有明海の恵みを受けた美味しい海苔

佐賀県 有明海
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(取材月: January 2015)
九州の4つの県(佐賀、熊本、長崎、福岡)にまたがる有明海。阿蘇山を水源とした筑後川をはじめ、大小100以上もの河川が流れ込む有明海は海水と淡水が混じり合う九州最大の湾である。また、潮の干満の差が最大6mと大きく、その海流が生む干潟によって、個性豊かな生き物の生態系が育まれている。 こうした自然環境を背景に、有明海ではさまざまな海産物が水揚げされ、全国各地へと届けられる。その中でも、有明海で収穫された海苔に関しては「有明海苔」とも呼ばれ、全国にその美味しさは浸透している。
全国屈指のブランド海苔「有明海苔」の美味しさの理由に迫るため、日本一の海苔の生産量を誇る佐賀県・有明海に足を運んだ。

海苔を育む、有明海の恵みと生産者の努力

支柱式写真

有明海の海苔づくりは海に大量の支柱を立て、その支柱に網を張っていく「支柱式」と呼ばれる独自の養殖方法でおこなわれる。この「支柱式」は有明海の特長である最大6mといった世界でも有数な干満差あってこその養殖方法である。満潮時には海苔が海水に浸かることで海の栄養を吸収し、干潮時には海面から海苔が上がり日光を浴びてうま味を蓄えるといった自然の力によって、美味しい海苔が育つサイクルが生まれているのだ。

また、有明海に流入にする無数の河川からの淡水によって海水の塩分濃度が下がり、このことによって食べると口の中で溶けるような「有明海苔」特有の柔らかさをつくりだしている。
まさに、自然の恵みをうける有明海は海苔づくりにとって最適な環境といえるのだ。

海苔養殖写真

だが、「支柱式」で海苔の養殖をおこなっていくには環境条件や細やかな手入れが必要となってくる。支柱の調整は気温や天候、干満の差など様々な要素に気を配りながら、昼夜問わず行われている。

古賀さん写真

佐賀県有明海漁業協同組合芦刈支所の支所長、古賀勝則さんは海苔養殖にもっとも大切なことは環境保全だと話す。
「環境保全の観点から、養殖期間以外の時期には海底の耕うん(耕すこと)や海岸の掃除等をおこなっています。最近は以前と比べ大きな台風が有明海に上陸しなくなったこともあって、海中に酸素を送るための耕うんが必要となりました。また、海苔に異物が付かないための海岸の掃除も欠かせません」。
こうした環境保全は海苔だけのためではなく、有明海全体の豊かな生態系を守るためにも必須なことだという。
他にも環境の変化による水温の上昇など、海苔づくりの課題は多い。その年々で刻々と変化する環境条件を見極め、海苔の種付けや収穫の時期に対応していかなければならないのだ。

海苔収穫写真

「有明海苔」は、まず春から夏にかけて、種を牡蠣殻に植えつけ陸上の培養場で育てる。その後、夏から秋に移り変わり、水温が23℃台まで下がる10月頃には成熟した種が牡蠣殻から飛び出すため、網を海に出して種付けをおこない、10月?3月の秋冬の時期に養殖・収穫をおこなう。特に、秋冬の最初に収穫した一番摘みと呼ばれる海苔は柔らかく香りが良いのが特長で市場価値も高くなるという。

「収穫時期は、夜中に船を出し海苔を摘み、昼間は海苔の乾燥、結束、箱詰めなどを行います。その間に海苔の網の手入れと支柱の調整なども必要で、秋冬は1日の中で3?4時間ほどしか休めないくらいに忙しいですね」と、古賀さんは話す。
海苔の収穫は一般的には夜に行われる。海苔が日光を受けている昼間の収穫ではなく、海苔の細胞が眠っている夜に収穫することで海苔に含まれるうま味成分が保たれ、さらには仕上がりの色艶も良くなるそうだ。

有明海の冬の夜は寒さもさることながら、真っ暗な海にでる恐怖感はいつまでたっても慣れるものではないと古賀さんは話す。暗闇の中、海面に立つ波を見定め、注意をはらいながら漁場に向かい、手際よく海苔の収穫、網の手入れをおこなうという。
有明海の海苔の収穫は、せわしなく厳しい現場でもあるが、一年の集大成ともなる収穫時期は、どの生産者も気持ちが高揚する時期でもあるのだ。

