福島の若き蔵元が生み出した、己の一歩。
*パッケージは価格帯によってカタチが変わる場合がございます。
*デザインは時期によって変更の場合がございます。
賢征さんは蔵元(くらもと:酒蔵の経営者)と杜氏(とうじ:酒造りの製造責任者)の両方を兼ねる「蔵元杜氏」である。
現在、蔵元杜氏として活躍する賢征さんだが、かつては「田舎っぽく若いイメージがしない」と家業を毛嫌いしていたという。そんな中、蔵元杜氏の存在を知り、次第に同世代の蔵元が活躍する酒造りの世界に強い憧れを抱くようになった。そして、賢征さんは2010年に蔵へ戻り、その翌年にこの「一歩己」を造り上げたのだ。
「一歩己」は賢征さんの情熱と実直な酒造りによって、文字通り“一歩”ずつうまさを増していき、今では入手困難なほど愛される銘柄となっている。
豊国酒造の「一歩己」を実際にSHUN GATEメンバー内で飲んだときの感想を、味だけではなく、見た目など様々な角度から、受け取る側の素直な気持ちも交えてお伝えしておこう。
造り手の性格が伝わる真っ直ぐな清々しさ
まず目に入る若葉色のラベルに息吹いたばかりの若々しさを感じる。中央には、賢征さんの“一歩一歩を大切にしたい”という気持ちと、“息吹”を掛け合わした「一歩己」という名前が力強く入っている。裏側のラベルには賢征さんのメッセージが書かれているので、飲む前にこちらも一読しておきたい。
今回いただいたのは、2015年4月に絞った純米原酒。よく冷やした「一歩己」をトクトクとグラスに注いでみると、優しい香りとともに、ほのかに黄色味を帯びた酒がお目見えした。
口に含むと、濃い旨みがギュッと弾けて広がり、次の瞬間にスーッと喉の奥に入り込んでいった。舌にはフルーティな酸味が残り、後味はとても爽やか。何杯でも飲んでしまいそうだ。酒の味には造り手の性格が出るというが、真っ直ぐな眼で酒造りを語る賢征さんの顔を思い出すような味わいだった。
人の手でじっくり醸される酒造り
豊国酒造は全国新酒鑑評会で9年連続金賞を受賞している銘柄「東豊国(あづまとよくに)」を製造する酒蔵だ。阿武隈山峡から湧く豊かな水を使い、築130年ほどの重厚な蔵の中で伝承の古典醸法に則った酒造りを行っている。
「一歩己」の仕込みは酒米を手で洗うことから始まる。1シーズンでなんと約20tもの量の米を6人の職人で丁寧に手洗いするのだ。そうすることで米の質や吸水状態を全員で共有でき、その後の作業がスムーズにいくという。米から麹と酒母(しゅぼ:発酵の工程に入る前に酵母を大量に培養したもの)を造ってホーロー製のタンクに入れ、さらに水と米を加えたら約1ヶ月間発酵させる。
11月~4月までの約半年間で酒を仕込むのだが、最も酒造りに良い時期とされる1月と2月は片時も蔵から離れられないほど神経を使うと賢征さんはいう。
「一歩己」で使用する酒米の大半は地元福島県産の美山錦(みやまにしき)を使っている。“最高の酒米を作る”ことで、九代目の挑戦を支えている米農家の大島さんは「地元の米で酒を造ってくれることが嬉しい。賢征さんは負けず嫌いだから、うまい酒を造り続けてくれる」と語ってくれた。
実は、初年度の「一歩己」はとても飲めたものではなかったと賢征さんはいう。
「今思うと、その時は小手先で造ろうとしてたんだと思います。その初年度の悔しさを繰り返さないようにと、二年目からは米の特性を見て、アルコールを下げる、甘めに仕上げるなど、思い描く味に近づくようプロセスを常に意識していました。今でも完成がどこなのかはわからないです。毎年、米の状態も違うし、気候も変化する。それらに毎回100%でぶつからないとお客さんに満足してもらえない。もしかしたら、終わりはないのかもしれないですね」。
ぜひとも飲んでみたい「一歩己」だが、現在その人気に製造数が追いつかず入手するのはなかなか難しい。そんな入手困難な「一歩己」を取り扱う福島市内の酒店を訪れた。
“酒屋は蔵元の代弁者”と話すのは、「一歩己」を取り扱う福島市内の酒店、橘内酒店のオーナー・橘内賢哉さんだ。
橘内さんは県内の日本酒を知り尽くす人物。蔵との関係も深く、訪れた客にただ酒を売るのではなく、造り手のストーリーも一緒に伝えてくれる。
「『一歩己』は、手に取りやすい価格ながらも味わいの良い、いい酒です。『一歩己』だけに限らず、福島は若手の醸造家が造る酒が次々と出てきていて面白くなってきてますよ」と橘内さんはいう。
造り手の技術、酒米を造る農家、お客に届ける酒店、酒を味わう人。
「何が欠けても美味しい酒はできない」と賢征さんは語る。若き蔵元杜氏の未来と、それを支える人々の想いが詰まった「一歩己」を、ぜひ味わってみてほしい。