人と町に育まれ、宝物になった「にんにく」
50年の歳月をかけて築いた“にんにくの町”
田子町に訪れると、ここが“にんにくの町”であることを実感できる。道路沿いに立つにんにく型の街灯に、真っ赤なポストの上に乗るにんにくのオブジェ。街のいたるところからにんにくを感じ、あの食欲を誘う香りが今にも漂ってきそうな気さえする。
「にんにくの町・田子町」の始まりは1960年代。農家の出稼ぎをなくすため、町ぐるみでにんにく栽培に着手したことが始まり。火山灰質土壌の痩せた土地を、古くから田子町で盛んな畜産の堆肥を使って有機質に改良し、栽培品種は隣の福地村(現・南部町)で栽培されていた「福地ホワイト6片」に一本化。
当初、田子町のにんにくの多くは県周辺で多く消費されていたが、1975年には生産者の努力が実り、東京青果で当時のにんにくの市場価格としては最高価格となる評価を受け、田子町のにんにくは全国的なブランドへと成長していった。
にんにく農家の田沼誠一さんは「選果や選別は厳しいけれど、先代から引き継いだ品質や信用を守るためには、その努力は欠かせない。田子からにんにくをとったら、何が残るんべって想いがあるんですよ」と、話す。先代から引き継いだにんにく作りを町ぐるみで守り、繋いでいくことによって、田子町はにんにくの町となったのだ。
雪の下で春を待つにんにく
「たっこにんにく」の種植えは毎年9月頃からおこなわれる。栄養たっぷりの肥えた土の中で冬を越し、春〜初夏にかけて実は大きく成長。
収穫時期は6月末〜7月中旬の短い間だけ。約1000tのにんにくがいっせいに収穫される時期は、田子町がにんにくの香りに包まれるという。
我々が取材に訪れたのは、気温が氷点下を下回る1月の終わり。畑は一面真っ白でふかふかとした雪に覆われていた。シャベルで雪をどけてみると、下から静かに眠っているように葉の生えたにんにくが姿を現す。
一見、冷たい雪は作物を弱らせてしまうのではと思ったが、実はこの雪こそ、「たっこにんにく」の成長には欠かせないと、にんにく農家の山本わかさんは教えてくれた。
「雪はにんにくの“葉”を冬のからっ風から守ってくれるんです。春になると雪が溶け、顔を出した葉が日光を浴びて養分を得る。それで、にんにくは立派に美味しく育つんです」。
こうした厳しい風土のなかで、「たっこにんにく」の美味はつくられていく。
収穫したにんにくは、根と葉を切り落として乾燥させ、再度仕上げの皮むき・根切りといった作業を経て出荷されるのが一般的。しかし田子町では、年間を通して品質を保ち、安定してにんにくを出荷するために、ある2つの巨大な設備を用意した。
1つ目は、にんにくに50℃の熱風を6時間あて処理する「高温処理施設」。ここでは熱処理をすることによって発芽・発根を抑えるだけでなく、農薬に頼らずに病害虫も防ぐことができる。
2つ目は、約350tのにんにくを収容できるにんにく専用「CA冷蔵庫」。庫内は、窒素と炭酸ガスの濃度を高め、温度はにんにくが凍る寸前の-2℃に設定してあるため、鮮度をキープすることができる。
この2つの設備は田子町が用意した施設ということもあって、農家は自由に利用が可能。町をあげて、良質なにんにくを提供するための環境を作っているのだ。
“産する町”から“楽しめる町”への挑戦
町が一体となり、50年以上もにんにくを作り続けてきた田子町。
いまや「たっこにんにく」は高級ブランドとしての地位を確立している。また、同じくにんにくで有名なアメリカ・ギルロイ市との国際交流など、にんにくをきっかけとした新しい繋がり作りにも邁進。
「町にとって、にんにくは宝ですね。そして田子の魂だと思っています。にんにく自体がというよりも、にんにくを大事に育ててきた想いとか、団結心、これまでの苦労が町づくりの歴史そのものだからです」と、力強く語ってくれたのは田子町長の山本晴美さん。
そして、山本町長はにんにくを通して築く田子町の未来について、「産する町から楽しめる町」という言葉で語ってくれた。
「これまで我々は、ここで産するものを外に出すということだけに一生懸命でした。でもこれからは、外の方に実際に田子町へ来てもらいたい。田子町でにんにくを食べたり、田子町の人と交流したり、ここでしかできない体験をして欲しいと思っています。田子町は山奥ですが、にんにく以外にも『田子牛』や野菜、お米もおいしいといわれています。大黒森からは朝早くに雲海が見えるし、川の流れは清らか。夜は天の川までくっきり見える星空に感動しますよ」。
山本町長が話す通り、田子町では町内にある「ガーリックセンター」には、にんにくパウダーを麺に練り込んだ「にんじゃあ麺」やにんにく入りソフトクリームなど、ここでしか食べられない人気メニューがある。また、毎年10月には、「田子牛」と「たっこにんにく」を食べつくす「にんにくとべごまつり」を開催するなど、年間を通してにんにくに触れることのできるイベントをおこなっている。
作るだけでなく、楽しめる場所へ。
小さな町で育てられた白い宝物は、いま、町の挑戦に大きな力を与えている。
田子町「たっこにんにく」
情報提供:田子町にんにく農家 田沼誠一さん、山本わかさん“旬”の時期
・6月末〜7月上旬のとれたての生にんにく
・8月末の乾燥させ、味が熟成したにんにく
目利きポイント
表皮がしっかりと張っていて、大きさは直径が5~6cm程度で重みのある(実が詰まっている)もの。