青森の海と人が届ける大間のブランドマグロ
その大きさは300kgを超える時もあり、過去には東京・築地市場の初競りで億単位の値が付いたこともある。
鮮度にこだわる大間のマグロ漁
100年以上の歴史を持つ大間のマグロ漁の中で知る人ぞ知る大間漁業協同組合理事の竹内薫さん。竹内さんは2001年の築地市場の初競りで202kgの本マグロを出し、当時史上最高となる2020万円の値を記録した漁師だ。
現在は、息子さんにマグロ漁を受け継ぎ、自身は長年培った目利き力で、獲れたての「大間のマグロ」を提供している「魚喰いの大間んぞく」という飲食店を切り盛りしている。
本マグロは南から桜前線とほぼ同じ速さで太平洋と日本海に分かれて北上し、大間にやってくる。大間沖での漁期は毎年変わるが、水温が10℃を下回る冬ごろにマグロは再び南下していく。
「津軽海峡はエサが豊富で、水温も低すぎず高すぎずマグロにとっては適温。また、港から1~3キロ先の近海が漁場なので鮮度が高い状態で水揚げできます。例年11月下旬から12月くらいにかけてが一番脂ののる時期。これからどんどん太っておいしくなってきますよ」と竹内さんは教えてくれた。
「大間のマグロ」の漁は主に“一本釣り漁法”か“はえ縄漁法”と呼ばれる漁法で行われる。一本釣り漁法とはその名の通り、一本の釣糸の先に餌を付けて釣り上げる大間の代表的な漁法。はえ縄漁法とは一本の長い縄に、たくさんの釣り針の付いた枝縄を海中に垂らす漁法のことをいう。竹内さんは少しでもマグロの質を上げるために重要なのが“焼けを防ぐ”ことだと話す。
「マグロは掛かった瞬間、必死に逃げようと格闘します。すると体温が40℃まで上がってしまい身が焼けてしまいます。焼けるとピンク色に変色し、硬い食感になってしまう。そうなると市場でいい値が付きません」。
さらに鮮度を保つために船上での処理も徹底している。マグロが揚がったらすぐにエラを取って尾びれを切り落とし、内蔵を取り出してから塩水で洗い、氷水に入れる。この処理をしているかいないかで、鮮度が全く違うという。
人生を賭ける大間のマグロ漁
漁師にとって、マグロ漁は賭けだと竹内さんは話す。
「マグロ漁は一か八か。一ヶ月、二ヶ月獲れないなんてしょっちゅうです。でも、そこに人生を賭ける価値があるし、賭けられる人間だけが生き残っていく。獲れた時のうれしさは、何物にも代えがたいですから」。と竹内さんは話す。
「大間のマグロ」と言えば、美しいサシの入った大トロを思い浮かべるが、竹内さんは「大間のマグロ」の旨さは赤身にあると断言する。
「寒い時期の赤身はもう最高。一級、いや特級品かな。色は鮮明な濃い赤で、旨みの中にかすかな酸味がある。この赤身は『大間のマグロ』以外では食べられませんね」。
実際に食べてみると、食感はとろりと舌にまとわりつくように柔らかく、ほのかな酸味が漂う。存在感のある「大間のマグロ」の赤身に、我々は一瞬で魅了された。
“旬”の「大間のマグロ」を届けるための最新冷凍技術
誰もが一度は食べたいと思う「大間のマグロ」。一番美味しい時期のマグロをより多くの人に食べてもらおうと、県内では保存技術も進化している。弘前水産地方卸売市場を運営する弘前丸魚は最新の冷凍施設「プロトン冷凍」を5年前に導入した。
「電磁波で冷気を伝え8?10時間かけて冷凍することにより、氷の結晶を小さく均一に形成し、マグロの細胞を壊さず、ドリップ(解凍した時に出る赤い液体)も抑えることができます」。と教えてくれたのは、弘前丸魚の取締役営業本部長・伊藤一弘さん。
プロトン冷凍によって、脂が一番のった時期のマグロをおいしく長期間保存することが可能になったという。現在は国内の飲食店を中心に出荷しているが、将来的には海外にも届けられればと伊藤さんは話す。
「もちろんソフトがしっかりしていないと、ハードは使えない。せっかくおいしい『大間のマグロ』があるのだから、こうした技術を使って、お盆やお正月などマグロの水揚げが少ないおめでたい日にも皆さんに食べていただけるようになればと思っています。それで青森の良さをもっともっと知ってもらえたら嬉しいですね」。
豊かな海、人生を賭けた漁師の想い、鮮度処理。どれ一つ欠けることなく形成されるが故に、「大間のマグロ」は日本を代表するブランドマグロとして君臨する。
青森の海と、人の手が育てる「大間のマグロ」。その味を、ぜひ一度体験してみてほしい。