海とまちの未来を紡ぐ。ソーシャルグッドな海の恵み
その日水揚げされた未利用魚を缶に詰めた「今朝の浜」
島根県浜田市にある浜田漁港は、千葉県の銚子漁港などと並んで、日本に13しかない、水産業の振興上特に重要な漁港である特定第3種漁港に指定されている。水揚げされる魚としては、「どんちっち」と呼ばれる市のブランド魚、アジ・のどぐろ・カレイの3種が有名だが、その他にも多種多様な魚種に恵まれる。
この地で水産加工業を営むシーライフが、浜田市で唯一の缶詰工場を設立したのは今から4年前。水揚げされたものの、買い手がつかなかった未利用魚を有効活用するためだ。浜田で水産加工といえば干物づくりがメイン。干物にできないブリや鯛は、加工する術がなく持て余していたという。また底引き網漁ではどうしても売りにくい魚がとれてしまうが、シーライフが余った魚をすべて買い取って缶詰に加工することで、漁師や仲買人の大きな支えとなったのだ。
「現在の浜田港の漁獲量は30年前の10分の1まで減っています。気候変動などが危ぶまれるなかで、いつまでも“どんちっち”や干物作りだけをしていては使える魚が限られてしまう。いまある資源を最大限に活用していくために、とりあえずとれる魚を全て缶詰にしてみようと始まったんです」と話すのは、シーライフの河上清貴さん。
こうして生まれたのが「今朝の浜」という缶詰。水揚げ時にでた未利用魚をすべて缶詰にしているので、どの魚種になるのかはその日次第。時にはマグロのように食べ慣れた魚、時には見たこともない不思議な魚かもしれないという、福袋のような楽しみがある缶詰なのだ。
「『今朝の浜』という名前も、聞くだけで海の情景が浮かぶようです」と、趣ある商品名も白田さんのお気に入りだ。
「どんな魚が入っても缶詰の価格は同じなので、正直採算がとれていないこともあります。でも『今朝の浜』は浜田のことや魚を知ってもらうツールなので、缶詰を通して少しでもこのまちに興味を持ってくださったらうれしいです」と、河上さんは話す。これまでに約50種類もの魚を缶詰にしてきたそうだ。
味付けはシンプルに塩のみの水煮で、浜田の海水から作った「浜守の塩」を使用。食べる時は旨みが溶け出した栄養たっぷりの缶の汁も一緒に、炊き込みご飯やパスタ、アクアパッツァなどにアレンジするのがおすすめだ。
最近は未利用魚の新商品や、本来は捨ててしまう骨や頭などを有効活用できないか模索中という河上さん。歴史ある浜田港の海を守るための、美味しい商品がまだまだ誕生しそうだ。
美味しい防災を実現。海の町の未来を救う「グルメ缶詰」
太平洋に面した高知県黒潮町は「土佐の一本釣り」という伝統的な漁法で、日本一の漁獲量を誇る船団を有する“カツオの町”として知られる漁師町。4kmもの美しい砂浜が続く入野海岸は、地元の老若男女に愛されるシンボルだ。この美しい海辺のまちに立ちはだかったのが、2012年に内閣府が公表した南海トラフ巨大地震被害想定。最大津波高34.4mという衝撃的な数字を前に、“日本一の防災のまち”になろうと立ち上がった。
避難放棄や人口の流出が懸念された黒潮町に必要だったのは、まちを支えるビジネスとしての産業。新産業と雇用創出、そしてそれが結果的に防災につながるというストーリーの主役となったのは、缶詰だった。
「缶詰なら地元産の食材を使い、美味しさにこだわったものがつくれる。また保存性と携帯性もあるので、いざという時は非常食として活用できます」と、話すのは、黒潮町缶詰製作所の友永公生さん。商品開発のために結成されたプロジェクトチームにはフードプロデューサーのシェフや栄養士、地域おこしの専門家も参画。「毎日食べたい日(ひ)常食」として、スタイリッシュなパッケージのグルメな缶詰が誕生した。
ラインナップは「カツオと筍のアヒージョ」など、「缶を開けるところを見なければ、缶詰だと気づかない」と、白田さんが絶賛するほど、完成された一品料理になっている。さらに非常食として外せなかったのが、7大アレルゲンを使用しないこと。被災地では、アレルギーがあるために食べ物を入手するのに苦労する人がいた、というエピソードがあったのだ。
「醤油は小麦を含まない米醤油や雑穀醤油を使っています。レシピ開発やコスト圧縮などで難しい面もありますが、アレルギーがあることで食べられない人がいては、万人向けの非常食にはなりません。実際に被災地に寄付した時に『食べられて助かった』という声をいただき、間違っていなかったなと思っています」と、友永さん。
「カツオと筍のアヒージョ」はそのまま食べるのはもちろん、ご飯に混ぜて洋風の炊き込みご飯風にしたり、パスタやそうめんなどに合わせても美味しい。
友永さんはこの缶詰を、もっと地元の人にも食べてもらえたら、と展望を話す。
「地元の人に愛される缶詰になって、そこから外に広がっていったらいいなと思います。防災は意識せず、美味しいから手元にあって、さらに非常時にも役に立つ、という商品にしていきたい。スイーツの缶詰も開発中なので、楽しみにしていてください」。
業界初。常温保存で180日食べられる「旅するかまぼこ」
宮城県南三陸町にある及善商店と気仙沼市のかねせんは、共に創業100年以上の歴史を持つかまぼこ店。ライバル同士でもある二社がタッグを組み、業界初のかまぼこが誕生した。それが、常温保存できる笹かまぼこだ。
及善商店の代表取締役及川善弥さんは、だんだんと衰退していくかまぼこ業界に危機感を感じていた。
「何かしなければと思っていた時に、東日本大震災で工場が被災。一念発起して、同じ想いを抱いていたかねせんの社長と一緒に会社を設立したんです」と、及川さんは振り返る。
三陸フィッシュペースト株式会社を設立した2人は、それまで冷蔵保存が当たり前とされていた笹かまぼこを、常温で美味しく保存するための技術開発に取り組んだ。何度も試作の失敗を繰り返し、なかば諦めかけていた頃、奇跡が起こった。
「突然美味しいかまぼこができたんです。『あれ?これ常温保存だよな?』って。結局、原則原理に従いシンプルに作ったものが一番強くて安全だったんですよ」と、及川さん。
こうして常温保存で180日食べられる、保存料無添加の笹かまぼこが誕生。「まずは子どもたちに食べてほしい」と、かわいらしいイラストのパッケージで「旅するかまぼこ」として発売した。常温のまま保存できることで、外出に持っていったり、お弁当に付けたりと活用シーンが拡大。さらに賞味期限の延長は、フードロス軽減も期待できる。
「かまぼこや魚肉ソーセージといった魚のペーストは子供が好きな食べ物。栄養があるのでおやつとしてもいいですね」と、白田さん。
「最終的な夢は、かまぼこを宇宙食にすること。これからもかまぼこの可能性を広げる、日本一おもしろいかまぼこ屋でありたいです」。長い歴史を持つかまぼこの進化を楽しみにしたい。
ニッコリーナエキュート東京店では、今回記事でご紹介した商品を購入できるフェアを期間限定で開催中。ニッコリーナのオンラインショップでも購入できるので、ぜひそれぞれのストーリーと一緒に、味わってみてほしい。
オンラインショップで購入する
一部写真提供:南三陸町観光協会