目利きが語る:二度の“旬”を美味しく味わう「カツオ」
江戸っ子文化に根ざした「初カツオ」の滋味深さ
カツオは日本の近海で比較的いつでも獲れる魚だが、1年に2度の食べ頃がある。春から初夏に出まわる「初カツオ」と、秋の「戻りカツオ」だ。「初」と「戻り」の味わいの違いを根岸さんに伺った。
「カツオは回遊魚です。『初カツオ』とは、南方の海からエサを求めて北上してきたカツオを指します。このため九州の枕崎や高知では春先の3〜4月頃、千葉の勝浦あたりでは6月頃、宮城などでは7月頃が最盛期といったふうに、水揚げ港によって時期に差が生じます」。
ミクロネシアあたりの熱帯域で生まれた若いカツオは、群れとなってエサの豊富な黒潮の流れに乗り、日本の太平洋側を北上してくる。このときはまだ身に脂が十分にのっていないが、そのほうが鰹節に加工するには好都合だという。
たっぷりとエサを食べて成長しながら、水温の低い親潮と黒潮の混合水域あたりまで到達すると、北上をやめて産卵の準備に入るために再び熱帯域まで戻っていく。9月中旬から10月下旬にかけて三陸沖から房総半島に南下してくるこの時期が、2度目の“旬”として「戻りカツオ」と呼ばれている。
「このような生態ですので、いわゆる脂のりがよく濃厚な味わいが楽しめるのは『戻りカツオ』。薬味を添えてタタキなどで食べるのがおすすめです。しかし、何事にも“初物”を好んだ江戸っ子の文化として『初カツオ』が珍重されてきました。若々しい香りと、赤身ながらさっぱりとした味が『初カツオ』の魅力です」。
美味しいカツオの選び方
美味しいカツオの選び方についても目利きを教えていただいた。
「若い香りを味わう初カツオは、小さめの魚体の方が高級品。丸魚で選ぶ場合は、目安として1〜2kgサイズで、顔とからだのバランスを見たときに相対的に顔が小さく、尻尾の方が細くシュッとしているのが若く筋肉質な魚です。その上で鮮度を見ます。鮮度が高いものは、目が澄んでいてエラの中が赤く鮮やかです。また一本釣りで漁師さんに丁寧に扱われたカツオは、からだに傷がついておらず、お刺身向きの上等品ですよ」。
冊(さく)になった状態で選ぶ場合は、鮮やかな赤い身で、身に張りがあるものを選ぶとよいとのこと。
「実は、さばいた直後の新鮮なカツオの身はくすんだ色をしていますが、空気に触れて鮮やかな赤になり、鮮度が落ちるとまた黒くなるんです。魚売り場でさばいてもらったばかりで身が赤黒いのは問題ありません」。
また、売り場で手に取った冊が、かつおの背側か腹側か、区別して買っている方は少ないのではないだろうか。
「内臓をとってえぐれた形をしているのが腹側です。さっぱりとした背側の身と、より脂がのっている腹側の身では味わいが違うので、ぜひ食べ比べてみてください」と、根岸さん。
注意したいのは、身が濃く黒ずんだ部分「血合い」の処理だ。血合いは魚の強い香りと旨みの元であるが、初カツオの刺身として味わうにはできるだけきれいにとると初カツオの香り、旨みが鮮明に感じられる。だが、血合いは鉄分などの栄養成分が豊富に含まれる部位だと根岸さんはいう。
今回、根岸さんは栄養豊富な血合いの部位を含めて、カツオを美味しくいただくことのできるレシピを紹介してくれた。
初カツオの楽しみ方
「初カツオ」は、やはり生でその繊細な風味を味わいつくしたいもの。
冊を買ってきた場合は下処理として、キッチンペーパーを敷いて、さっと塩を振りラップをかけて冷やしてみてほしい。こうすると水分と一緒に生臭さが抜けて、ねっとりとした食感に仕上がるのだと、根岸さんは勧めてくれた。
しめるのは普通の食塩でも十分だが、塩にもこだわり、好みの塩を振って数時間置くという、江戸前寿司職人のテクニックを真似してみてはいかがだろうか。根岸さんのおすすめの塩を3種ご紹介しよう。
①ヒマラヤの黒い岩塩:イオウ分を含む山の香りが取り込まれ、魚臭さを相殺する効果がある
②アンデスの紅塩:紅の成分は鉄分。かつおも赤みの魚でミオグロビンという鉄由来の色素タンパク質を多く含むので親和性がある
③粗塩:多様なミネラル成分が感じられ、かつおの味にも深みが出る
塩でしめたかつおは、酢飯との相性もさらによくなる。ねぎお寿司では、赤酢(酒粕を発酵させた酢)100%のすし酢を用いた赤シャリで提供している。魚の旨みを、香りでも存分に引き出そうというのが、ねぎお寿司流だ。
季節ごとに変わる味わいが楽しむことのできるカツオ。 “旬”に合わせて、今回ご紹介した根岸さんおすすめのレシピや目利きを取り入れてみてはいかがだろうか。
カツオ
情報提供:ねぎお寿司 根岸和也さん“旬”の時期
3〜7月頃 「初カツオ」
9~11月頃 「戻りカツオ」
目利きポイント
・尾頭付き:からだと比べて相対的に顔が小さく、目が澄んでおり、えらの中が赤いもの。
・冊:鮮やかな赤い身で、身に張りがあるもの