海と共に育つ洋野町が誇る、極上ウニ

独特の地形と豊かな自然、そして伝統のなかで育まれる洋野町の良質なウニはいま、世界に通用するブランドとして、まちの期待を集めている。
海と共に育ってきたまち、洋野町

澄んだ海が広がる洋野町では、100年以上にわたり“南部もぐり”による伝統漁業がおこなわれている。“南部もぐり”とは“ヘルメット式”の潜水技術のこと。
地元、種市(たねいち)地区の種市高等学校海洋開発科ではこの“南部もぐり”を継承し、いまでも“南部ダイバー”の育成に力を入れるほど、ここ洋野町は長年に渡って、海と共に育ってきたまちだ。

洋野町でのウニ漁は産卵前の約4ヶ月間、例年5〜8月に限られる。”天然のいけす”から魚をすくうように鮮度の高いまま運び、セリにかけられていくのだ。
ダイバーたちが小船で水深5mほどの浅瀬に向かい、素潜りでウニを獲る。ウニの種類や大きさを確かめながら成長したウニだけを手づかみで獲ることで、海洋環境にもやさしく、今日まで洋野町の豊かな海を守ってきた。

「きれいな海と天然のワカメやコンブをエサにして育つ洋野町のウニは、濃厚な旨みが特長です」と教えてくれたのは、最初に訪れた角の浜漁港で迎えてくれた種市漁業協同組合の大村文雄さん。
ウニの品質を決めるのに、“ウニのエサ”は重要だと大村さんはいう。

ウニは雑食性であらゆるものを食べてしまう性質をもつため、自然のなかで育つウニは環境によって味に大きなバラツキが出やすくなる。しかし、洋野町のウニは草原のように海底に広がるワカメやコンブをエサとすることで、たっぷりと旨みの詰まった良質なウニが育つという。
角の浜漁港では、早朝からキタムラサキウニの殻剥き作業が始まっていた。

ウニの殻剥きは口の部分から殻を開け、ピンセットを使って黒いワタ(内臓)やワカメのカスをひとかけらも残さず、素早く取り去っていく。この一見、単純にも見える作業は、非常に手間がかかるうえ、剥き身に傷がつかないように丁寧に処理しなければならず、熟練した技術が必要な作業だという。
「こうした人の手による加工技術も含めて、洋野町のウニは世界一だと思っています。世界に誇れる海と技術を未来にむけて継承していきたい」と、大村さんは語ってくれた。
天然コンブだけで育つ極上のウニ

もう一つ、洋野町で良質なウニが育つ理由が、約45年前からまちぐるみで取り組む「稚ウニの育成」と「ウニ牧場(増殖溝)」の仕組みだ。
地元で水産卸業を手がけるひろの屋の代表取締役、下苧坪之典(したうつぼ ゆきのり)さんはこう話す。

「洋野町は、ほかの三陸沿岸のまちと違って波の荒い外洋に面しています。そのため、漁が天候に影響されやすく、安定しないという悩みがありました。当時のまちの人たちが、より安定的な生産活動ができないかと模索するなかでヒントにしたのが、ここの浅瀬です。浅瀬には十数kmに渡って岩盤が広がっていたことから、その岩盤を削って深さ3mほどの溝を無数に掘り、ウニのエサとなる天然コンブを増殖させてウニの生息地をつくっていきました。それがいまも、世界には類を見ない『ウニ牧場』として受け継がれています」。
ウニは出荷基準の約6cmの大きさになるまで約4年半の月日がかかる。

そのサイクルは、まず港近くにある「うに栽培漁業センター」で「稚ウニ」を1年間かけて育てることから始まる。
そして、大切に育てた「稚ウニ」を沖に放流し、2年間、天然の漁場で育てた後、ダイバーがこの「ウニ牧場」に移して、天然コンブだけをエサとするウニを育てていく。
こうして「稚ウニ」の育成から約4年半が経過すると、最も身入りのよくなる良質なウニが育ち、ようやく収獲の時を迎える。

厳しい自然と対峙してきた地域の知恵が生んだウニ漁業の仕組みは “栽培漁業”と呼ばれ、いまでは良質なウニが安定的に供給できるようになったのだ。
「ウニ牧場」で天然コンブだけを食べて育ったウニは、まるで出汁をとったかのように濃厚。現地に足を運んで剥きたての生ウニを食べる機会があったら、最初は醤油も付けずに上品な甘みを味わってみることをおすすめしたい。もちろん炊きたてのご飯にのせて、わさび醤油をひとさしして食べる「生ウニ丼」も絶品だ。
北三陸から世界に発信

現在、下荢坪さんは洋野町を中心とした北三陸の食を世界ブランドへと育てるため、国内だけでなく、海外でも積極的な活動をおこなっている。
「東日本大震災により、洋野町も稚ウニの栽培施設が被害を受けましたが、多くの人の後押しを受けて早期に復興することができました。加工設備も新たにつくり、今後は洋野町自慢の水産物を、国内だけでなく海外の多くの人たちに味わってもらいたいと思っています。そうすることで地元の産業を拡大し、若い世代につなげていきたい」と、下荢坪さんは語る。

豊かな自然環境、“南部ダイバー”の伝統漁法、地元に息づく加工技術とそれを支える地域の人。それらはなに一つ欠けることなく、海と共に育った洋野町の礎となり、これからのまちの可能性を広げていく。
洋野町の「キタムラサキウニ」
情報提供:ひろの屋代表取締役・下苧坪之典さん
“旬”の時期
稚ウニの育成から4年半経過したウニが最も身入りがよく、“旬”とされている。季節では6〜8月まで、7月頃の産卵直前が一番食べ頃。
目利きポイント
キタムラサキウニは、別名「白ウニ」といわれるように身は白味がかった黄色。身が大きく白っぽいものが高級品とされる。
美味しい食べ方
ミョウバン処理をしていない生ウニであれば雑味がないので、まずは何もつけずにウニそのものの味を楽しむことがおすすめ。