砂地で育つ「まほうのトマト」と色とりどりの西洋野菜

福井県福井市白方町
(取材月: October 2020)
福井県福井市の北部、日本海側の白方町にある「ワトム農園」は、一般の消費者はもちろん、有名レストランや料理研究家からも熱い支持を受ける一風変わった農園だ。美しく整えられた花園のようなハウスの中では色とりどりの野菜やハーブ、エディブルフラワー(食用花)が栽培されている。農園主は共に一般企業を経て、2008年に新規就農した2人組。今回は個性あふれるワトム農園をご紹介したい。

水分コントロールのしやすい砂地の農園

ワトム農園は、坂井市の三国港から海岸線に12kmに渡って南西に長く延びる、三里浜砂丘地という地帯にある。土壌は文字通りさらさらとした砂地で、同地域では県の名産であるらっきょうやスイカ、大根などが主に栽培されている。

ワトム農園がこの場所を選んだのは、ある特殊なメロンをつくりたかったからだと話すのは、創業者の1人である佐々木済さんだ。

「タクラマカン砂漠でつくられているハミーメロンというすごく美味しいメロンに出会って、日本でもどうにかつくれないかと、現地と似た環境を探してここにたどり着きました。4kgにもなる大きなメロンで、現在はうちの夏の商品として『恐竜のたまご®』という名前で販売しています。福井県は恐竜王国として有名で、見た目も恐竜の卵に似ているんですよ」。

砂地は水はけが良く、土中に余分な水分を溜めることがないので、作物に必要な水分の調整がしやすいのだと言う。

ワトム農園は佐々木さんと、もう1人の創業者・品川勉さんが2008年にスタート。「ワトム」という農園名は、二人の名前を合わせたものだ。佐々木さんは化学メーカー、品川さんは商工会議所出身で、農業の経験は全くなかったという。

「食べ物をつくる仕事がしたくて、会社を辞めて農業をすると決意。そのタイミングで、たまたま同じ考えを持つ佐々木に出会いました。佐々木は化学の知識があるので、肥料の調合や栽培計画は彼に任せています」と、品川さん。

型にはまった栽培方法にならないよう、独学で農業を研究。福井県認定エコファーマーの認定も受け、減農薬で安心安全、かつユニークな野菜たちを生産している。

トマトの概念を覆す「まほうのトマト」

彼らがメインで栽培しているのが、つやつやと真っ赤なミディトマト「まほうのトマト」。6〜11月の栽培期間の中でも、暑さが和らいできた秋頃が一番美味しく実る季節だ。

“まほうの”という名前の理由は、トマト嫌いの人でも食べることができる特徴的な味わいにある。ハウスにたわわに実った「まほうのトマト」を一つもぎって食べてみると、皮が薄く、プチっと弾ける実は驚くほどみずみずしい。酸味は穏やかで種もなく、さっぱりとしている。

「果肉がざらっとしていたり、すっぱさやトマト特有の香り、種があることなどがトマトが嫌われる主な理由なのですが、『まほうのトマト』はそれがないんです。酸味が少ないことで自然な甘みも引き立って、より美味しく感じられると思います」と、佐々木さん。

「まほうのトマト」と同じ種苗を他の農園で育てても、同じような仕上がりにはならない。栽培方法についても、かなりの研究を重ねたそうだ。その栽培方法の秘密を佐々木さんが少しだけ教えてくれた。

「紫外線の照射量が多すぎると、トマトは実を守ろうとして皮が厚くなってしまうので、適度にトマトを覆って光の量を調整します。また、基本的にトマトは水をあげないほうが甘くなるのですが、水分不足もまた皮が厚くなる原因に。なので、こまめにトマトの声を聞いて、水が欲しそうであれば与え、暑そうなら涼しくする」。

ワトム農園では除草剤を一切使わないため雑草を手で抜いたり、実が大きくなってきたら自重で茎が折れないように糸で吊るしたりと、手間暇のかかる作業もある。

そして、栽培の上で一番大切にしているのはトマトにストレスを与えないこと。無理に糖度を上げるようなこともせず、自然の甘みを最大限に引き出すことで、魔法のように美味しいトマトは出来上がる。

