THE ROOTS OF SHUN (January 2015)

焼豚の味と香りに込められた職人の誇り

― 鹿児島県南さつま市

(取材月:November 2014)

薩摩半島の西岸に位置する南さつま市。東シナ海に面し、日本三大砂丘のひとつ、吹上浜が約30kmにわたって美しい弧を描く。砂浜はアカウミガメの産卵地として知られるほか、万之瀬川の河口付近には世界的に珍しい野鳥、クロツラヘラザキが飛来するなど、手つかずの自然が残る地域である。

大昔より火山地帯に囲まれたこの地域には、シラス台地とよばれる火山性土壌が広がっており、稲作には向かなかった。そのかわりに、中国から琉球経由でもたらされたサツマイモとそれを飼料とした豚の肥育によって、独自の肉食文化が花開いた。

南さつま市風景写真

1980年、鹿児島の風土と豚肉に魅せられ、この地から全国に認められる商品を作りたいという夢を抱いた人物がいた。株式会社山野井の創業者、山野井進氏。現在はドイツで修行を積んだ息子の山野井進治氏が跡を継ぎ、ハムやソーセージなどの幅広い商品展開をしているが、発展の礎となったのは、「炭焼き焼豚」だった。今回は南さつま市にある山野井の本社工場を訪ね、今も愛され続ける「炭焼き焼豚」の製法の秘密を探ってみることにした。

南さつま市風景写真

焼豚の旨みを引き出す、特別醸造醤油との出会い

食品安全マネジメントシステムISO22000取得したばかりの工場と聞き、最新鋭のオートメーション工場を想像していたところ、ほとんどの工程が手作業であるという事実に驚かされた。肉の塊からスジや余分な脂を取り除き、かたちを切りそろえる作業を職人が手慣れた様子で行っていく。

次の工程では、味を染みこませるために凧糸を巻いた豚肉を特製のタレに漬け込む。
この特製のタレに使われている「醤油」に、ひとつめの味へのこだわりがある。

醤油は、山野井社長と、宮崎県都城市にある創業140年の老舗醸造屋、ヤマエ食品工業開発部長の吉田さんによって生み出された、特別醸造の醤油を使っている。

先代から山野井を継いだ山野井社長は、味に磨きをかけようと、さらなる高みを追求する中で、タレの決め手である醤油に目を付け、ヤマエ食品の醤油に出会った。

だが、醤油を変えるということは今までの味が変わってしまうということ、必ず美味しい焼豚にするという自信はあったが、お客様のことを考えると、決死の覚悟だったという。それでも、より良い焼豚をお客様に届けたいという山野井社長の想いは強く、その想いを受けとめた吉田さんとの二人三脚での醤油作りは始まった。そして何度も試行錯誤を重ねながら、ようやく山野井の焼豚に合うこだわりの醤油を作り上げたのだ。

ヤマエ食品のある宮崎県都城市は、霧島山の豊富な地下水に恵まれ、醸造業を営むのに最適な土地柄である。その地で、地元宮崎産の大豆をはじめとした国産大豆と国産小麦を通常の約1.5倍も使い、醸造工程にも通常の倍の時間(約一年)をかけて作り上げた。

「一般的には『脱脂大豆』といって、油をとったあとの大豆を使って製造します。しかし、丸のままの豆、しかも希少な国産品の豆は炭水化物や脂肪分などの成分を多く含み、まろやかで非常に複雑な持ち味の醤油になります。職人として納得のいく醤油を開発できたのはよかったのですが、醤油にパワーがありすぎて使いこなすのが難しいほどです。山野井さんの焼豚づくりの技術によって、この醤油の魅力を最大限引き出すことができました」と語るのは、ヤマエ食品開発部長の吉田さん。
そして、山野井社長もこの醤油に惚れこんでいる。「この醤油を使って焼豚を完成させたとき、他のものはもう使えないと感じましたね。焼いたときの香りの立ち方までが違う。この醤油は、焼いて、真空パックにした後まで肉の奥へ奥へと味が染みこんでいくのです。お客様にも味に満足いただけて、山野井の味として確立することができました」と誇らしげに語った。

焼豚写真

吉田さん写真

山野井社長写真

東シナ海の海風を味方につけた、職人芸「炭焼き」

次は焼豚作りの山場、「炭焼き室」を見せていただくことに。ドアが開いたとたん、大きな換気扇が回り続ける部屋のなかから、円筒型をした釜から発せられる炭の熱と、肉の香ばしい香りが漂ってきた。

