“旬”をあじわう季節のお菓子「トウモロコシ」
大陸から伝来した トウモロコシの魅力
日本で茹でて食べられているものは『スイートコーン(甘味種)』といわれるトウモロコシの一種。一般には流通していないが、コーンスターチや油、ポップコーン、バイオエタノールなどに加工される品種や、家畜の飼料になる品種もあり、世界的には穀類として多く生産されている。日本は加工品や飼料に使われるものの殆どを海外から輸入しており、世界最大級のトウモロコシ輸入国でもある。
トウモロコシの魅力について教えていただくため、「八百屋 瑞花-suika-(東京・神楽坂/2019年閉店)」の創業者であり、現在は子育てのかたわら野菜や食にまつわるイベントを主催する矢嶋文子さんを訪ねた。
「トウモロコシの原産地・起源は諸説ありますが、原産地はメキシコなどの中南米付近、起源は今から5,500〜7,500年くらい前といわれています。日本へは1500年代後半にポルトガル人によって長崎にもたらされました。日本でスイートコーンが栽培されるようになったのは、明治初期、アメリカから持ち込まれた「ゴールデンバンタム」という品種が北海道の農事試験場で成功したことが始まりで、そこから全国に普及していったそうです。現在も北海道が日本の収穫量の3割以上を占めますが、全国各地で栽培されていますよ」と、矢嶋さん。
トウモロコシの“旬”は7〜9月。走りは皮が薄く、瑞々しく爽やかさがある。後半になるとむちっと弾力が出て、甘みやコクが増してくる。
新鮮なものほど美味しいといわれるトウモロコシ。農家では「鍋に火をつけてから畑に採りに行け」という言葉があると矢嶋さんが教えてくれた。購入したらすぐに茹でた方が良いが、数日保管する場合は冷蔵庫のなるべく冷たいところに入れておくと良いという。
「茹でる時は薄皮を数枚残し、水から沸騰させない程度の湯でゆっくりと茹でると、でんぷんが糖化し甘みを強く感じることができます。冷ますときも皮をつけたまま。そうすると風味を逃しません。トウモロコシは根元の方が甘く、さらに粒の芯のところが甘い。そのため、包丁で粒を外した折には、どうぞ包丁の背で芯の部分をこそいで召し上がってください。ドレッシングに混ぜてしまうのも良いですよ」と、矢嶋さんが美味しい食べ方を教えてくれた。
トウモロコシは芯にも旨みや甘みがあるため、ご飯やポタージュなどのスープを作る時は、丸のまま火を通して最後に実を外すか、先に実を外した場合は残った芯も一緒に茹でたり炊いたりすると、より旨みが増すという。
多彩なスイートコーンの品種と目利き
矢嶋さんに教えてもらったトウモロコシの目利きポイントは4つ。
・根元が張って太く、ずっしりと重たいもの
・髭の本数が多く、茶褐色でよく枯れているもの
・皮が新鮮で瑞々しく、筋目が多いもの
・穂先まで実が詰まり、虫食いがないもの
髭は1粒1粒の雌しべにあたるため、髭の本数が多いほど実が豊かということになる。
日本で食べられているスイートコーンを大きく分類すると、粒の色がイエロー、バイカラー、ホワイトの3種類。それぞれのおすすめの品種の特徴を教えていただいた。
ゴールドラッシュ(イエロー)
甘く、皮が柔らかい品種。トウモロコシらしい風味が強く、粒が大きくジューシーなので、かぶりつくと美味しさが口いっぱいに広がる。とうもろこしご飯や今回紹介するアイスなど、料理に加工するのもおすすめの品種。
サニーショコラ(イエロー)
糖度は高いもので19度にもなり皮も薄い品種。「フルーツコーン」と呼ばれる品種の1つ。糖度は高いがすっきりとした甘みが特長。柔らかく瑞々しいため食感が良い。
ミルフィーユ(バイカラー)
黄と白の粒が3:1で入っている「バイカラー」品種。色のコントラストが美しく、パイを何層も重ねたお菓子のミルフィーユに似ていることからこの名が付いたといわれる。糖度は18〜19度と高く、コクのある甘さとフルーティさが特長。大ぶりでずっしりしているものが多い。
ホワイトショコラ(ホワイト)
茹でると真珠のような輝きが出る「ホワイト(シルバー)」品種。鮮度が良いものは生でも食べられる。糖度も18度程度と高く、皮が薄くジューシーでまるで果物のような食味の品種。トウモロコシらしい香りはイエロー系の品種よりやや劣る。
また、品種を問わず、スイートコーンを大きく育てる過程で摘果された若いトウモロコシが「ベビーコーン」として出荷される。
ベビーコーン
粒が大きくなる前の若いトウモロコシ。新鮮なものは皮のまま蒸し焼きにするだけで、香りも高くコリコリとした食感で、中の髭もコーンも芯ごと食べることができる。お弁当にも使いやすい食材だ。
トウモロコシの風味を活かした 夏のお菓子
トウモロコシの風味を活かしたお菓子のレシピを、お菓子研究家のmarimoさんに教えていただいた。
「トウモロコシは甘いお菓子に仕上げても美味しいですし、甘じょっぱい味付けも美味しいですよね。焼きとうもろこしのように、醤油と合わせるのもオススメです」。
緑黄色野菜を使ったお菓子は、味がぼやけないように味の濃い野菜を選ぶこと、着色料などを使わず野菜が持つカラフルな色を生かした仕上がりを目指すことがポイントだという。野菜の甘さを活かす調理を施すことで、お菓子に使う砂糖の量を減らすこともできる。
今回は、トウモロコシの風味と鮮やかな黄色を活かすため、「ゴールドラッシュ」を使ったアイスクリームのレシピを考案していただいた。
「とうもろこしをピュレ状にしてたっぷり加えているので、自然の優しい甘さと香りが広がり、とても美味しいですよ。卵黄を使っているのでコクもあり、リッチな口当たりです」。
marimoさんに盛り付けの際のポイントも教えていただいた。つくってから一晩以上冷やすとアイスが硬くなるため、常温で10分ほどおくと盛り付けしやすい柔らかさになる。スプーンですくっても良いが、アイスクリームディッシャーがあると丸く可愛く盛り付けることができるそう。盛り付ける器を冷凍庫で5分ほど冷やしておくとアイスが溶けにくくなるのでおすすめだ。
たっぷりの栄養と風味、プチプチとした食感などトウモロコシの魅力を最大限に活かしたアイスクリーム。ぜひおうち時間を活用してつくってみてはいかがだろうか。
トウモロコシ
情報提供:矢嶋文子さん“旬”の時期
7〜9月
目利きポイント
・根元が張って太く、ずっしりと重たいもの
・髭の本数が多く、茶褐色でよく枯れているもの
・皮が新鮮で瑞々しく、筋目が多いこと
・穂先まで実が詰まり、虫食いがないもの
美味しい食べ方
・薄皮を数枚残し水から沸騰させない程度の湯でゆっくりと茹でる
・芯にも旨みや甘みがあるため、残った芯も一緒に茹でたり炊いたりする