食卓の名脇役「長門ゆずきち」
![長門ゆずきち](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/dcfc9a29d40627f4e172c97f929aaf56-1568x1045.jpg)
柑橘の自生に適した山口県北部
![長門](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/dd48ea8c33820b0b62aae37002e885b7.jpg)
山口県の日本海側の都市・長門市には童謡詩人の金子みすゞが生まれた仙崎や、半島と奇岩が織りなす雄大な景色により「海上のアルプス」とも呼ばれる青海島(おおみじま)などがある。そして南国の気候と透明度の高いエメラルドグリーンの海と白砂が連なるサーファーズビーチ「大浜」、市内に5つもの温泉地があるなど、観光資源に恵まれた土地だ。
![サーファーズビーチ「大浜」](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/e109b55bfdbb019cfe3b33bed431ad09.jpg)
北浦地方はまた、柑橘の郷でもある。対馬海流の影響を受けた温暖な気候によって柑橘類の自生地となっており、人々は古くから庭先に柑橘を植え、食酢の代わりに口にしてきた。
![大日比(おおひび)](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/95134d72c06c21d9a41b89a6ea658cd1.jpg)
たとえば「夏ミカン」は山口県の県花にもなっているが、原樹があるのは長門市の青海島にある大日比(おおひび)という土地だ。江戸時代中期にこの地に流れ着いた果実の種をまいたのがはじまりと伝えられており、現在山口県各地で栽培されている夏ミカンはこの原樹から広まったといわれている。
謎めいたルーツの伝統果樹「長門ゆずきち」
![長門ゆずきち](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/ccd4011bc5e2ce0e61837f3b86b514b3.jpg)
一方、柚吉(ゆずきち)や宇樹橘(うじゅきつ)と呼ばれる、古くから家の庭先に植えられてきたもうひとつの柑橘が存在していた。くわしい来歴は分かっていないが、カボスやスダチの仲間の、緑色が濃く鮮やかな香酸柑橘類(=酸味が強いため生食用には適さない種類の柑橘)だ。
![ゆずきち](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/0a548e9d8e7fc02f10efa06d756c29cb.jpg)
1967年のこと。柑橘類研究の第一人者であった田中論一郎博士がDNA鑑定したところ、長門のそれは、従来から柚吉/宇樹橘と呼ばれていたものとは別の品種であることが確認されたのだ。それを機に、田中博士は「長門の国で生まれて、ユズより優れているという意味で『長門ゆずきち』と命名しよう」と提案。あらためて「長門ゆずきち」として、商業栽培が奨励されることになった。
![ゆずきち](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/230616ceaf1d222d1959d713033ac3e4.jpg)
原樹があった旧・阿武郡田万川町(現在は萩市)で昭和40年代(1965〜1974年)に本格的な栽培が始まり、その後国の減反政策が続くなかで、周辺地域にも普及していった。「長門ゆずきち」は“長門”という地名までを含めて地域ブランドとして、2007年に地域団体商標登録されている。
長門市俵山の果樹園を訪ねて
![「長門ゆずきちの会」吉村多能志さん](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/37a99d3c738f942e87c59b157f98bb1c.jpg)
長門市俵山地区の生産農家、吉村多能志さんを訪ねた。吉村さんは平成10年代(1998〜2007年)に入ってから、栗栽培から長門ゆずきちへと作物を転換した「長門ゆずきちの会」のメンバーの一人。
