にっぽんの駅弁。 郷土の味、文化、想いを醸す各地の駅弁
四季折々の景色を眺めて味わう駅弁は格別であり、その瞬間にしか体験できない“旬”の旅を演出してくれる。
その地域ならではの駅弁との出会い。それは旅の一つの楽しみともいえるだろう。
地域ならではの駅弁で旅を楽しむ
全国に鉄道が走る日本。明治時代、鉄道の開通とともに誕生した「駅弁」は、昭和後期には、鉄道を利用した個人旅行ブームを受け、各地の食材や風土、郷土料理をテーマにした郷土色に富む弁当へと発展してきた。
現在もその人気は衰えず、旅の一つの楽しみとして、その土地でしか味わえない駅弁は多くの人の旅の記憶に彩りを添えている。
今回は、数ある駅弁のなかでも、旅を一層楽しくさせるような各地域の駅弁を紹介する。
●北海道 北海道函館市「大玉ほたてと大漁ウニ弁当」(吉田屋)
北海道の海の幸がぎっしりと詰まった駅弁。
思わず目を奪われるのは、弁当の真ん中に鎮座した大粒のほたて。その周囲に惜しげもなく敷き詰められた蒸しウニと、キラキラと散りばめられたイクラは、なんとも北海道らしく、食材の質の良さで勝負した豪勢なお弁当だ。具材の下のご飯は、海鮮の出汁が効いた炊き込みご飯。ウニやホタテと一緒にかき込めば、磯の香りと旨みが口いっぱいに広がる。駅弁とは思えないほど、一つひとつの食材の活きがよく、満足感の高い一品に仕上がっている。
この駅弁をつくる吉田屋は、2016年の北海道新幹線開業の際、新函館北斗駅に「BENTO CAFÉ 41°GARDEN」をオープン。ここでは自分の好みでメニューを組み合わせられる駅弁のほか、出来立てを楽しめる新作の「大玉ほたてと大漁ウニ弁当」が好評だ。
新たな駅弁のかたちの発見と北海道の美味を求めて、北海道新幹線に乗り込むのも良さそうだ。
販売駅:新函館北斗駅
●東北 青森県八戸市「八戸小唄寿司」(吉田屋)
八戸近海で獲れる鯖と紅鮭を丁寧に押し寿司にした駅弁。
1953年の八戸駅開業時、「八戸らしい駅弁をつくりたい」という想いのもと地元の有志が集まり、八戸に水揚げされる鯖と奥入瀬川の虹鱒でつくった弁当がはじまり。その後、老舗弁当屋である吉田屋が引き継ぎ、虹鱒のかわりに紅鮭を使った「八戸小唄寿司」が生まれた。
当初はつくっても全く売れない日々が続いたが、首都圏の駅弁の催事で評判を呼び人気に火が付いた。それからも昔ながらの手作りで、化学調味料を使用せず、しっかりと酢の効いた分厚く食べ応えのある鯖と鮭が醸し出す絶妙な味わいを守り続けている。
駅弁名にもなった「八戸小唄」は、地元に根付く長唄だ。容器はこの長唄を伴奏する三味線の胴をかたどり、演奏するバチ型のナイフで押し寿司をカットできるという遊び心も。
八戸駅とともに歩む吉田屋が、守り、届ける「八戸小唄寿司」。一度その味を堪能してほしい。
販売駅:八戸駅、新青森駅ほか
●関西 三重県松阪市「モー太郎弁当」(駅弁のあら竹)
松阪市のブランド和牛「黒毛和牛」を贅沢に使用した駅弁。
パッケージの牛の表情に思わず目を奪われ、ふたを開けると童謡「ふるさと」のメロディが流れ出す仕掛けつき。そうした目・耳へのインパクトがまず大きいが、味も「松阪」の名に違わぬ一品だ。
肉は地元の松阪牛・黒毛和牛専門店から毎朝仕入れる厳選の黒毛和牛のみを使用し、その旨みを引き出すため自家製の煮汁に土しょうがの千切りを入れて炊くのがこだわり。一口頬張れば、その匂いや味わいが口いっぱいに広がる。
「モー太郎弁当」の生みの親である代表取締役社長の新竹浩子さんは、「郷土の誇りとして来客の際にご馳走できるよう、みんながあっと驚く駅弁をつくりたかったんです。駅弁は旅を楽しくする重要な要素。ふたを開けるまでにワクワクして、食べれば必ず美味しいこと。それが私の信条です」と話す。
