THE ROOTS OF SHUN(October 2016)

栃尾のソウルフードは、きつね色の分厚い油揚げ

― 新潟県長岡市栃尾

油揚げ

(取材月:September 2016)

新潟県の中央に位置する町・栃尾で300年以上前から愛されている郷土料理「油揚げ」。

油揚げといえば、味噌汁や煮物の具として全国的に重宝される和食の名脇役。薄い板状にした豆腐を油で揚げた平たいものが一般的だが、栃尾の油揚げは少し特別だ。ふっくらとして厚みがあり、大豆の味がしっかりと生きた油揚げは、それだけで一皿のおかずになり得るほどの存在感がある。我々は伝統の油揚げのルーツを探るため、新潟県・栃尾の豆腐店「豆撰(まめせん)」を訪れた。

地元に根付く油揚げ

栃尾で油揚げを食べる文化が発展した背景にはいくつかの説がある。一つは、山間地であるがゆえに魚や肉などの入手が困難だったため、地元産の大豆で作れる油揚げが大事なタンパク源として重宝されていたという説。また一方で、栃尾は上杉謙信が旗揚げした地であり、謙信公によって祀られ“火伏せの神”として崇められていた秋葉神社へ参拝する人々のお土産品として油揚げが誕生したという説などがある。

守門岳(すもんだけ)の山裾に工房兼店舗を構える「豆撰」は、栃尾の油揚げを未来に残そうと奮闘している豆腐屋だ。外国産の大豆を使用するのが主流になるなか、地元・新潟県産の大豆100%にこだわり、昔ながらの製法で油揚げを作っている。

「定義はないですが、栃尾の油揚げは大きくて分厚いのが特長。一枚一枚穴が開いているのは、揚げた後に串刺しにして油切りをするという伝統の製法によるものです。うちでは昔ながらの“生搾り”という方法で絞り出した豆乳で、大豆の味をストレートに味わえる油揚げを作っています」。そう教えてくれたのは「豆撰」の代表取締役・大橋正樹さん。さっそく、その油揚げ作りを見せてもらった。

  • 栃尾
  • 大橋正樹

昔ながらの“生搾り”豆乳で作る自慢の油揚げ

「豆撰」の店舗裏にある工房に入ると、大豆のふくよかな甘い香りと、こんがり揚がった油揚げの香りが漂っていた。多い時は一日3,000枚もの油揚げを作るということで、夏場の工房内は室温40℃にもなるという。

油揚げの原料となる大豆には、タンパク質と糖度が高い新潟県産の「エンレイ」という品種を使用する。大豆の新物が出るのはお正月頃のため、1〜2月に出る油揚げが一番美味しいのだそうだ。しっかりと水を吸わせた大豆をすり潰し、豆乳を生成するのだが、ここで「豆撰」がこだわっているのが“生搾り”という手法だ。

「“生搾り”というのは、大豆をすり潰して出た豆乳とおからを分け、豆乳だけを炊くという手法です。最近は“煮搾り”といって、豆乳もおからも一緒に炊いてから絞る手法のほうが一般的なのですが、そうすると大豆の芽や皮の部分から出るえぐみや青臭さが出てしまうんです。手間はかかりますが、雑味がなく、大豆の風味をストレートに味わえる油揚げを作るためには“生搾り”のほうが良いんです」と大橋さん。

出来上がった豆乳ににがりを加えて固め、薄い長方形にカット。その後、職人が柔らかさを確かめながらプレス機で丁寧に水抜き。しっかりと水を抜いて硬い板状になった豆腐を、香り高い菜種油で二度揚げすることで、ふんわりと美しいきつね色の油揚げが完成するのだ。

「まずは110℃〜115℃の低温で約18分じっくり揚げながら生地を膨らませ、その後に170℃の高温の油でさらに7、8分揚げることで、外側をパリッと仕上げます。大豆の仕込みから揚げの行程まで、どの作業が抜けても美味しい油揚げにはなりません」。

大豆

  • 生搾り
  • 油揚げ
  • 油揚げ

栃尾産の大豆で、本物の「栃尾の油揚げ」を作りたい

「揚げたての一番美味しい油揚げを食べてほしい」という大橋さんの想いから、「豆撰」では工房で揚がったばかりの油揚げを食べることができる。

自家製のだし醤油と鰹節で味付けた熱々の油揚げを食べてみると、外側はサクッと歯切れ良く、フワフワの内側に染み込んだ、だし醤油がジュワっと口の中に広がっていく。大豆の豊かな香りや甘みが食後まで後を引き、なんと味わい深い油揚げかと驚いた。揚げたては店頭でしか食べられないので、ぜひお店に訪れて堪能してほしい。

また大橋さんには大きな野望があるという。それは、“新潟県産”の大豆ではなく、“栃尾産”の大豆で正真正銘の「栃尾の油揚げ」を作ること。

大橋さんたちは4年ほど前から地元の農家や豆腐店と協力し、栃尾での大豆作りの復活を推進。まだまだ収量は少ないものの、週末や祝日限定で“栃尾産大豆”の油揚げを販売することができるようになったという。

「やはり栃尾の土地に根付いた食材なので、地元産のもので作りたい。実際、栃尾産の大豆で作った油揚げは美味しいと評判です。私が生きているうちには達成できないかもしれないですが…いつか100%栃尾産の大豆で油揚げを作ることができたらなと思います」と、笑顔で語る大橋さん。

栃尾には「豆撰」のほかにも、数多くの油揚げ屋や豆腐屋が存在している。現在、油揚げで地域を盛り上げようと、「あぶらげ店マップ」をつくり店舗ごとの味わいの違いを楽しんでもらうなど、地域をあげた取り組みが始まっている。

栃尾の名物油揚げは、地元の人によってこれからも受け継がれ、まちを盛り上げていく。

油揚げ

大橋さん

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : SATOSHI TACHIBANA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

豆撰

所在地 新潟県長岡市栄町2-8-26
TEL 0258-53-2014
営業時間 9:00~18:00
定休日 お盆後の1週間及び年末年始
URL http://mamesen.com/
  • 豆撰