産地との密接な結びつきが、上質な海苔を生みだす

海苔分類写真

収穫された海苔は加工場に集められ、板状に乾燥させ出荷する。その際、色艶と形によって海苔はそれぞれの等級に分類され、入札に出されていく。
毎年1月初旬に開催される入札会は、その年の最初に有明海で生産される佐賀海苔の入札の日。冬に収穫された一番摘みの良質な海苔を求め、佐賀をはじめ有明沿岸地方で行われる入札の場には、全国からの海苔業者や問屋、メーカーなど多くの目利きたちが集まってくる。

海苔商品写真

我々はそのうちの一社、創業から160年以上の歴史を持つ東京日本橋の老舗海苔店の山本海苔店佐賀工場を訪れた。山本海苔店は「美味しい海苔をつくる」という信念のもと、2014年9月に海苔の生産加工場を佐賀県に新設した。

山本海苔工場写真

丸梅印が印象的な山本海苔店。その印の由来は、海苔が梅と同じように香りを尊び、梅の咲く寒中に最も上質の海苔が採取されたことにちなんでいるという。丸梅印が大きくあしらわれた山本海苔店佐賀工場は、有明海沿岸部から内陸にわずか30分ほどのところにあり、摘みたての海苔の鮮度をそのままに加工、出荷できるようになっている。

甘糟さん写真

佐賀に工場が移ったメリットを製品部・次長の甘糟裕次さんに伺った。
「生産者に密着できることで圧倒的に情報の量が増えましたね。東京では掴めなかった海苔の情報を得ることができます。こちらからも『こういう海苔を作ってもらいたい』などと消費者の要望をいち早く、具体的に生産者へ伝えることができるようになりました」。こうした生産者と一体となることで、山本海苔店では今まで以上に、より上質な海苔を仕入れることが可能になったという。
また、堅実で、誠実な県民性を備えた佐賀採用の社員が、期待通り良品製造の力強い戦力となっていることも、工場を佐賀に移転した成果にもなったと甘糟さんは話す。

海苔ひとすじ・老舗海苔店の誇り

山本海苔写真

山本海苔店では、一般的な海苔の等級とは別に、山本海苔店独自の格付けの基準を設けている。仕入れられた海苔は山本海苔店の経験豊富な目利きが、色艶、形状だけでなく、味についても重視し、焼海苔、味附海苔、佃煮などの製品ごとに仕訳けされていく。

目利きの一人、仕訳技術室・次長の藤田博明さんに海苔の仕訳けについて話を伺った。
「例えば、少し穴が開いた海苔ですが、一般的な判断では、それだけで等級が下がってしまいます。しかし山本海苔店では穴だけでは海苔を判断しません。味として良いか、製品に合うかなどの基準に合わせて仕訳けをしています」。
また、高値で仕入れられた海苔でも、山本海苔店の目利きの判断によっては、格付けの扱いを下げる場合もあるというから驚きだ。
海苔を見つめ、長年の経験から細かに海苔を仕分けする藤田さんの厳しい目には、創業160年を超える老舗海苔店の目利きとしての自信が伺える。

「うまい海苔」を求めて、東京・日本橋から佐賀の有明海に飛び出した山本海苔店のその決断は、仕入れや目利きに携わる一人ひとりの誇りと、より質の良い海苔を食卓に届けるための飽くなき探求心がさせたものなのだろう。

海苔づくりに恵まれた有明海の自然、手間ひまをかけて海苔づくりに携わる生産者の努力、その海苔を最高の品質で提供しようという目利きの信念。こうしたさまざまな要素がどれひとつと欠けることなく強く結びつきながら「有明海苔」の美味しさは全国の食卓へと届けられている。

Writer : YASUHARU MOTOMIYA
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Photographer : YU KAWAKAMI

株式会社 山本海苔店

所在地 東京都中央区日本橋室町1丁目6番3号
TEL 03-3241-0261
URL http://www.yamamoto-noriten.co.jp

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

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