SHUN GATE10周年記念【地域おこし人サミット】分科会Eレポート― “想い”こそ、すべてのクリエイティブの源泉だ。

集合カット
(取材月: February 2024)
全国の食の生産者を訪ね、その魅力を記録してきたWEBメディア「SHUNGATE」。その10周年を記念して2024年2月24日、東京都・日本橋浜町のカフェ「Hama House」にて、「地域おこし人サミット分科会『地域から世界へ~魅力的な商品づくりの秘訣』」が開催された。当日はこれまでのSHUN GATEの取材を通じて繋がった3名の地域クリエイターたちが登壇。編集長・水代優がファシリテーターを務め、世界的に評価される彼らのものづくりの秘訣をお聞きした。この記事ではトークショーの内容を、ダイジェスト版でお届けする。

<登壇者>

伊澤 敦彦〈有〉伊澤いちご園 代表取締役)
https://shun-gate.com/roots/roots_136/

渡邉 義文(〈有〉渡辺商店 代表取締役)
https://shun-gate.com/roots/roots_1/

鈴木 成宗(〈有〉二軒茶屋餅角屋本店 代表取締役)
https://shun-gate.com/roots/roots_72/

ファシリテーター :水代 優(good mornings〈株〉)

実は妻のために造りました。築80年の石蔵を改装した農泊&複合施設「吉田村ビレッジ」/伊澤敦彦(栃木県下野市)

伊澤さん

伊澤さん 栃木県下野市でいちご園を営みながら、ジェラート屋、レストラン、日光では『「日光ドラバタさん』」というお店を運営しています。もともと東京で広告系のアートディレクターとしてゴリゴリ働いていて、29歳でUターンして家業に。2021年には元JAの倉庫だった築80年の石蔵をリノベーションして、念願だった「吉田村ビレッジ」をスタートしました。農泊の補助金を使っているんですが、農業体験ができる民泊施設であり、同じ建物内にはベーカリーや花屋、農産物直売コーナーもあります。

実は「吉田村ビレッジ」は、僕の妻のためのコンテンツを詰め込んだ場所なんです。東京生まれの妻を何もない田舎に連れてきてしまったので、彼女が喜ぶものを作りました。それが結果的に感度の高い女性を中心に響き、今では年間約3万人が訪れる場所に。また建築物としても高く評価をいただいていて、栃木県で最も有名なマロニエ建築賞で最優秀賞を受賞、国際建築家連合(UIA)にも日本代表として選出していただきました。総工費は1億5000万円。補助金が5000万円もらえたので、いまやっと利息分を返し終えたくらいですかね(笑)。なんにもないのではなく、何でもできる。農業というコンテンツや歴史という資源があり、あと重要なのは人とイマジネーションだと思いながら、場づくりに取り組んでおります。

商品づくりは本物の畑づくりから。20年以上かけて究極に安心安全な食ブランドを発信「自然派きくち村」/渡邉義文(熊本県菊池市)

渡邉さん

渡邉さん オンラインショップと実店舗で「自然派きくち村」という食ブランドを展開しています。また食品加工所「本物のアレ研究所」や、農家を周るツアー企画、インバウンドのお客様に向けた古民家一棟貸しの宿業も始めました。「自然派きくち村」で扱っている商品は、“本物の畑”から生まれた農作物だけ。究極に安心安全な農産物をつくるために、僕らは微生物によって健康な土を作ることから始めます。無農薬無肥料はもちろん、有機肥料も不使用。有機栽培と言っても、もし有機肥料として使う堆肥の元になる家畜が抗生剤や成長ホルモンを摂取していたら、作物にその成分が出てしまうんです。オンラインショップの利用者はリピーターがほとんどで、現在は約2万人ほどの顧客で回転しています。また10年ほど前から生産者を巡るツアーを始めるなど、誰がどのように商品を作っているのかを、消費者に伝えることに力を注いでいます。

さらに今は阿蘇外輪山のふもとにあったぼろぼろの納屋をフルリノベーションした簡易宿所「GOYADO」がとても好調です。なぜかというと人件費がかかっていないから。6〜10人に一棟貸し、チェックイン・アウトも自動、料理もBBQセットを用意する以外は提供しません。そうすると清掃くらいしか作業が発生しないんですね。客単価は1件あたり宿泊客1名につき約1万円、1日で5〜8万円になります。熊本空港から15分くらいの立地なので、インバウンド利用も増加。菊池市の財産である豊かな自然が、最大の売りになるという証拠です。先日もう一軒古民家を買ったので、そちらも宿にする予定です。

大好きな微生物と遊びたい。餅屋の老舗21代目が世界を獲ったクラフトビール「伊勢角屋麦酒」/鈴木成宗(三重県伊勢市)

