日本一の誇りがつなぐ軌跡 「愛知早生ふき」
明治から知多半島で続く 愛知早生ふき
ふきは北海道から沖縄まで全国に分布するキク科の多年草植物。数少ない日本原産の野菜。平安時代から栽培されていたとされ、ふきは食用に、若い芽のふきのとうは薬用に用いられていた。
野生種を含めると約200種類の品種があるとされるふきだが、現在流通しているものの約7割が「愛知早生(わせ)ふき」だ。このふきは明治時代、現在の愛知県東海市にあたる地域で発見されたもの。地元の庄屋が自家栽培に成功してから、瞬く間に周辺地域に広まった。さらに、昭和30年代に整備された用水路が、普及を後押しした。
以来、知多半島は愛知早生ふきの一大産地に。知多半島の農家を管轄するJAあいち知多のふきの出荷量は、全国シェアの約40%を占め、生産の大半を東海市と知多市が担っている。
「食用部分のくきがやわらかく、それでいてシャキシャキとした食感も楽しめるのが愛知早生ふきの特長です」。
そう話すのは、JAあいち知多の小島祐二さん。小島さんによると、長い歴史のなかでふきの収穫方法も変化しているという。
「露地栽培が当たり前だった時代は、春に一度だけの収穫。現在は、ビニールハウスでの栽培が主流ですから、秋から春にかけて収穫が可能です」。
夏の間冷凍保存していた根株を8月ごろに植えると、春がきたと勘違いして出芽。これにより10月ごろから収穫できるようになる。ビニールハウスの保温された環境なら、冬の寒さの影響を受けないため、春まで収穫を続けられる。
10月から翌年1月までに収穫したものは「秋ふき」、2月から5月までに収穫されたものは「春ふき」と区別されている。小島さんによると「春ふきは香り高く、露地栽培の頃の“旬”の味わいに近い」という。
キャリア50年の生産者を訪ねた
ふき農家として50年のキャリアを持つ竹内敏信さんを訪ねた。竹内さんは、その経験を買われて、知多半島の生産者で構成された知多園芸振興協議会のふき部会長も務めている。
35棟のビニールハウスを設け、息子の健統さんとともにふき栽培に精を出す。出荷のピークを迎える3月は、収穫に追われる日々が続くという。
「春ふき、秋ふきが収穫できるようになってから年中忙しくしています。家業を継いでからの数年間は、みかんや米も栽培していました。けれど、70年代ごろから農作物の輸入自由化が進んでね。ふき一本でやっていこうと決心しました」と、ふきの刈り取りの合間をぬって、敏信さんが答えてくれた。
刈り取られたふきを健統さんが「コモ」で手際よく包んでいく。コモとは藁を編んでつくったむしろのこと。もともと、ふきの霜よけに使われていたが、それが必要なくなった現在は緩衝材として活用されている。
収穫されたふきは、自宅に併設された作業場に運びこまれる。ここで、サイズ規格に準じた仕分けが行われるのだ。1,000ミリ以上ならLサイズ、1150ミリ以上なら2Lサイズといった具合に、健統さんが慣れた手つきで選別していく。
「私が就農してから18年が経ちますが、ふきの栽培方法に大きな変化はありません。ただ、収穫後の仕分け・梱包作業をより効率的に進められるよう試行錯誤してきました。とにかく、1ケースでも多く出荷したいですからね」。
仕分けが済んだふきは、ラップで包まれて段ボールに梱包される。ふきは折れやすく、傷がついたら売りものにならなくなる。だから、収穫から仕分け、梱包まですべての行程が手作業で丁寧におこなわれる。4キロのふきが入った段ボールを一日に100箱以上出荷することもあるというから驚きだ。
一日にそれだけの出荷があっても、知多半島のふきの生産量は年々減少傾向にある。昨年、JAあいち知多は55万箱(1箱4キロ)を出荷したが、これは約20年前の1/4の量に過ぎない。一時期は200軒あったふき農家も現在は70軒にまで減っている。
「少子化、高齢化の波というやつで、どこも跡継ぎが足りていないんです。ふきは比較的収量が見込める農作物だけど、新規就農者にとっては安定するまでのハードルが高い」。
生産量が減ったのは、日本人の食生活が変化したことも影響しているという。
「このごろは、一般家庭の食卓にふきが並ぶことも少なくなってきた。『おべんとうばこのうた』って童謡の歌詞にもふきは出てきたでしょう。昔はそれだけ馴染みのある野菜だったんです」。
おだやかな表情で淡々と話す敏信さんは、「ふんばらないとね。知多のふきは日本一なんだから」と、最後に一言付け加えた。
消費者にもっとふきを食べてもらおうと、JAあいち知多とふき部では、スーパーでの試食販売や使い切りサイズの新パッケージ開発などを実施。ふきが再び食卓の定番になる日を夢見て、巻き返しを図っている。
愛知早生ふき(ビニールハウス栽培)
情報提供:JAあいち知多 小島祐二さん“旬”の時期
春ふき:2月~5月
秋ふき:10月~1月
目利きポイント
葉が緑色で、茎がピンと真っすぐ伸びているもの
美味しい食べ方
定番の煮物やきゃらぶきの他、ふきのかき揚げがおすすめ。すじをとってこまかく刻んだふきをにんじんやたまねぎ、えびなどの具材と一緒にかき揚げに。しっかり揚げても、ふきの風味が感じられる。近年のふきはアクが弱くなってきていることもあり、かき揚げなどの調理方法の場合はアク抜きしなくても食べられる。
*ふき料理のレシピは「JAあいち知多 公式ホームページ」に掲載しております。
https://www.agris.or.jp/food/recipe/