真っ赤に輝く夏の宝石。
たっぷりと降り注ぐ太陽がサクランボを赤くする
サクランボ農園が密集している村山地方では、サクランボの収穫時期が近づくと、町のいたるところに背の高いビニールハウスが連なっているのを目にすることができる。中をのぞいてみると、真っ赤な実をたっぷりと付けたサクランボの木が、今か今かと収穫の時を待っているように見える。
果樹栽培が盛んな村山地方は、四方を山々に囲まれた、山形盆地を中心とした地域。水はけのいい土壌や豊かな水源はもちろん、美味しいサクランボが育つ最大の理由は、“気温”と“日差し”という二つの条件が揃っていること。村山地方の気温は、昼夜の温度差が大きく、春夏秋冬の年間を通した気温変化もメリハリが効いている。昼間はたっぷりと太陽の光が降り注ぎ、日が落ちると涼しくなるので、養分が実の中にキュッと閉じ込められ、美味しいサクランボが出来上がるのだ。
1年で最も忙しいサクランボ農家の夏
昼間の時間が一番長くなる夏至の頃、村山地方のサクランボ農家はまさに収穫のピークを迎えていた。
約50年間サクランボを作っているベテラン・柴田静江さんの果樹園は、いまやサクランボの代名詞ともいえる「佐藤錦」発祥の地として知られる山形県東根市にある。
綺麗に整備された果樹園に入ってみると、どの枝にも弾けんばかりに膨らんだ真っ赤なサクランボがぶら下がっていた。収穫間近の佐藤錦を摘んで「食べてみて」と渡してくれる静江さん。口にすると中から甘酸っぱい果汁がたっぷりと溢れ出し、そのみずみずしさと味わいの濃さに驚いた。
6〜7月上旬にかけての収穫時期は、サクランボ農家にとって1年で最もハードな時期だ。収穫作業は朝4時から始まり昼まで続く。さらに午後からは箱詰めと発送作業が待っている。
「サクランボは朝早くに採らないとダメ。日が昇って気温が上がってくると、うるみ(実が柔らかくなること)が出て食感が悪くなってしまうからね。収穫のタイミングも大事で、放っておくと実の色が黒くなりすぎてしまう。一番美味しい時を見極めないといけないの」。
静江さんは慣れた動きでサクランボを手摘みしながら、腰に付けた籠に放り込んでいく。「サクランボのことは大好きだけっどよ、この時期はしんどいわ!」と静江さんは山形弁で話しながら笑った。
次に訪れた山形市の「蔵王園」は、山の中でサクランボを栽培している。山肌に沿って連なる畑は風通しが良く、春先にサクランボの花の天敵となる霜を防ぎやすいのだそう。
「サクランボ作りは人間を育てるのと一緒です。太陽を浴びないと実が育たないし、高温が続きすぎると傷みやすくなる。また雨に当たると実が割れてしまうので、梅雨に入る前の5月頃にビニール屋根を張るんです。屋根の高さは7mほどもあり、危険な作業ですが、美味しいサクランボを作るためには不可欠な作業。自分が作ったものを“美味しい”と言ってもらえることが、やっぱりうれしいですね」と話すのは、代表取締役の山口浩司さん。
秋にはラ・フランスや、「伊豆錦」という自慢の巨峰の収穫も控えていて忙しさは続くが、「自分で作って、自分で売る」ことへの喜びを日々感じているそうだ。
一瞬で過ぎ去ってしまうサクランボの“旬”を味わう
夏の訪れを告げるサクランボの“旬”はとても短く、露地物の収穫期間は1年のうち6月上旬〜7月中旬のみ。あっという間に“旬”が過ぎてしまうので、逃さないようにしたい。品種によって出回る時期が少しずつ異なり、それぞれ味わいや食感も違うので、食べ比べるのも愉しい。
「佐藤錦」は、6月中旬〜6月下旬が“旬”。果肉は柔らかくジューシーでみずみずしく、甘味と酸味のバランスが良いさわやかな味わいは夏の暑さを癒やしてくれる。
また、近年注目を集めているのが、「佐藤錦」と「天香錦」を交配させて誕生した「紅秀峰(べにしゅうほう)」という品種。7月上旬と少し遅めから出回る晩生品種で、糖度20度以上と甘味が強く粒も大きい。「佐藤錦」よりも少し濃い色合いで、果肉が硬めで日持ちがするので贈答品としても人気だ。
サクランボはそのまま生で食べるのが一番美味しい果物。さらに収穫してから2〜3日以内に食べるのが理想なので、美味しく味わうなら産地で新鮮なサクランボを食べるのがベストだ。道の駅や直売所はもちろん、サクランボ狩りを実施している果樹園なら、採れたてのサクランボを食べることができる。
上山市にある「川口観光果樹園」は、自家製堆肥を使った土作りにこだわる果樹園。ここでは毎年6月下旬〜7月初めまでの期間限定で、広い果樹園の一部を使って観光客向けのサクランボ狩りを実施している。お土産用のサクランボが買える直売所もあるので、“旬”の時期にぜひ訪れたいものだ。
山形の自然が育てた真っ赤なサクランボで、夏を味わってみてはいかがだろうか。
山形県のサクランボ
情報提供:サクランボ農家 柴田静江さん“旬”の時期
・露地物は6月上旬〜7月中旬(品種により異なる)
目利きポイント
・きれいな赤色をしている
・実が張っていて、皮にツヤがある
美味しい食べ方
・できるだけ新鮮なものをそのまま食べる