「吉田村」に賑わいを。自分がほしいものをカタチにする、いちご農家の奮闘

栃木県下野市
いちごTOP
(取材月: January 2024)
冬から春にかけて“旬”を迎える甘酸っぱいいちごは老若男女に愛される果物のひとつ。そんないちごの生産量1位を誇る栃木県には、かつて「吉田村」と呼ばれる集落が存在していた。いちご栽培をはじめ、農業が盛んだった「吉田村」は、かつては活気に溢れていたが、近年は若者の流出が進み、地域全体が静かな雰囲気に。この地域に賑わいを取り戻そうと取り組むいちご農家を訪ねた。

忘れられない甘さの完熟いちご

下野市風景

関東平野の北部、栃木県の中南部に位置している栃木県下野市は、2006年に南河内町・石橋町・国分寺町が合併して生まれた。市内の東に鬼怒川と田川、西に思川と姿川が流れ、高低差があまりなく、古来より開けた平坦な地域。日照時間が長く寒暖の差が激しい気候はいちご栽培に適しているという。

ビニールハウスの中

訪れた伊澤いちご園では、栽培方式を作業しやすい高さに上げ、土を使わず溶液で栽培する“高設栽培”と、土、水と肥料で植物を育てる昔ながらの“土耕栽培”の両方で栽培。“高設栽培”は作業効率が上がるが、“土耕栽培”の方がその土地のミネラル分が生かされ、収穫量も多く、味がよく出るのだそう。

いちご 

温度管理が徹底されたハウス内で栽培しているのは「とちあいか」と「スカイベリー」の2種類。「とちあいか」は4年ほど前に新しく出てきた品種で、いちごらしい甘さと酸味のバランスが取れており、大きく、しっかりした食感のため日持ちもする。「スカイベリー」は贈答用に選ばれるような高級ないちごで、円錐型の大きなサイズ。「とちあいか」に比べるとさっぱりしていてジューシーな味わいが特長だ。

ランナー

いちごは5月ごろまで実がなるため、並行して翌シーズンの苗を育てる。高い位置に苗を植えると、「ランナー」と呼ばれる苗のもととなる細い茎がどんどん伸びて、いちごの壁のように見える。空中にたくさんできた苗を切って植え、11月ごろから実がつき始める。

実は、市場に出荷されているものは真っ赤になる少し手前の、上が青い状態のいちご。販売時に過熟しすぎないようにするためだが、いちごは色が変わるだけで追熟せず、甘さは収穫したときのままだ。つまり、出荷用として摘まれずにハウス内で真っ赤に育ったいちごは、出荷されるものよりもずっと甘いと言えるのだ。

伊澤さん

「収穫体験に来た方に話して、赤いのを食べたほうがいいよって勧めると、こんなの食べたことない、甘いって大喜びしてくれます。茨城から来た方はもうよそでは食べられないって、リピーターになって、10回以上来てくれていますね」と、代表の伊澤敦彦さんは話す。

しかし一度食べたら忘れられないほど甘く熟したいちごは、販売時に過熟状態になってしまうため、農協に出すと規格外扱い。伊澤いちご園では、一番美味しい時期のいちごを使用してジェラート事業をスタートした。

素材にこだわった“旬”の時期に味わえるいちごのジェラート

ジェラート店

下野市で生まれた代表の伊澤さんは、東京で広告系のデザイナー、アートディレクターとして勤務。いちご農家を営む父がジェラート事業を始めようとしたことをきっかけにUターンしたのち、2011年に「道の駅しもつけ」内に「GELATERIA伊澤いちご園」をオープンさせた。

「素材に焦点を当てているので、使用する原料には細部までこだわっています。たとえば普通のグラニュー糖だと甘みが強いので味を全部持っていかれちゃうんです。だから和菓子に使うビート糖だったり蜂蜜だったり、自然な甘さを選ぶ。牛乳も那須の千本松牧場の低温殺菌牛乳を使っています」

ジェラート

「いちごソルベ」はいちご本来の甘味、種の粒までストレートに感じられる、さっぱりとしたいちごのシャーベット。「生いちごミルク」は朝摘みいちごを生のまま潰して、自慢のミルクジェラートと混ぜ合わせて作られる逸品だ。
どちらも「せっかくこだわりを持っていちごを栽培しているからこそ、加工するときもこだわりをちゃんと伝えたい」という伊澤さんの想いが詰まった、いちごの“旬”の時期にしか味わえない贅沢なジェラートである。

今でこそ下野市で活躍する伊澤さんだが、もともとは地元が物足りなくて出ていったそう。

「地元には何もなかった、何かあって満たされていたら出ていかなかったと思う。余生をここで過ごすためになんでも揃う場所を作ったんです」

吉田村ビレッジ

そんな伊澤さんの想いを実らせた取り組みは、ジェラート事業以外にも多岐にわたる。2014年にイタリアンレストランをオープンさせたのち、なんでも揃う場所を作るために、県内外の飲食店やマルシェが集う「吉田村まつり」を開催。そして2021年に、もともと農協の跡地であった場所に「吉田村ビレッジ」を作り、毎日「吉田村まつり」が開催されているような空間が生まれた。

何もないまちに誇れるものを作りたい

吉田村ビレッジの内観

「吉田村ビレッジ」は“農”と“食”をコンセプトに作られた施設。施設内にはパン屋や花屋、ホテルが併設されているほか、農家のネットワークを通じて近所の農作物やお惣菜、セレクトした加工品を販売している。

吉田村ビレッジの外観

建物は農協の跡地に残る、米の備蓄用だった築80年以上の石蔵を活用。三区画に分かれていたところを一つの空間にして使っている。農協の数だけあった石蔵は大抵壊されてしまうものだが、農地だったこのあたりは市街化調整区域だったため、開発されることなく残っており、まさに怪我の功名、と伊澤さんは話す。

「このあたりはなにもないけど、農業っていうコンテンツはあったから、農と食をフックに地域に賑わいを取り戻そうと。そして当時このあたりが吉田村と呼ばれていたので、あえて旧称を使っています。人が集まるには場所が必要。集まるための場所として、まずは飲食店を始めました。そこからお祭りを始めて、こんなことがあったらいいなというものを、祭りを通して展開していきました」

「吉田村まつり」は県内外から5,000人以上が来場する大盛況のイベントへと成長し、「吉田村ビレッジ」は2022年にマロニエ建築賞を受賞するなど、活動が評価されている。

なんでもできちゃうんですよ、と話す器用な伊澤さん。このまちには都会に疲れた人はもちろん、プレイヤーにも来てほしいそう。

伊澤さん

「僕がほしいものを自分で作ってしまって。そういう場がほしいから自分で作ったけど、本音を言うとお客さんとして行きたい。マーケットは作ったから、ここで商売をやりたいと思う人に来てほしいなと。そうすると地域のキャラクターが増えていくじゃないですか。そんな連鎖があるといいよねと思います」

何もないまちに、地域の人が誇れるものを作る。そんな伊澤さんの取り組みはこれからも広がり続けていく。

Writer : MONAMI CHO
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Photographer : SATOSHI TACHIBANA

伊澤いちご園 / Gelato&Caffeいざわ苺園

所在地 栃木県下野市薬師寺3720-1(道の駅しもつけ店)
定休日 第1・第3水曜日、1月1日-3日
営業時間 10:00-18:00※6月から8月は19:00まで
URL https://www.ichigonogelato.jp/
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