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THE ROOTS OF SHUN (February 2015)

自然との共存で生まれる“はちみつとチーズ”

― 大分県

(取材月:November 2014)

豊かな自然を擁し、海外からの観光客も多く訪れる大分県。ここ大分県では自然と共に生きる人たちの想いが深く関わり合った、その地域でしか表現できないオンリーワンの食材が数多く生まれている。
自然と共存しながら食材と向き合っている作り手の想いに触れる旅。それは、我々が知らなかった、とびっきりの食材との出会いにつながっていく。

4代受け継がれ、100余年続く転地養蜂の老舗

大分県の北東部に位置する国東(くにさき)半島で100余年続く老舗養蜂場を営む近藤養蜂場を訪れた。ここ近藤養蜂場では長年に渡って“転地養蜂”と呼ばれる養蜂をおこなっている。
“転地養蜂”とは各地の花の開花時期に合わせて南から北へミツバチの巣箱を移動させながら採蜜する養蜂方法であり、日本ならではの南北に伸びる地理的特性を生かした伝統的な養蜂スタイルである。この“転地養蜂”で採蜜されたハチミツは各地に咲く“旬”の花々の種類によって味が微妙に変わっていく。まさに、その時期にしかできない自然から生まれたハチミツの味を堪能することができる養蜂方法といえるだろう。

「暖かい気候と自然に恵まれた国東半島は、蜂を飼うのに非常に適した自然環境です」。
春の開花を待ち望み、冬を耐え忍ぶハチたちを前にして近藤養蜂場3代目の近藤純一さんは話してくれた。

近藤養蜂場は明治42年(1909年)に国東の地でれんげの花の採蜜から始まった。今では4代に渡って日本の伝統的な“転地養蜂”が受け継がれている。

近藤さんは北海道で集めてきたハチミツを食べさせてくれた。その味は、濃厚かつ品の良い甘さで後味がとても爽やかだった。

「各地で集めてきた巣箱の蜜は、この後、遠心分離器で蜜を落とし、少し熱を加えて精製していくので、とれたての味はなかなか再現できません。近藤養蜂場では、なるべくとれたての風味を味わってもらいたいという想いから、全ての工程を手作業で進めています」と、近藤養蜂場の安藤さんは話す。

ハチミツはとてもデリケートであり、蜜を精製する際に熱をかけ過ぎるとハチミツが持つ成分が破壊されてしまうという。そのため、近藤養蜂場ではその日の気候や温度などをみて、人の勘と経験を頼りにした微妙な調整を重ねながら、巣箱の取り扱いから瓶詰めまでの作業をおこなっている。

「環境に左右されることが多い養蜂には365日、その日、その日に合わせた仕事があります。瞬時に天候をみて何をやったら良いかを判断するには、20年ハチを飼い続けなければ分からないこともたくさんあります。こうしたなかで、養蜂を続けていくということはとても難しいことなんです」。
現在、国内で養蜂家を営む生産者は減ってきていると安藤さんは教えてくれた。そのなかでも自然環境に大きく左右される伝統的な“転地養蜂”をおこなっている養蜂家は希少になってきたという。

デリケートなハチミツの味はもとより、ハチも暑さ、寒さに弱い。また農薬などの人が及ぼす環境要因にもハチは敏感に反応する。環境が悪ければ瞬時にハチは死んでしまうのだ。現在、置かれている環境を直視し、ハチとハチミツに気遣いながら、近藤養蜂場の人たちは南から北へ各地の花を求めてハチと共に移動する日々を送っている。

養蜂写真

ハチミツ写真

養蜂工程写真

次の100年に向けた近藤養蜂場の取組

100余年続く近藤養蜂場では“転地養蜂”という伝統的な養蜂方法を受け継ぎながらも次の100年に向けた新たな取組にも挑戦している。

その一つが、消費者にハチミツをもっと楽しんでもらいたいという想いから生まれた新ブランド「BEE my HONEY」だ。"食を愉しく、豊かに"をコンセプトに「塩ハチミツ」、「胡椒ハチミツ」など普段の生活のなかにひと味添える調味料としての新しいハチミツの愉しみ方を提案している。

