ミシュランシェフの心をつかんだ、滋味深き米酢

飯尾醸造「富士酢プレミアム」
富士酢プレミアム
(取材月: October 2022)
< PACKAGE >
富士酢プレミアムのパッケージ
京都府宮津市にあるお酢屋「飯尾醸造」が製造する「富士酢プレミアム」。農薬不使用の米と水だけを原料にしており、発酵から出荷に至るまでにおよそ400日を要する。大吟醸にも例えられる味わいは、ミシュランシェフの心も動かすほど。一度使えば、その奥深さにハマること間違いなし。

飯尾醸造の「富士酢プレミアム」について、おすすめポイントをご紹介しよう。

ツンとこないまろやかな味わい

「純米富士酢」は、一般的な米酢にあるツンとした香りがしないので、様々な料理に活用できる。さらに上のクオリティを目指した「富士酢プレミアム」は、大吟醸のような味わいで、ミシュランシェフにも愛用者が多い。

「静置発酵」で酢のまろやかさを引き出す

100日近くかけてアルコールの酢酸発酵を促し、酢が完成したら300日ほど熟成。まろやかな味わいを引き出したら、いよいよ出荷。

原料は、農薬不使用の米と水だけ

「富士酢」は、農薬不使用の米と水だけつくられている。地元・宮津の米農家と契約を結ぶことで品質が担保され、棚田の景観保全にも貢献する。

まるで大吟醸のような味わい「富士酢プレミアム」

棚田

かつて、丹後国(たんごのくに)の中心地だった京都府宮津市。日本三景のひとつ「天橋立」でおなじみのこのまちで、100年以上の歴史をもつお酢屋がある。明治26年創業の飯尾醸造である。

もともとは米農家で、副業としてはじめた米酢づくりがやがて本業に。以来、昔ながらの製法を徹底して、伝統の味を守り続けている。

看板商品は「無農薬」の新米と水だけを原料にした「純米富士酢」。創業者の「日本一の米酢になってほしい」との思いから、日本の最高峰・富士山の名にあやかった。

作業行程

JAS規格では、容量1リットルに対して40グラムの米を使っていれば「米酢」と認められる。また、米の量を120グラムまで増やせば「純米酢」と表記できる。しかし「純米富士酢」は基準の5倍の量にあたる200グラムの米を使用。これにより深いコクと味わいが生まれ、一般的な米酢のようなツンとした香りも抑えられる。

さらに上のクオリティを目指したのが2007年に販売された「富士酢プレミアム」だ。こちらはなんと、1リットルあたり320グラムの米を投じている。その味わいは大吟醸のようで、どこまでも繊細。うま味も強く、一度使うと「米酢=酸味を加える調味料」という常識が覆される。国内外のミシュランシェフにも愛用され、いまや品薄状態が続いている。

「富士酢プレミアム」の開発は、4代目の飯尾毅さんの悲願でもあった。その意思を託された5代目の彰浩さんは、開発の経緯を次のように話す。

飯尾彰浩さん

「プロからも認められている『純米富士酢』ですが、じつはある課題がありました。それは『富士酢』ならではのコクのある香りです。これはダイアセチルという香気成分に由来したもので、原料米の比率が多いほど香りが濃厚になります。品質がよい証拠でもあるのですが、一般的なお酢を使い慣れている消費者のなかには違和感を抱く方も少なくありませんでした。この香りの改善こそ、4代目である父の願いだったのです」

彰浩さんは東京農業大学大学院で得た醸造の知識も活かしながら、数年がかりで独自の発酵方法に辿り着く。ダイアセチルを抑制するのではなく、ほかの香気成分を増やして “マスキング”することに発想を転換させたのだ。

「『純米富士酢』『富士酢プレミアム』は様々な料理に活用できます。酢の物や酢飯はもちろんのこと、炒め物や煮物、麺つゆなどの隠し味にもおすすめ。風味が豊かだから、塩分・糖分をカットしても美味しい料理に仕上がります。まずは、一般のお酢と味比べして『富士酢』の奥深さを堪能してほしいですね」

