会津の秋の風物詩 一つひとつ手間暇かけた「みしらず柿」の魅力
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福島県会津地方の中心地である会津若松市は、江戸時代に会津藩の城下町として栄えた地。現在もまちには鶴ヶ城がそびえたち、幕末期の白虎隊、会津塗の朱漆の器で食す郷土料理「こづゆ」や、伝統工芸「赤べこ」といった歴史・文化を楽しみに、全国から多くの観光客が訪れる。
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そんな会津の隠れた名物が「みしらず柿」。栽培の歴史は古く、室町時代に足利将軍に献上されたというエピソードが残っている。今も毎年皇室に献上される「献上柿」として有名で、会津で柿といえば「みしらず柿」というほど、地元では馴染みのある存在だ。今回は会津若松市で85年続く柿農園「会津松原農園」を訪れた。
先代から受け継いだ自然と共生する柿づくり

会津松原農園があるのは会津若松市の南部・花坂地区。5代目として2021年に農園を引き継いだ島影亮輔さんは、先代である父親が大切にしていた“自然と共に生きる柿づくり”を守っている。
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「なるべく農薬は使わず、生き物のフンや死骸、野菜くずも肥料として活用します。また柿の花が咲く夏には、養蜂業者の蜂箱を置いていて、ミツバチが飛び交う様子が見られますよ。理想は一面がクローバーで覆われた、生き物も喜ぶような農園をつくることです」と、島影さん。農園を見渡すと、クローバーが生い茂る緑色の地面と、たわわに実る橙色の柿とがとてもきれいなコントラストになっていた。

一方で島影さんはITエンジニアとして会社員をしていた経験を活かし、農業×ITにも積極的だ。たとえば柿の貯蔵庫の温度を自宅サーバーで管理したり、農園で使う器具を3Dプリンターで自作したりと、今後もデジタル技術を活用した農業の可能性を探っていきたいという。
手間暇をかける、作り手の想いが込められた「みしらず柿」」

「みしらず柿」の品種名の由来には諸説あり、室町時代に柿を献上された足利将軍が「未だかかる美味しい柿を知らず(これほど美味しい柿は初めて食べた)」と賞賛したからとする説や、枝が折れるほど大粒の実をつけることから、身の程知らずな柿=「みしらず柿」となったのではないかといわれている。その味は、上品な甘味となめらかな舌触りが特長で、柿の常識を覆す美味しさと言われており、「普段柿が苦手な人が、みしらず柿はすごく美味しい、この柿だけは食べられる、と言ってくれると本当にうれしいですね」と、島影さん。
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島影さんのこだわりは、直径8cm以上になる大玉の「みしらず柿」をつくること。大きい方が甘くて美味しい柿になる。冬に行う枝の剪定と6月の摘果は、果実に養分を集中させるための大切な作業。一つひとつ手間暇をかけられるよう、農園の規模は小規模に留めている。
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もう一つ重要なのは、完熟するまで収穫しないこと。無理に太陽光を当てて色づきを早めるようなことはせず、自然に熟し色づくまでとにかく待つ。寒暖差の大きい会津若松の気候によって柿の糖度はぐんぐんと増していくが、霜が降りると柿が凍って傷んでしまうため、収穫タイミングをはかるために日々の天気予報チェックは欠かせない。
「収穫期間は10月25日から11月20日くらいまで。霜注意報が出たら枝に残っている柿を一気に収穫しなければならないので、その日はとても慌しくなりますね」と、島影さん。
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「みしらず柿」は渋柿なので、出荷前に最後の仕上げとして“渋抜き”をする。渋抜きとは柿に焼酎をかけて窒息状態にし、渋みの元となるタンニンを抜く作業のこと。島影さんは地元産の粕取り焼酎を使う。箱詰めした柿の上から焼酎をかけ、そのまま封をして出荷。かけた焼酎によって柿の渋みが抜ける2週間後、島影さんがスタンプで記した開封日にお客さんが箱をあけると、渋みが抜けた甘い柿がお目見えするのだ。
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「みしらず柿」の美味しい食べ方と不思議な力
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詳細は会津松原農園HP参照
成熟具合によって3種類の食感が楽しめる「みしらず柿」。食べ頃は好みによるが、島影さんのおすすめは橙色で少し柔らかくなった頃合。なめらかな食感をそのまま味わうのはもちろんだが、おすすめの食べ方として、カッテージチーズと合わせたり、白和えにアレンジしたりしても美味しいとのこと。
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「みしらず柿には、人と人とを繋げてくれる不思議な力があるんです」と、島影さん。自身が会津を離れて東京に出たことで、その魅力を一層感じたそうだ。
「収穫の時期には友人知人だけでなく、様々な人が農園に来て楽しんでくれて、自分も東京からここへ戻ってきたように、みしらず柿には人を繋ぎ止めたり、人の輪を広げてくれたり、不思議な効能があるような気がします。今後もたくさんの人に農園に来てもらって、収穫作業や摘果などもぜひ体験してほしい。自然と繋がる瞬間を感じてもらえる、オープンな農園にしていきたいです」
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紅葉が美しい会津のベストシーズンに、美味しい柿と会津の空気を感じに、会津松原農園を訪れてみてはいかがだろうか。