川島町の味覚を凝縮した、至高のラーメン
2017年、2018年に埼玉ラーメンWalker総合1位を獲得後、殿堂入りを果たした他、同年には業界最高権威ともいわれる「東京ラーメン・オブ・ザ・イヤー」に入賞し、その名を全国に轟かせた。県内外を問わず多くの人をとりこにする四つ葉のラーメンは、岩本さんの飽くなき探求心と地元、川島町の味覚が凝縮されている。
地元愛を込めた一杯のラーメン
地元客に親しまれる寿司屋「宝船」の二代目として生まれた岩本さん。幼いころから漠然と稼業を継ぐものだと思っていたが、寿司屋の息子ながら生ものが苦手という致命的な弱点があった。
しかし、料理家の夢を捨てられなかった岩本さんは、大好きなラーメンの世界に進むことを決意。つけ麺の有名店での下積み生活が始まった。腕を磨くこと12年、独立した岩本さんは、念願だったラーメン店「中華そば 四つ葉」をオープンする。
店で人気を博すのが「四つ葉そば」と「濃厚玉子のまぜそば」。四つ葉そばのスープは、「比内地鶏」や「天草大王」などの地鶏からとった出汁に、5種の醤油をミックスしたタレと鶏油(チーユ)を合わせたもの。その味わいは、シンプルでいて濃厚。脂くどさのない上品な口あたりであり、老若男女だれからも愛される。
まぜそばは、四つ葉そばと同じ醤油ダレを麺に絡ませた。食べ応え充分で男性客からの人気が高い。麺の中央に乗った卵黄を混ぜ合わせると濃厚さがより際立ちやみつきになる。
「オープン前のメニュー開発の段階から、シンプルなラーメンで勝負すると決めていました。食べているときはもちろん、食後も美味しさの余韻がずっと続くような味が理想です。そうなると素材の味を最大限に引き出す必要がありました」と、当時をふりかえる岩本さん。
その食材への探求心や味のこだわりは今も止まることを知らず、必要とあらばレシピ変更や新食材を使うこともいとわない。
それでも、ふたつの看板メニューには創業から欠かすことのできない食材がある。「笛木醤油」の濃口醤油「金笛 再仕込生醤油」と、矢部養鶏場の鶏卵「トップラン」だ。いずれのメーカーも長年にわたって同じ川島町に拠点を置いており、岩本さんとも交流を重ねてきた。
「地元で店をやるからには、地元の食材を使いたかったんです。自分なりの方法で、川島町の味覚を発信したかった。メニューの開発にあたって、地元のメーカーを巡っていたら『金笛 再仕込生醤油』と『トップラン』に出会いました。『金笛 再仕込生醤油』がなかったらうちの味は出せません。まぜそばも『トップラン』の美味しさを最大限に生かすために開発したようなものなんです」。
岩本さんが惚れこんだ、笛木醤油と矢部養鶏場。いったいどんなメーカーなのか。現地を訪ねた。
200年以上守られ続けた醤油づくり
川島町の南北を貫く国道254号線を北上し、小路へ抜けると突如大きな蔵が現れる。創業寛政元年(1789年)、200年以上の歴史を持つ笛木醤油の本店だ。本店の裏手に設置された醸造所を訪ねると、十二代目当主 笛木 吉五郎さんがはじけるような笑顔で迎え入れてくれた。
笛木さんが案内してくれたのは、30以上の木桶が並ぶ仕込み蔵。木桶のなかでは、醤油の原料になる醪(もろみ)が発酵・熟成されている。
「丸大豆と小麦と天日塩のみを原料として、余計なものは一切使わない昔ながらの製法。木桶仕込みだから発酵・熟成に時間がかかるけれど、その分微生物の働きが促進されます」。
諸味の攪拌作業「櫂入れ」の合間、合間に笛木さんが丁寧に解説してくれる。大手醤油メーカーがオートメーション化を導入するなか、時代を逆行するような製法を続けているのは「最終的には、つくり手によって味が左右される」からだ。
笛木さんが自信をもってオススメするのが、「金笛 再仕込生醤油」だ。濃口醤油を仕込むときは塩水が使われるのが一般的。しかし、「金笛 再仕込生醤油」は贅沢にも、塩水ではなく1年かけてつくられた「金笛醤油」を使用。これにより、濃厚なコクと旨味のある醤油に仕上がる。
この濃厚な口当たりに目をつけたのが四つ葉の岩本さんだった。笛木さんにしてみれば、この醤油がラーメンに使われるのは、予想外のこと。
「これまで、飲食店では刺身などつけ醤油用に使われているのがほとんどでした。四つ葉さんが新たな可能性を見出してからは、調理用に購入する飲食店も増えていきました」。
売り切れ必至の一玉50円の高級卵
矢部養鶏場が一日に供給する「トップラン」は、およそ一万個。価格は、一玉50円ほどで決して安くはないものの、直売所には毎日客が絶えず、午前中に在庫が尽きることも珍しくない。買い求めるのは、一般家庭からプロの料理人まで様々。顧客リストにはパリの三ツ星レストランをはじめ、名店が名を連ねる。
代表の矢部一仁さんに人気の理由を聞いてみた。
「従来の卵にはない、深いコクとまろやかさが多くのお客様に支持されています。臭みがないので、『トップラン』なら生卵でも美味しく食べられる、という声も」。
矢部さんが徹底しているのが飼料の管理だ。飼料は、トウモロコシと脱脂大豆粕を中心に、アミノ酸や植物油や海藻、魚粉などを与える。産卵舎は、自然光や風が入りこむよう工夫した。これにより、鶏たちは日の入りから日没まで、自然のサイクルで一日を過ごすことができる。ゆとりのあるケージのなかでは、鶏たちが元気に動きまわりにぎやかだ。
「ひとつのケージに対して、収容する羽数を少なくしています。ケージのなかで動きまわれるから骨格や足腰がしっかり育つし、ストレスもたまりにくくなり、良い卵を産んでくれるんです」。
矢部養鶏場はもともと卸売りを行っていたが、「トップラン」の小売りだけに事業を絞ったのは、およそ30年前。矢部さんは父とともに、試行錯誤を繰り返し、「トップラン」の安定供給を実現させた。その原動力とはなんだったのか。
「労力を考えたらいま以上の量は供給できません。それでも頑張れるのは、美味しいといってくれるお客様がいるから。真摯に取り組んでいれば、いつか誰かが支持してくれる」。
その熱意に打たれた支持者のひとりが岩本さん、というわけだ。
ラーメン、醤油、卵――。活躍する業界はちがっても商品にかける想いは変わらない。手間を惜しまない三者が川島町で巡り合ったのは、決して偶然ではないだろう。
最後の一滴までに地元のこだわりが込められたラーメンを味わってみてはいかがだろうか。