米づくりから酢づくりまでを担う、徹底した自前主義

飯尾醸造が農薬不使用の米を使った酢づくりに踏み切ったのは、戦後の激動真っ只中にあった1964年のこと。当時、農薬は毒性の強いものが多く、散布後の畑には人が立ち入らないように赤い旗が立てられるほどだった。「無農薬の米から酢をつくろう!」その現状を目の当たりにした3代目の輝之助さんは、一念発起して品質改善に着手する。

とはいえ、当時の農業は農薬を使うのが当たり前だった。輝之助さんは地元の農家を一軒一軒まわり、農薬不使用の米をつくってくれるように説得。受け入れてもらえるまでに2年を費やし、無農薬米を使った「純米富士酢」が完成するころには、スタートから5年の歳月が流れていた。

棚田

現在も15軒ほどの地元農家と連携して米づくりを進める徹底ぶり。飯尾醸造で栽培状況を管理し、万が一のために残留農薬がゼロであることも隈なくチェックする。

栽培に手間がかかる分、米一俵単位の仕入れ値は従来の3倍近い額になるが、彰浩さんは「当然のことです」と、こともなげに答える。2014年からは、高齢になった契約農家から棚田を借り受けるようになった。少しずつ失われていく棚田の風景を守るため、蔵人たちは夏の暑さにも負けず米づくりに精を出す。

飯尾醸造では米づくりのみならず、精米・麹づくり・酒づくりといった一連の製造工程を自前で行う。外部業者を挟まず、自社で厳しく製造管理することで品質が担保されるのだ。

作業行程

発酵の工程も手間を惜しまない。醸した酒を酢蔵のタンクに移したら、酢酸菌を投入。古来より伝わる「静置発酵」の手法に則り、80日から120日かけてアルコールを酢に変えていく。酢が完成したら、熟成の工程へ。250日ほどかけてまろやかさを引き出したら、いよいよ出荷だ。

作業行程

「日本各地に数多あるメーカーのなかでも、無農薬米づくり、酒づくりまで自社で行っているお酢屋は飯尾醸造だけでしょう。醸した酒のすべてが酢づくりに使われるから、うちの杜氏は日本で一番不憫な杜氏かもしれない(笑)」。

多彩なイベントを通じて、酢の可能性を切り拓く

彰浩さんに代がわりしてからは、顧客との交流の場が積極的に開かれるようになった。彰浩さんは自ら「手巻キング(テマキング)」を名乗り、全国行脚。各地の飲食店や料理家と手巻き寿司パーティーを開いて、酢の魅力を発信する。これまでの参加者はのべ5000人以上。このイベントをきっかけに「富士手巻きすし酢」も開発された。

2018年には、酢飯の品質向上を目的とした「世界シャリサミット」を地元・宮津で開催。座学あり、実技ありのイベントで、国内外から総勢50名の鮨職人が参加した。海苔や醤油などの生産者も会場にブースを出展し、ちょっとした見本市の様相に。2022年の第3回サミットも盛況のうちに幕をとじ、定番のイベントになりつつある。

aceteの外観

こうした活動の傍らで、彰浩さんは地域の活性化にも取り組んでいる。2017年、宮津市内にあった古民家を改装して、イタリアンレストラン「aceto(アチェート)」をオープン。シェフが腕をふるう料理にはもちろん「富士酢」が使われている。

aceteの料理

「宮津を、スペインのサン・セバスチャンのような美食のまちにしたい」。そんな彰浩さんの熱意に引き寄せられて、気鋭の新店も増えてきた。「aceto」の隣にはカウンター6席だけの鮨割烹もオープン。いま、飯尾醸造を中心に、まちの風景が少しずつ変わりはじめている。

Writer : NAOYA NAKAYAMA
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Photographer : CHIE MARUYAMA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

株式会社飯尾醸造

株式会社飯尾醸造
所在地 京都府宮津市小田宿野373
TEL 0772-25-0015
URL https://www.iio-jozo.co.jp/shop/

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

京都・宮津イタリアンレストラン aceto

京都・宮津イタリアンレストラン aceto
所在地 京都府宮津市新浜1968
TEL 0772-25-1010
定休日 月・火
営業時間 18:00〜23:00(最終入店 20:30)

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

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