「ふるさと」を聴きながら、駅弁の原点ともいえる“懐かしい郷愁”を感じ、言わずと知れた松阪の美味を味わえば、その旅は贅沢な時間になりそうだ。
販売駅:松阪駅
●北陸 福井県「越前かにめし」(番匠本店)
1961年、福井の駅弁会社として地元の特産である越前ガニを使った駅弁をつくりたいとの想いから生まれた駅弁。
現在は越前ガニではなく、ズワイガニの雌(セイコガニ)の赤身・卵巣・みそなどをほぐして炊き込んだご飯に、紅ズワイガニとズワイガニの身を敷き詰めた、カニづくしの弁当となっている。セイコガニは小さいながらも、内臓は独特の風味をもつ珍味として定評がある。さらに水分が多く酢でしめることが多いカニの身も、独自の調理法でカニ独特の香りや味わいを楽しめる炊き込みご飯に仕上げた。
一目で「越前かにめし」と分かることにこだわったパッケージは、発売当初は茶色の陶器だったが、昭和後期に赤いプラスチック容器となり、その後も何度かの改良を重ねている。 その場で食べるのも良いが、持ち帰り電子レンジで温めると、香りが引き立ち一段と美味しいという。
旅の思い出に「越前かにめし」をお土産に、自宅で福井の旅の余韻を味わうのもよさそうだ。
販売駅:福井駅、金沢駅 ほか
●中国・四国 高知県「鯖の姿寿し」(安藤商店)
お頭と尾っぽがついた鯖まるごと一尾を姿寿司にした駅弁。
「鯖の姿寿し」は高知の郷土料理である皿鉢(さわち)料理の一つ。皿鉢料理とは宴席の料理で、鯖の姿寿司のほかに、にぎり寿司、羊羹、揚げ物などを並べて「組み物」という種類の皿鉢ができあがる。高知県では今でもお正月やお祝いの席には、各家庭で皿鉢料理がつくられており、鯖の姿寿司も故郷の味として根付いているという。
そうした昔ながらの郷土料理を駅弁にした「鯖の姿寿し」は、竹皮の包を開くと、まるごと一尾の鯖が現れ、思わず声をあげるほど圧巻だ。
高知近海で水揚げされた鯖を背開きにし、胴体から頭にまでぎっしりと酢飯が詰め込まれている。餅米入りの酢飯は粘りのあるもちもちとした食感ながら、高知県特産の柚子酢を使い、さらにシソ、ゴマを混ぜ込むことで飽きのこないさっぱりした味わいだ。
高知の郷土の味を堪能するだけでなく、見た目のインパクト、ボリュームともに記憶に深く刻まれる駅弁だろう。
販売駅:高知駅
●九州 佐賀県有田町「有田焼カレー」(創おおたギャラリー)
地元有田で400年以上の歴史のある焼き物「有田焼」を器にした焼きカレーの駅弁。
2007年、有田駅の駅長だった西田さんと、有田焼のギャラリー&カフェレストラン「創ギャラリーおおた」を経営する太田さんが、低迷する有田焼を盛り上げようと、カフェのヒットメニューであるカレードリアを有田焼の器に入れ、駅弁として販売したのが「有田焼カレー」だ。
初の焼きカレー駅弁となった「有田焼カレー」は、地元佐賀県産米と佐賀牛をはじめ佐賀県産牛を使用。28種のスパイスとともに牛肉と玉ねぎをじっくり煮込み、長時間の持ち運びも可能な駅弁オリジナルレシピを作った。
企画者である太田さんは「歴史ある焼き物の産地であることと、有田町の美味しい水によって『有田焼カレー』が出来上がりました。地元のことや有田焼の素晴らしさを知ってもらいえれば嬉しいですね。ぜひ皆さんに有田に来て頂きたいです」と話す。
食後の有田焼の器は麺類や丼もの、煮物料理など様々に利用できそう。有田を訪れた記憶を、いつまでも残してくれる駅弁だろう。
販売駅:有田駅
地元を誇る作り手の想いまでも受け取れる駅弁
今や、地元の食材、郷土の味を体現した駅弁は数多くある。そのどれもが、地元を誇り、地域の食に感謝する作り手たちの気持ちから生まれたもの。
休日は足を伸ばして各地の駅弁を楽しむのはいかがだろうか。たくさんの駅弁の中からどの駅弁を選ぼうか悩みながら、その土地の食材や文化を知り、また地元の人々の想いまで受け取れる。きっと特別な旅になるだろう。