料理人御用達。カラフルな西洋野菜とエディブルフラワー

そのほかにワトム農園が手掛けているのが、西洋野菜とエディブルフラワーだ。農業をやるなら誰もつくっていないものをつくりたいと始めたところ、レストランや料理研究家からのリクエストを受けて、どんどん種類が増えていった。西洋野菜はイタリア野菜を中心に、赤や紫の色鮮やかな大根などを栽培。年間120種類ほどの品種を育てている。

「しばらくは、新型コロナウイルスの影響で行けそうにありませんが、毎年海外に行って、現地の珍しい野菜を探してきては試験栽培。海外では野菜の品種探しだけでなく、その野菜がどんなサイズでどういう風に売られているか、レストランでどんな調理法で食べられているかもリサーチします」と佐々木さん。

取材時にハウスで栽培していたのは、年末から年始にかけて収穫するカリフラワーやロマネスコ、ドイツ語でカブとキャベツという意味を持つコールラビ、ロロロッサなど様々な種類のレタス、マスタードリーフなど。どれも色や形が個性的で、畑を見ているだけでも楽しい。

さらに他のハウスに行くと、赤やピンクの花々が咲き乱れるエリアがある。ここではフクシアというオーストラリアの珍しい品種や、白くて小ぶりの花がかわいらしいスイートアリッサムなどの食用花とハーブを栽培。スーパーではあまり見かけないが、フレンチやイタリアンのレストランでは、お皿を美しく彩る名脇役として活躍する。できるだけ農薬を使わずにきれいな花を咲かせるのは至難の技だが、ここでも佐々木さん独自のメソッドが発揮されている。

「ハウスの壁に0.4mmという、とても目の細かいメッシュを張っています。こういった作物につく虫で一番小さいサイズが0.4mmなので、虫が入ってこられないようにするためです。また農薬の使用量を最小限に抑えるために、散布のタイミングを月の満ち欠けに合わせています。珊瑚が満月の夜に産卵するのと同じで、虫たちも満月と新月に活発に産卵する。だから農薬はその前にまいておくと、効率がいいんですよ」。

エディブルフラワーやハーブは鮮度が命。レストランでフレッシュなものを使えるように、日持ちする品種を中心に栽培したり、マイクロリーフと呼ばれるミニサイズのルッコラやフェンネルは小分けに植えて、株付きのまま出荷する。ワトム農園の農業には、従来にない斬新なアイデアがあちらこちらに散りばめられている。

見た目も楽しく、食べて美味しい野菜を届けたい

最後にハウスの奥に用意されたテーブルで、農園の野菜を使ったフルコースを頂いた。料理はすべて、佐々木さんと品川さんのお手製。日々野菜を栽培しながら「こんな風に食べたら美味しいだろうな」というアイデアを膨らませ、農園を訪れるお客さんにふるまっているそうだ。

コースはレモングラスやカフィアライムを使ったスパークリングウォーターから始まり、数種のレタスやエディブルフラワーを合わせたサラダ、「まほうのトマト」のスープや、カラフルな根菜のグリルなど。どれも味付けは最小限に、素材そのものの味わいや香りを堪能できるものだった。

「食べ物は人間の生活になくてはならないもの。安心安全でフレッシュな、おいしくて見た目も楽しい野菜をこれからも作っていきたいです」と笑顔で話す品川さんは、心底農業を楽しんでいるように見える。

食の楽しみを広げてくれる、ちょっと変わった野菜やエディブルフラワーたち。あなたも日々の食卓に取り入れてみてはいかがだろうか。

福井市の「まほうのトマト」

情報提供:ワトム農園 佐々木済さん

“旬”の時期

6~11月

目利きポイント

(春・秋)
樹上完熟で収穫するため、真っ赤〜赤黒い、濃い鮮やかな色のトマトを選ぶ
しっとりと深い味わいが楽しめる

(夏)
暑い時期は熟すのが早いため、パンと張った光沢のあるトマトを選ぶ
爽やかでさっぱりとした風味が楽しめる

美味しい食べ方

(春・秋)
生でも、炒めたり煮たり加熱調理にも万能

(夏)
カットしてサラダやカプレーゼに

Writer : ASAKO INOUE
 / 
Photographer : SHIOMI KITAURA

ワトム農園

所在地 福井県福井市二の宮3丁目4-32
URL https://watom.net/

福井県  観光情報

japan-guide.com https://www.japan-guide.com/list/e1223.html
Japan Travel https://ja.japantravel.com/fukui
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