伝統を重んじながらも、次の100年に向けて消費者がハチミツと出会える機会を創り出していく近藤養蜂場。その取組は、自然との共存によって生まれる食文化の大切さを我々に気づかせてくれる機会までも創り出している。

Bee my HONEY写真

由布院の湧水との出会いが極上のモッツァレラを生む

いまや、海外でも人気が高まっている大分の温泉街のひとつ、由布院。昔ながらの風情を大切にした街並みには歴史があり、おもてなしが行き届いた旅館が多く立ち並ぶ、九州を代表する保養地となっている。

その由布院の中心からほど近い山の中でこだわりのチーズを作り続けるチーズ職人がいる。クックヒルファーム代表の上浦眞理さん。
もともと東京で生まれ育ち、料理人をしていた上浦さんだが、料理の道で出会ったチーズに惚れ込んでいったことをきっかけにチーズ職人になったという。

クックヒルファームでは熟成チーズからフレッシュ、クリーム、フロマージュ、フェタなどのチーズを中心に取り扱う。上浦さんいわく、由布岳由来の湧水がクックヒルファームのチーズの美味しさに一役かっているという。

チーズの熟成庫の温度は8℃?12℃、湿度は85%以上が一般的に適しているといわれている。多くの工場では、それを機械的に調整しているが、クックヒルファームの熟成庫は機械的な調整をほぼ必要とせずに、チーズに適した熟成環境を実現しているという。クックヒルファームの熟成庫は、ちょうど、工房からすぐ近くにある湧水地の標高と同じくらいの高さにあり、熟成庫の壁からは湧水地から流れ着いた水がシトシトと染み出している。この湧水によって温度、湿度が保たれた天然の熟成庫をつくり上げていったのだ。

また、この地では発酵と熟成に必要な土地由来の微生物も別府大学の調査で見つかっており、まさに由布院独自のチーズを作る環境がここにはあった。

「日本には、味噌などに代表される発酵食品の文化が古くからあります。チーズも同じ発酵食品。ぼくは、チーズにも日本独自、そして、地域独自のチーズ文化があっていいと思っています」。

チーズにかける、上浦さんのこだわりは、製造方法のみならず原料にまで及んでいる。
「最初は、チーズ用の牛乳は生産者に分けていただいていましたが、やはり原料乳からこだわって作りたいという想いで、いまでは乳牛から卸まで自社で一貫しておこなっています」。
その土地の牛乳や微生物などの作用でつくられるクックヒルファームのチーズは、まぎれもなく由布院の自然環境がつくりだすオンリーワンのチーズである。

大量生産には適していないという上浦さんのチーズは、長い時間をかけ地元・由布院のなだたる旅館の料理人から信頼を勝ち取ってきた。その代表的な製品にモッツァレラチーズがある。
クックヒルファームでは、地元のレストランに卸す際にモッツァレラチーズをカード(モッツァレラチーズの元となる発酵させた牛乳)のまま出荷する。そうすることで、よく目にする袋詰めのチーズでは味わえない、出来立てのモッツァレラチーズを調理場で作って提供することができる。

由布院の自然が育む極上のモッツァレラチーズは、原料乳の生産から卸の部分まで、自らが責任をもてる質と量を届けるという一貫した上浦さんの哲学のもと生み出される。

クックヒルファーム写真

チーズ写真

  • 湧水写真
  • 熟成庫写真
  • 上浦さん写真
  • モッツァレラチーズ写真

自然との共存を土台として成り立ってきた日本の食文化。日本各地に豊かな自然があり続ける限り、そこには自然に魅了された作り手たちの手間ひまと熱量が今も息づき、食の愉しみが無限に広がっていく。

Writer : YASUHARU MOTOMIYA / Photographer : KOJI TSUCHIYA

近藤養蜂場

所在地 大分県豊後高田市草地8767
TEL 0977-76-2266
URL http://www.832.co.jp/

クックヒルファーム Cook Hill Farm

住所 大分県由布市由布院町塚原135
TEL 0977-85-4220
URL http://cookhillfarm.com/

大分県 観光情報

japan-guide.com http://www.japan-guide.com/list/e1243.htm