この円筒型の炭焼き釜こそが、焼き方にとことんこだわった先代社長が考案した山野井独自のものだ。一度に焼ける量は30本程度と小さな釜だが、これが炭を使って焼くために最適なかたちなのだ。樫の炭と雑炭の二種類を適宜使い分けながら釜の底に入れ、250〜260℃に維持した熱を熱伝導で釜の中にまわし、吊した焼豚をときどき返しながら均一に焼き上げていく。焼きは長すぎず、短すぎず。加減を見極めて、絶妙なタイミングで豚を釜から引き上げていくのは、焼きを専門とする職人の経験と勘である。

実はここにもうひとつ、目に見えない “助っ人”が加わっている。炭火をおこし、炭焼き室の空気を循環させるのに必要な「強い海風」だ。 東シナ海に面した吹上浜からほど近く、強い海風が吹き込んでくることも、山野井が工場の立地としてこの場所を選んだ理由のひとつだという。
「良質な食材が揃うことはもちろんですが、豊富な地下水、風、炭、そのどれひとつ欠けてもだめで、この地でしか作れないもの、真似できない味というものが確かにあるのです」と山野井社長は語る。
山野井で使う炭の一部には、地元長屋山の炭職人がつくる黒炭を使っている。東シナ海の強い海風にさらされる厳しい環境下では、樹木は短くしか育たない。そのため太く生命力が強くなり、長屋山の炭は、火力が強く、なおかつ長持ちし、炎も音もほとんど立てずに安定した熱を発し続けることができるという。 そして我々は、長屋山の炭職人のもとへ向かった。

職人写真

良質な木炭でなければ出せない香り

長屋山の中腹にある炭焼小屋で、窯を開けるタイミングを待っていた炭職人の山崎さんと出会った。
窯の中に樫や雑木などの薪をぎっしりと詰め、火を入れて約4日間かけてゆっくりと炭化させると、もとの木の太さの3分の1程度に縮んでしまう。山崎さんは炭焼き一筋50年の経験により、立ちのぼる煙の色の変化を見るだけで窯の中が今どういう状態か判断できるという。そしてこのとき「芯まで焼き切り、いかに炭を固く締める」かが、腕の見せどころだ。

かつて、このあたりの山林には樫の木がたくさん育っていたが、樫の木は同時に鰹節製造用の薪としても需要があったため、近年は炭づくりに最適な樹齢30年程度の樫の木が不足してきているそうだ。また時代の流れとともに炭職人の数も減り、いまではここ南さつま市に山崎さんただひとり。

「良い炭で焼くことによって引き出される肉のうまみや醤油の香り。これも私たちの商品づくりに欠かせない要素です。地元産の炭を守ることも味を受け継いでいく私たちの課題として、できることがあれば積極的に取り組んでいきたいですね」

山野井は創業以来、味も品質も常に向上することを目指している。ずっと美味しいと言われるのは、ずっと進歩を続けている証だ。「この風土とともにあるからこそ生み出せる、最高品質の味づくりにこれからも挑戦したい」と、山野井社長は熱く語ってくれた。

山崎さん写真

炭写真

鹿児島の風土と炭、醤油そして人の想いによってできあがった焼豚をはじめ、山野井の商品が揃う「肉匠伝味 山野井本店」を訪れた。「肉匠伝味 山野井本店」は、鹿児島を代表する繁華街・天文館通に位置し、地元の人だけではなく多くの観光客にも、こだわりぬいた山野井の商品が届けられている。店頭では、できたてのメンチカツも販売しており、観光の途中に立ち寄って、食べ歩きするのも魅力的だ。
山野井が挑戦し続けるその美味しさを、ぜひ味わってみてはどうだろうか。

肉匠伝味 山野井本店写真

Writer : HISAYO IWABUCHI / Photographer : TAKAFUMI KOJO & SOSUKE KINOSHITA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

株式会社山野井

本社所在地 鹿児島県南さつま市金峰町高橋3075-28
TEL 0993-77-3800
URL http://www.the-yamanoi.com

肉匠伝味 山野井本店

住所 鹿児島市金生町1-6
*鹿児島市電 天文館通駅より徒歩約5分
TEL 099-210-7500
営業時間 10:00~19:00
定休日 1月1日、1月2日

*東京では、下記店舗で山野井商品を購入できます。

新宿伊勢丹本店 炭匠やまの井

住所 東京都新宿区新宿三丁目14-1 伊勢丹新宿本店本館地下1階
*東京メトロ丸ノ内線、東京メトロ副都心線・東急東横線 新宿三丁目駅よりすぐ
TEL 03-3352-1111(伊勢丹大代表)
営業時間 10:30~20:00
定休日 店舗までお問い合わせください

鹿児島県 観光情報

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japan-guide.com http://www.japan-guide.com/e/e4600.html