聞くと、普段よりも色を強めにつくり、おめでたい雰囲気を演出しているそう。特に関西圏ははっきりとした強い色を使うお店が多いそうだ。
五十鈴では年末年始の期間だけ、「松竹梅、鶴、亀、鯛」などのおめでたいモチーフの上生菓子がつくられるそう。
「お正月用の上生菓子もそうですし、干支のデザインや1月初旬しか作らない花びら餠など、冬は特に期間の短い和菓子が多いです。一瞬しか出会えないものが多いので、意識して足を運んでもらえたら」と、相田さん。
贈り物にされる方が多い時期のため、一度は食べたことのある、安心できる定番のお菓子が多く求められるのも冬の特徴。とくに冬限定の酒饅頭はリピーターが多いという。
最近では、クリスマスデザインの上生菓子もすっかり定番となり、買い求められることが増えてきているという。
「年末年始は、家族皆で集まって過ごすあたたかい時期。その輪の中に和菓子があったら嬉しい」と、和菓子職人としての想いを相田さんは語ってくれた。
四季のはっきりとした日本だからこそ育まれた甘味文化。行事や生活に寄り添いながら、繊細な季節の移り変わりを先取りして表現していく「和菓子」。食品という枠には収まらない、日本の芸術的精神が脈々と受け継がれている。