霞ヶ浦湖畔の広大な低湿地帯で育つ良質なレンコン
霞ヶ浦周辺でレンコン栽培が始まったのは、今から40年ほど前の1970年代。減反政策(米の生産調整をおこなう農業政策)のもと、米に代わる優良作物への転作を模索するなかで、霞ヶ浦の低湿地帯に最適な作物としてレンコンが選ばれたのだという。
きめが細かく、色白で繊細なレンコン
茨城県、霞ヶ浦周辺のレンコンの収穫期は7月~3月頃。毎年、収穫時期になると、霞ヶ浦の水面に出ている蓮の茎や葉を全部切り倒し、レンコンの生育を止める作業がおこなわれる。
そうすることで地下茎であるレンコンは泥の中で休眠状態に入り、夏から冬にかけてゆっくりとデンプン質をため込んでいくことから、同じ産地のレンコンでも収穫時期によって味わいが変化していく。夏に収穫されたレンコンはみずみずしく、サクサクとした歯ごたえが楽しめ、冬になるとモッチリ、ホクホクとした食感が楽しめるという。
霞ヶ浦の南に位置する茨城県稲敷市浮島で、レンコンの生産、販売をおこなう「れんこん三兄弟」という社名の会社を訪れた。その名の通り、「れんこん三兄弟」は宮本家の長男・貴夫さん、次男・昌治さん、三男・昭良さんの三兄弟を中心に農業を手掛ける会社だ。
冬場のレンコンの収穫作業は、午前中は気温が低すぎて蓮田が凍っているため、昼すぎから始まる。
蓮田の深さは50?60cmほどあり、膝をついて作業をするため、胸元まで水につかりながら手探りで泥の中のレンコンを掘り当てていく。
ジェット水流を使い、レンコンを手探りでみつけ、掘り上げてから泥を洗い落とすという手間のかかる方法をとっているのは、凸凹の多いレンコンの肌を傷つけないためだ。こうした丁寧な作業によって出荷されるレンコンは、食べて美味しいだけでなく肌の白さや美しさも重要な商品価値となっている。
蓮田から出荷場に運びこまれたレンコンは、ヒゲ(根の部分)を切り落とし、一本ずつ洗浄してから箱に詰められる。れんこん三兄弟では注文を受けてから、2日以内に収穫して出荷までをおこなっていく。
「レンコンは空気に触れると色が変わり始めるため、鮮度保持袋で空気を遮断し鮮度を維持した最高の状態でお届けしています」と、れんこん三兄弟の代表取締役であり、長男の宮本貴夫さんは自社のレンコンの品質に胸を張る。
こだわりのレンコンづくりを目指して、三兄弟で独立
宮本家の三兄弟が農業を始めたのは2003年。元々、兄弟は別の職業についていたが、一念発起して就農。
稲作とレンコンを手掛ける父のもとで約5年間の修業をし、2008年に三兄弟で新しい農業スタイルを築きたいという想いから、父からレンコン部門を引き継ぎ、「宮本兄弟農園」を立ち上げた。
父から独立して、最初におこなったことは「土壌診断」。父が経験的・感覚的におこなってきた土づくりを、データをとって数値化し、できる限り天候や個人のスキルに左右されず、ベストな状態で作付けできるようにすることを目指した。
「土づくりといっても、私たちは地中の微生物の力を最大限に引き出すために手助けをするだけ。土の中にも“社会”があって、特定の菌が爆発的に増えることはないと考えています。畑が元々持っている微生物の多様性を保ちながら大きな層郡(地層)をつくってくれるよう心がけています」と貴夫さんは話す。
データに基づいて行われるバランスの取れた土壌管理。これは「優良土着菌栽培」と名付けられ、れんこん三兄弟が手掛ける良質なレンコンづくりには欠かせないことだという。
レンコンは近年品種改良が進み、現在全国で生産されているレンコンの品種は50種類ほど。れんこん三兄弟では、収穫時期や土壌特性などに合わせて、5品種ほど選んで栽培している。
「その時期に合ったレンコンを飲食店などに提案し、提供しています。大きさや形などの希望も伺い、お客さんごとに対応していますよ。これからも多くの人に、もっとレンコンの美味しさの奥深さを知ってもらいたいですね」と貴夫さん語る。
起業し、安定した農業を目指す
宮本兄弟農園かられんこん三兄弟へと法人化したのは、2010年のこと。
「自分たちを育ててくれた農業が世間からは“きつい、汚い”というイメージをもたれていることに違和感を覚えており、そうじゃないってことを証明したかった」と貴夫さんは話す。
また、実家が農家でない若者の新規就農は難しく、ならば法人化することで、自分たちがその受け皿になってもいいのではないかと考えたからだった。
現在は役員である三兄弟に社員二人、パート五人が加わり、1日平均500kgものレンコン出荷をおこなっている。貴夫さんの目下の目標は人材の確保と育成だ。作業技術を標準化し、レンコンづくりを一貫して担える社員を増やす。人員が増えれば交代で休みもとれるし、収穫量も増やすことができ、農業はより安定した仕事となるからだ。
れんこん三兄弟に出会い、入社4年目になる飯沼学さんは「最初の頃は体力勝負!と力が入りすぎていましたが、今は毎日安定してこなせる仕事のペースをつかんでいます。宮本兄弟に一から教えてもらうことができ、レンコンづくりはたくさんのノウハウが詰まったやりがいのある仕事だということを実感しています」と語ってくれた。
国内での会社の発展を目指す一方、三男の明良さんは農業の新しい姿を求め、東南アジアに渡っている。
「日本の生産管理技術には優れたところがたくさんあるのだから、国内だけではなく、世界に飛び出していこう」と、夢に向かって歩き出しているのだ。
仲間を増やしながら、農業の未来を切り拓くための挑戦をおこなっているれんこん三兄弟。霞ヶ浦の広大な低湿地帯で生まれた良質なレンコンづくりは、その可能性を拡げ、これからも多くの人たちにその魅力を放っていくだろう。
稲敷市の「レンコン」
情報提供:株式会社れんこん三兄弟 代表取締役 宮本貴夫さん“旬”の時期
レンコンの収穫期は7月~3月と長く、最盛期は秋。
夏のレンコンは透明感がありみずみずしく、冬になると乳白色でホクホクとした食感に変わる。その両方のバランスがとれた秋のレンコンが一番オススメ。
目利きポイント
レンコンは空気に触れると変色が進むので、シミがない新鮮なものを。
(ただし不自然に色が白いものは漂白されている可能性があるので避ける)
家庭で保存するときも空気に触れないようにラップをすること。