目利きが語る:春が“旬”の魚「桜鯛」
春の訪れを味わう「桜鯛」
鯛といえば名前のとおり、「おめでたい」席で主役級の位置を占める魚。語呂合わせの縁起物というだけでなく、白く細かな身質をもち、とても上品な味わいの魚だ。
私たちが単に「鯛」と短く呼ぶときは、通常マダイのことを指す。他にもイシダイやキンメダイなど、姿かたちが違う鯛が何百種類もあるのだという。世界中に数多くの種類のある鯛だが、「やはり和食に一番よく合うのはマダイですね」と、根岸さん。
「マダイは日本各地で一年中獲れますし、養殖も盛んなのでスーパーマーケットなどでも手に入りやすい魚ですが、質のよい鯛を選ぶなら天然物がおすすめです。日本では南の地方に有名な産地が多いですね」。
天然物と養殖の見分け方のポイントは、尾びれと腹びれ。どちらもきれいに揃っている状態のものが天然物。養殖だと魚同士で噛み合ったりしてしまうので、ひれがすり切れてしまっていることが多いそうだ。天然物のなかでも、網ではなく一本釣りで釣り上げられたものは、網などの傷も付かないため、さらに高級品ということになる。
「天然物の“旬”は春と秋。近海の浅いところまで回遊してきて、たくさん漁獲できる季節が春と秋ということになります。特にマダイは、春は“桜鯛”、秋は“もみじ鯛”などと呼ばれます」。
美味しい桜鯛の選び方
「いまの時期が“旬”の桜鯛は、若い魚を皮ごと食べるのが醍醐味なので、1尾1kg未満の小さめの鯛を選ぶのがおすすめです。若い鯛は皮が柔らかく、皮の下についている脂に爽やかな風味があります。反対に、卵を抱えている産卵直前の雌の鯛は身の味が落ちてしまっていますのでおすすめできません。若さを見分けるポイントは背側の斑点。若いうちは青みがかってきれいな斑点ですが、年を取るにつれてくすんでいきます」。
根岸さんによると、小さめでも太って厚みと張りのある桜鯛がよいとのこと。魚全般にいえることとして、身の付き方がよいと相対的に顔が小さくみえるので「小顔で目が澄んでいて、笑っているような感じがする」というふうに、直感で選んでもよいのだと教えてくれた。
「今日の仕入れのような、1kg未満の若い鯛だと顔つきに性別の特徴が表れていないので、雄か雌かは、さばいてみないとわかりません。このように下腹と尾びれの部分が太っているのはしっかり脂が乗っている証。また背側が盛り上がっているのは筋肉質で身が締まっていて、旨みが強い証です」。
この日根岸さんが市場で選んできたのは、淡路産の天然物の桜鯛。瀬戸内海は骨折する魚もいるほど潮の流れが速く、運動量が増えるため身が締まるので、鯛の名産地の一つに数えられる。春のマダイは、雄も雌も関係なく淡いピンク色に変わり、鮮やかに輝いている。これも「桜鯛」と呼ばれる理由のひとつだ。
“旬”の桜鯛 ひと手間加えて楽しむ
鯛は香りが控えめで、食べたエサの香りが出やすく、若い鯛の身はホタテやエビの味がすることもあるという。そのため桜鯛は、香りを楽しめる「焼き」が最もおすすめだという根岸さん。
今回は大きめの柵を竹串に刺して、皮ごと塩焼きにする「桜鯛の串焼き」のレシピを教えていただいた。
マダイ
情報提供:ねぎお寿司 根岸和也さん“旬”の時期
3~6月頃「桜鯛」
9~11月頃「もみじ鯛」
目利きポイント
・1尾1kg未満の小さめのもの
・全体に対して顔が小さく、太って厚みと張りがあるもの(下腹と尾びれの部分が太っているのはしっかり脂が乗っており、背側が盛り上がっているのは筋肉質で身が締まっていて旨みが強い)
美味しい食べ方
・皮ごと塩焼きにする
根岸さんの目利きを参考に、春の祝いの席にぴったりの桜鯛を、ぜひ味わってみてほしい。