鈴木さん

鈴木さん 私は1575年に創業した餅屋「二軒茶屋餅角屋本店」の21代目です。家業を継ぐことは決まっていたのですが、子供のころから昆虫や微生物などが大好きで、大学最後の年に微生物の研究に没頭しました。卒業後、家業の餅屋をやりながら再び酵母への想いが復活。広い世界で挑戦したいという気持ちもあり、1997年からちょうど規制緩和のかかったクラフトビール造りを始めることにしました。ところがビールがまったく売れなかったので、自らブランドを構築するべく、5年以内に世界タイトルで金賞を獲得することを決意。まずは自分が選ぶ側に回ろうと国際大会の審査員資格を取得し、99年の全米大会で審査員を務めました。実際に世界の評価基準を見た私は、すべてをビール造りに注ぎ込み、2003年に「Australian International Beer Awards 2003」で金賞を受賞することができました。

ようやくビールで生計が建てられるようになったのは2003年。そして2011年には社長業をやりながら三重大学の博士課程に入学し、本格的に酵母の研究を始めました。伊勢の森から酵母を採取して特性を調べ、彼らの能力を一番発揮できるビールを開発。私達の場合は、酵母が地元産の素材です。現在は野生酵母を採取するだけでなく、酵母が狙った香りを出せるように遺伝子編集を研究中。田舎の零細企業ですが、こうした取り組みが面白いと全国から人が訪ねてきてくださり、すこしはまちの賑わい創生に貢献できているかな? と自己肯定しています。

すべての始まりは、個人の想い

ーひと通り3名のお話が終わったところで質疑応答タイムに。会場で話を聞いていた、北海道帯広市「満寿屋商店」の代表、杉山さんも質問者として参加してくださいました。そのやり取りも含めて、いくつかご紹介したい。

杉山さん

<満寿屋商店の杉山さんからの質問>
Q. 北海道十勝から来ました、満寿屋商店の杉山と申します。当社は1950年創業のパン屋なんですが、現在7件のパン店を経営しています。十勝は日本の農業ランキングの中で4番目ぐらいに入り、食料自給率1000%を超えています。2012年に全店全商品を十勝産小麦100%にすることができました。今後も地元産の素材を使い、地域のマイクロハピネス(小さなしあわせ)を増やしたいと思っています。そこで渡邉さんに質問なのですが、農業の未来はどうあるべきだと思いますか?

質問コーナー

渡邉さん 僕が「自然派きくち村」を始めたのも、25年前に感じた未来の食糧危機への恐れからです。農業を維持していくために大切なのは、適正価格での流通だと思います。経費は上がっているのに、道の駅の野菜の値段は30年前から変わりません。キャベツが400円になったとしたら、きっとニュースに出るでしょう。僕は農作物を農家さんの言い値で買うようにしています。そうして農作物の価値を上げていかないと、後継者もいなくなってしまうでしょう。また「自然派きくち村」では、最終的にお金を出してくれる消費者にも、その価値や背景を伝えることを大切にしています。

トークショーの様子

<観覧者からの質問>
Q. 「伊勢角屋麦酒」の規模はいまどれくらいですか?

鈴木さん 東海三県では1番、全国でもおそらく3、4番目くらいの出荷量になっていると思います。売上10億円が見えてきた時くらいから「ただ良いものを作る」というモチベーションだけではなく、「私たちのビールがそこにあることで、その瞬間が1ミリでも良いものになってほしい」という想いを持つようになりました。うちの缶ビールにも「あなたの人生にエールを!」という文言を入れて、社員やパートの皆さんともこの想いを共有するようにしています。

伊澤さん

Q. 吉田村ビレッジは、外の人に向けて作ったのか、地元に向けて作ったのか、どちらでしょうか?

伊澤さん もともと奥さんのために作ったんですが、「吉田村ビレッジ」の前身として「吉田村まつり」というのを開催していたんです。それが結果的にテストマーケティングになり、僕らがやりたいことを実施したら、感度の高い都会の女性が集まることが判明。それをそのまま「吉田村ビレッジ」の内装や見せ方の構築に役立てました。

ーこうして白熱のトークショーは、時間をオーバーして閉幕。3名のお話に共通していると感じたのは、“ヒット商品がつくりたい”、“まちを盛り上げたい”という目標を掲げるその前に、個人の「これをやりたい!」という純粋な“想い”があったのだなということ。想いがあるから何かが生まれる。そんなシンプルなことを実感したトークショーだった。

Writer : ASAKO INOUE
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Photographer : YUTA SUZUKI

伊勢角屋麦酒

URL https://www.kadoyahonten.co.jp/

伊澤いちご園

URL https://www.ichigonogelato.jp/

自然派きくち村

URL https://kikuchimura.jp/
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