「春の野菜 エンドウ」
発育段階により多種多様なエンドウ
ひとことで「マメ」といってもじつに幅が広い。国連食糧農業機関の定義では、同じマメ科のなかでも乾燥穀物向けに収穫される作物のみを「豆類」としている。2柔らかい鞘や実を乾燥せずに食べるものは「野菜」、油の抽出や種子が目的の作物はまた別の分類となる。
今回は「野菜」としてのエンドウの品種や目利き方法を教えていただくため、「八百屋 瑞花-suika-(東京・神楽坂/2019年閉店)」の創業者であり、現在は子育てのかたわら野菜や食にまつわるイベントを主催する矢嶋文子さんを訪ねた。
「マメ科のなかでもエンドウほど、発育の段階に応じてバラエティに富んだ食べ方ができる品種は他にないのでは」と、矢嶋さん。
発芽した新芽を食べる「豆苗」、若く柔らかい鞘を食べる「キヌサヤ」、鞘と実の両方の食感を楽しめる「スナップエンドウ」、若い実のみを食べる「グリーンピース」など、発育の段階により多種多様な品種がある。
「エンドウは原産である中東から世界中へ広まり、日本へも早い品種で9~10世紀ごろ伝わったといわれています。主要産地はありますが、日本中でつくられています。南北に長い日本列島を少しずつ北に産地を変えていき、長く“旬”を楽しめるのも特長です」と、矢嶋さんが教えてくれた。
サヤエンドウと実エンドウ、それぞれの魅力
野菜としてのエンドウは、大きく2つに分類できる。鞘ごと食べる「サヤエンドウ」と、鞘は食べず実だけを食べる「実エンドウ」だ。それぞれの目利きポイントや保存方法、また代表的な品種の魅力について矢嶋さんに教えていただいた。
鞘ごと食べる「サヤエンドウ」
“旬”の時期
4月~6月初旬
目利きポイント
・全体が淡い黄緑色
・鞘に傷がなく、幅が均一に伸びている
・ヘタの部分が生き生きしている
筋の取り方
鞘の先端が回り込んでカギになっている部分を後ろに反らせるように折り、ヘタに向かって筋を取る。その流れのままヘタも折り、反対側の筋を取る。
美味しい茹で方
・筋を取ったあと、大きく柔らかく対流するほど熱いお湯で茹で、ザルにあげる。
・茹で時間はキヌサヤ・サトウザヤは2分程。スナップエンドウは3分程。
・シャキッとした歯ざわりにするには時間を短く、甘みを引き立てるには長めに茹でる。
保存方法
・生の状態でざっと洗い水分をよく切ってから、ポリ袋にいれて冷蔵庫で保存する。
・鮮度が重要なため、購入から2~3日で食べきる。
主な産地
鹿児島県
キヌサヤ
「実ができる前の柔らかい鞘を食べます。春の青い香りとシャキッとした歯ざわりが特長です。和食の彩りに使われるため、加温栽培され通年流通していますが、ぜひ5月の露地物のキヌサヤをベーコンと炒めて食べてみてください。味が濃く、これほど美味しかったの?と開眼するはずです」。
サトウザヤ
「薄い鞘の歯ざわりと、小さな実の甘みの両方を楽しめるエンドウです。キヌサヤよりも糖度が高く、スナップエンドウよりも鞘が薄く、実の食感も楽しめるので人気がありますが、流通量があまり多くない貴重な品種です。シンプルに茹でて、軽く塩をするだけで充分美味しく食べられます」。
スナップエンドウ
「厚い鞘の食感と、小さな実の甘さが楽しめるエンドウです。甘みが強いので、子供も大人もファンの多い野菜のひとつです。出始めは実が小さいですが、季節が進むにつれ、実が大きくなり、鞘と実の両方の食感を楽しめます。ニンジンと一緒に肉巻きにするのもおすすめです」。
実だけを食べる「実エンドウ」
“旬”の時期
3月末~5月
目利きポイント
・鞘が淡い緑色でふっくらとして弾力がある
・鞘が凸凹せず均一な幅で伸びている
・ヘタが変色しておらず、ピンとして鮮度が良い
美味しい茹で方
・クラクラと湯面が穏やかに揺れるほどの弱火で2~3分程茹でる。
・好みや用途に合わせ、食べたり手でつぶしてみて、硬さを確認する。
・ザルにあげ、そのまま陸(おか)上げにして冷ます。
・熱いうちに軽く塩をしておくと、豆の甘みが引き立つ。
・豆にシワを寄せたくない時には、湯に少しずつ冷水を入れ、ゆっくりと温度を下げる。
保存方法
・できるだけ鞘入りのものを購入し、湿らせた新聞紙に鞘ごと包んでビニール袋に入れ、冷蔵庫で保存する。
・鮮度が重要なため、購入から2~3日で食べきる。
・少々硬さが残る程度に塩ゆでしておけば、冷凍保存することができる。
主な産地
和歌山県、鹿児島県
グリーンピース
「完熟していない若い実を食べます。冷凍のグリーンピースが嫌いな方もいると思いますが、是非フレッシュな実を食べてみてください。“旬”のものは甘くてプチっと弾け、やわらかな青さがとても美味しいです。炒め物やスープ、ポタージュなどに向いています」。
紀州うすい
「グリーンピースの改良品種で、和歌山県で生産されています。関西で『豆ごはん』というと、この紀州うすい(うすい豆)を使ったごはんを指すことが多いです」。
“旬”のエンドウを美味しく食べる
品種によって味わいや食感が異なるため、合う料理もそれぞれ違う。矢嶋さんによると、定番の「豆ごはん」をつくる場合は紀州うすいがぴったりだそう。単に生の実を米と一緒に炊くだけでなく、鞘を煮出して出汁を取り、その出汁で炊くのがおすすめ。実の風味豊かな美味しい豆ごはんに仕上がる。
今回は、人気の高いスナップエンドウをより美味しく食べる、オニオンスープのつくりかたを教えていただいた。
今回は取り上げなかったが、あんみつやうぐいす餡に使われる「赤エンドウ」や「青エンドウ」も乾燥した穀物「豆類」の中のエンドウのひとつ。エンドウとは、新芽から若い実、完熟した実まで、成長段階によって各々愛される、じつに興味深い品種である。
ぜひそれぞれの特徴を活かした食べ方で、新たな魅力を開拓してみていただきたい。