SHUN CURATORS (November 2016)
気持ちを捧げる日本の“おもてなし”を目指したい
―古城ホテル「ウルスペルト」総支配人 ヤニック・ルースさん
今回、初めて来日したというヤニックさんに日本滞在でできた思い出を伺った。
日本の食は“美味しい”というだけではない
初めての来日の感想を教えていただけますか?
私が子どもの頃、ルクセンブルクでは「北斗の拳」や「ドラゴンボール」など、日本のアニメがたくさんテレビ放映されていたので、30歳代に日本ファンが多いんです。
かくいう私もその一人。日本へずっと来たいと思っていたので、来日できてうれしいです。
なかでも日本の食にとても関心がありました。ビジネスの合間はほぼ食べ歩いていましたね。食事をして、バーに行ってから、もう一回食事に戻ったのは人生で初めてです(笑)。
食べたのは焼き鳥、寿司、お好み焼き、しゃぶしゃぶ、蕎麦、土瓶蒸し…、とても料理の名前が覚えきれません。
繊細な調理法とクオリティの高さに驚きました。素材がヨーロッパのものとは違うということがあるのでしょうが、仮に同じ素材をあちらに送ったとしても日本と同じ味にはならないでしょう。素材がもつ味が活きた料理の数々に感嘆しました。
ほかにも居酒屋、カラオケ、新宿ゴールデン街の小さなバーにも行ってお酒を味わいました。日本酒、梅酒、焼酎、ビール、どれも美味しかったですが、特に日本のウィスキーのハイボールがお気に入りです。
外国人旅行者向けのお店にはなるべく行かずに、日本人が普段味わう日本食を体験しましたが、どの店も美味しく、味が整っており、さらに店が清潔で人が優しかったです。美味しさだけでなく、こうした様々な要素が日本の食文化の魅力なのでしょう。
気持ちを捧げる日本の“おもてなし”
日本での体験を通して、お仕事のホテル業に役立つ発見はありましたか?
私は様々な国に訪れていますが、日本の“おもてなし”はとても素晴らしい。
同僚に“おもてなし”を学んでもらうために、「日本に行って食事してきなさい」と言うつもりです。
サービスとは、料理をどの位置に置くかというようなことではなく、気持ちを捧げることだということを理解してもらうためにもね。日本酒をグラスから溢れるまで注ぐのも、そういった日本らしいサービスの表れだと思います。
私は常日頃、ホテルの従業員に「ホスピタリティが第一」と伝えています。古城ホテルの総支配人という立場で、私たちの商品はベッドの提供ではなく、ゲストの思い出をつくることであり、それには常にゲストに対し笑顔でいる必要があると思っています。
ヨーロッパの平均的なレストランサービスは「座って、料理を並べて、お腹いっぱいになってください」という感じですが、日本では笑顔での応対や気遣いなど、それ以上の“おもてなし”を感じることができました。
今回私が日本で受けた体験は、自分のホテルで実現しようとしてきた「ゲストに特別な思い出を届けること」と共通性を感じることができてうれしかったです。
日本とルクセンブルクに共通点を感じましたか?
どちらも安全で、清潔で、美味しい食べ物がたくさんある国ということでしょうか。首都には世界中のレストランが集まっています。ルクセンブルク料理はフランス料理の繊細さとドイツ料理の豪快さを合わせたようなところがあります。また、美味しいワインとチョコレートの産地でもあります。
日本では、季節に合った食べ物を食べるという“旬”を大切にしていますが、ルクセンブルクでも、季節のものをシンプルにそしてベーシックに食べるということがトレンドになってきていると感じます。
私のホテルも、建物が古いため設備が限られるなか、いかに新鮮なものを季節に合わせてお出しするかということに気を遣っています。無理矢理に時期外れのイチゴを出すようなことはありません。
また、ルクセンブルクは内陸国で日本は島国という違いはありますが、「小さな国」であるという自覚からスタートして発展しているという点で、両国は同じスピリットをもっていると感じています。
ルクセンブルクは歴史的に要塞の国でした。大国に囲まれた小さな国だからこそ、知恵を出すことで発展の道をさぐってきたといえます。日本の発展もたくさんの知恵と文化があってのことだと感じています。お互いにもっと学び合えたらいいですね。
今回は東京滞在だけでしたが、すぐにまた日本に戻ってきたいです。家族を連れて来たいし、別の季節を楽しんだり、地方にも行ってみたりしたいと思っています。
Writer : HISAYO IWABUCHI
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Photographer : CHIE MARUYAMA