「1998年に転作を検討しているとき、山口県原産の『長門ゆずきち』があることを知り、名前に地名が入っていることも気に入って取り組むことを決めました。萩の柑橘試験場から苗木を貸与してもらったのが始まりです。生産量は20tほどなので、ほとんどが県内で消費されてしまう、地産地消の柑橘です。豊かな海の恵みにも恵まれている長門市では、昔から魚のすり身にゆずきちのポン酢をかけて食べる習慣がありましたね」と、話す。
![長門ゆずきち](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/7d729855e6e05dc9865ffceba34f0381.jpg)
吉村さんの畑で、もぎたての果実を切ってもらった。外見がよく似たすだちよりもずっと白皮が薄く、みずみずしい果汁がしたたり落ちる。しかも種がほとんどできないのも特長で、手で軽く搾るだけでたっぷりとした果汁が味わえそうだ。完熟前の真っ青な実なのに、レモンやスダチに比べるとやさしい酸味で苦みも少なく、さわやかな香りが漂う。
「種が少なくてジューシー、焼き魚や肉料理にたっぷりかけても主役の味を邪魔しないのが『長門ゆずきち』の魅力です」と、吉村さん。長門ゆずきちを凍らせておき、皮ごと全部すりおろして湯豆腐などにたっぷりのせるという食べ方や、焼酎に入れて飲むのが吉村さんのお勧めだ。
![長門市俵山地区](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/23acef34d8722046311e1a2dac334d3d.jpg)
「長門ゆずきちの皮の部分には特にβカロテンが多く含まれていて、抗酸化力が抜群。免疫機能を正常に保つ働きをしてくれるので、果皮もぜひ使ってください」。
産地での出荷のピークは、カボスやスダチよりも早い8月のお盆過ぎ頃で、今期は10月中旬に生果の最終出荷を終えた。しかし、訪れた吉村さんの果樹園には、皮が少し黄色みを帯びはじめている果実もたくさん残されていた。
![「長門ゆずきちの会」吉村多能志さん](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/f93e0b9db18112b9e8624bebb1e5ae2a.jpg)
「色づくと糖度が上がってきて酸味が少し感じにくくなるので、青々とした実のほうが好まれます。でも、黄色く色づいてからの果実も『ゆずきち小町』という名前で出荷しています」。
果実は11月になると直径5cm以上になり、マイルドな食味に変化して別の味わい方が生まれる。冬の鍋物や、御当地ホット飲料などへの展開も検討されているという。吉村さんたち生産者は5年前にゆずきち加工グループを立ち上げて、果汁を搾って瓶詰め販売も開始したとのこと。道の駅「センザキッチン」では、さまざまな加工品も手に入れることができる。
さまざまな加工商品や食べ方で愛される「長門ゆずきち」
![ゆずきちジュース](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/b52a5dd7fb2cc2b6064e08dec628d504.jpg)
仙崎漁港に隣接して建つ「センザキッチン」には、広々とした売場にアイデアを凝らした長門ゆずきち商品がずらりと並べられている。
砂糖を加えてさわやかな酸味を楽しむ「ゆずきちジュース」や、ゆずきち果汁に昆布エキスと醤油を加えた「長門ゆずきちポン酢」のような王道のほか、マーマレード、ドロップス、タルトのようなスイーツ類、ゼリーやアイスクリームまで様々な商品を手に入れることができる。
ゆずきちのスライスをたっぷりのせたうどんもここならではの一品だ。
![ゆずきちうどん](https://shun-gate.com/wp-content/uploads/2021/05/32ec9affffed7ba7f2d92f9d78a4e9ae.jpg)
また、地元の居酒屋に足を運べば、「ゆずきちサワー」や「ゆずきちリッキー」といったドリンクメニューは定番。果汁をぜいたくに味わいつつ、マイルドな酸味と香りにお酒がすすむ。
長門市を訪れたなら、ここでしか味わえない「長門ゆずきち」をぜひ試してみてほしい。
長門ゆずきち
情報提供:長門ゆずきちの会 吉村多能志さん“旬”の時期
8月中旬~10月
目利きポイント
ゴルフボール大から直径7cm程度の大きさで、見た目がゴツゴツしていないもの
美味しい食べ方
生のまま絞って焼き魚や肉料理の添え物に
凍らせて皮ごとすりおろして湯豆腐のトッピングや焼酎に入れて