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THE POWER OF SHUN(October / BACK NUMBER 2016)

SHUN STYLE

茶師十段が手塩にかけて創りだす“匠の抹茶”

―京都府
宇治抹茶

(取材月:February 2016)

京都府南部地域で育まれる「宇治抹茶」。抹茶とは緑茶の一種であり、茶道で使われる茶として、日本の伝統文化とも深い関わりを持つものだ。そもそも「茶」は、奈良・平安時代に中国・唐で修業をしていた修行僧が、眠気覚ましや気付け薬として嗜んでいたものを日本に持ち帰ったのが始まりといわれている。それ以降、京都では時の権力者が茶づくりを保護したこともあり、いまもなお良質な茶(宇治抹茶)が作り続けられている。

そしていまでは、抹茶はお菓子の素材としても使われ、その味わいは日本人だけでなく、世界の人に愛されている。今回は茶の一大産地で、抹茶の魅力をもっと多くのカタチにして届けたいという想いから、抹茶づくりに挑戦している一人の茶師を訪ねた。

茶師十段が創りあげる理想の抹茶

茶師とは「茶を創る」職人のこと。茶葉を審査、判別し、それぞれの個性を活かしながら合組(ごうぐみ:ブレンドの意)することで、表現したい茶の味を生み出す匠だ。茶師には茶の鑑識眼の技量を示す段位(茶審査技術)があり、その最高位となる十段に認定されたのは歴代でもたった13名のみ(2015年現在)。その最高位となる十段を持ち、創業180年以上になる宇治茶の老舗「放香堂」の六代目茶師・東 源兵衛を受け継いだのが、酢田恭行さんだ。酢田さんは茶葉の選定や合組といったことだけでなく、茶畑の段階から茶の味づくりに取り組み、日々茶園を巡りながら、農家と一緒になって栽培方法を探っている。

「私はこの茶畑が全てだと思っています。茶畑から関わらないと、絶対に自分が思い描くような抹茶はつくれません。私たちは自社茶園や管理茶園を持っているので、ブレンドや鑑定をしながら茶畑づくりもする。それが私の思う“茶を創る”ということなんです」

同じ地域にある茶畑でも、品種や気候、土壌によってその個性は全く異なる。酢田さんは茶を栽培することを、“人間を育てるのと同じようなもの”と表現する。

「毎日茶畑に通っていると茶の木の機嫌の良し悪しがわかってくるんです。たとえば茶の木が元気がない時は、布団をかけるように根っこに敷き草を敷いてやる。肥料も、元気のない時に人間がステーキを食べられないのと同じように、茶の木が欲しいタイミングで肥料を与えてあげる。それは先人が教えてくれたことであり、経験によって培われた感覚でわかるようになります。陽気で明るく手のかからない茶畑もあれば、放っておくとすぐに拗ねてしまう茶畑もあったりと個性も豊か。茶畑は毎日見ていても飽きないですね」。

手塩にかけて育てた茶の葉の“旬”は2、3日。短い時はわずか1日のみと一瞬。酢田さんはその瞬間を逃さず摘み取るため、4月後半~5月末の収穫期前後は片時も茶畑から離れないという。また、酢田さんは茶師としての繊細な味覚や嗅覚を守るため、酒やタバコはもちろん、唐辛子やワサビなどの刺激物を一切摂らないという徹底ぶり。酢田さんの行動や言葉の全てから、茶への深い愛を感じた。

茶師十段

茶畑

酢田恭行

後世に残したい、茶のある風景

茶は“茶の木”と呼ばれる木の一種であることから、山間部である京都府南部の土壌はその生育に適しているという。寒暖の差が大きい気候と豊富な木津川の水源も、古くからここで茶づくりが浸透してきた所以だ。山肌に波を描くように広がる茶畑の光景は、壮大でとても美しい。

抹茶の原料となる茶葉の「てん茶」は、茶園をヨシズやワラなどで覆い、日光を遮って育てられる。収穫後はすぐに加工工場へと運ばれ、蒸してから「てん茶炉」と呼ばれる機械で熱を与えながら乾燥し、茎や葉脈を取り除く。そうして出来上がったてん茶を挽いたものが、抹茶となる。

「茶を美味しく飲める場所がある」と酢田さんが連れて来てくれたのは、南山城村の童仙房(どうせんぼう)にある陶芸家・清水善行さんの家。築80年になる日本家屋の中には、こたつのある和室があり、格子窓その外には茶畑が広がっている。

“急須で茶を飲む”ということを文化としてずっと残したい。そう思っている酢田さんは日本各地で茶器を作ってくれる陶芸家さんを探すうちに、清水さんに出会ったのだそう。地元の土で作る器を始め、味のある清水さんの作品と人柄に心奪われたのだという。

清水さんが煎ってくれた香ばしいほうじ茶をいただきながら、酢田さんは茶師としての願いを語ってくれた。「童仙房にきた時にはいつもここに寄り道するんです。こういう空間に来ると、急須で茶を入れてお話したくなるでしょう。この“団らん”こそが、日本の茶文化と思っています。茶師の技術うんぬんよりも、こうした風景をもっとみなさんに伝えていきたいです」。

茶畑

てん茶

  • 茶道
  • 抹茶
  • 茶文化
  • 抹茶

京都府南部「宇治抹茶」
情報提供:放香堂 酢田恭行さん

宇治抹茶

“旬”の季節
抹茶は新茶の季節である4月上旬〜5月上旬よりも、ひと夏寝かせた(熟成させた)もののほうが美味。茶の世界では寝かせる(熟成させる)ことを「枯れさせる」という。

株式会社放香堂

本社所在地 兵庫県神戸市中央区元町通り3丁目10-6
TEL 0120-088-450
URL http://www.hokodo.co.jp/
  • 放香堂

陶藝家清水善行

URL http://www.shimizu-yoshiyuki.com/

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