今日から始める「ぬか床」のある暮らし

「ぬか床」
日本で古くから親しまれる「ぬか漬け」。ぬか漬けは、米ぬか(玄米を白米に精米するときに取り除かれる表層部分)に水や塩を加えて混ぜ合わせ乳酸発酵させた「ぬか床」に野菜を漬ける、お漬物だ。

最近では手軽に始められるぬか漬けキットも販売されており、ぬか漬けづくりを楽しむ人が少しずつ増えてきている。そこで、全国でぬか漬けのワークショップを開催しているフードディレクターの寺本りえ子さんに、ぬか漬けの魅力について伺った。

美容と健康に効果絶大な「乳酸菌」のチカラ

寺本りえ子さん

寺本さんが食の世界に入り、発酵食に注目するようになったのは、天然の酵素シロップとの出会いがきっかけだった。

「故郷の宮崎県に住む親戚が、家の裏庭に大きな甕(かめ)を置いて、山で採ったあけびやいちじくを黒砂糖に漬けていました。自然界にいる菌で発酵されたもので、それを飲んだら腸内環境が劇的に変わり、身体が元気になっていくのを実感したんです」。

ぬか漬け

腸と健康の関係に気づいた寺本さんは、発酵食についてさっそく調べ始めた。そして、地元宮崎県の野菜を美味しく楽しめる発酵食品としてたどりついたのが、子どもの頃から大好きだったぬか漬けだった。その後、ぬか漬けを意識的に食事に取り入れるようになると、その効果をより感じるようになったという。

「もともと虚弱体質で幼い頃から病院通いを繰り返していましたが、いまでは年を重ねるごとに元気になっています。腸の環境は肌にも影響するので、女性には特におすすめです」。

漬ける食材は自由!様々に楽しめるぬか漬け

ぬか床に入れる食材

ぬか床に入れる食材は、漬け方に工夫が必要なものもあるが、基本的には好みに合わせてなんでも良いと寺本さんは話す。漬ける時間は半日~1日程。塩分や酸味の好みによって時間を調節する。

「大根やきゅうりなどの定番の野菜はもちろん、“旬”のものを入れて季節ごとに楽しむのもおすすめです。夏はみょうがやオクラもいいですし、秋からは根菜が美味しいですよ」と寺本さん。

みょうがとオクラ

ほかにも、アボカドや豆腐など、タンパク質が多いものはチーズのようになり、ワインのお供におすすめ。野菜は浅く漬けることでサラダになったり、肉や魚も漬けることでちょうど良い塩分と酸味と旨みで美味しくなるという。また、ぬか床は発酵が進みすぎると酸味が強くなり、食材が酸っぱくなってしまうが、細かく刻めばドレッシングやタルタルソースにも合わせることもできる。

「いままでのご飯やお酒のおつまみという概念だけでなく、酸味と塩気を活かして、様々な料理に活用できるのもぬか漬けの魅力の一つですね」。

ぬか床

ぬか床の状態は、漬ける食材や環境、漬ける人の手の常在菌によっても日々変化していくという。

「自分だけの好きな味にぬか床を育てていくのがぬか漬けづくりの醍醐味です。昔から、ぬか床は嫁入り道具の一つともいわれ、200年も受け継がれているぬか床もあります。年月を重ねることで深みや旨みが増して、ますます美味しくなり、その家庭だけの味が出来上がるんです」と寺本さんは話してくれた。

美味しさの秘訣はぬか床の管理

ぬか床の管理

ぬか漬けの味は、ぬか床の状態で決まるというが、温度や食材によって微妙に変化するぬか床をコントロールするのはなかなか難しい。

そこで、寺本さん推奨のぬか床レシピとともに美味しいぬか漬けをつくるポイントを三つ教えていただいた。

★ おすすめレシピ

「ぬか床」

■温度などの環境に合わせてかき混ぜる ぬか床の中にいる乳酸菌によっては空気に触れると動きが活発になり、旨み成分をどんどん出すものもいるため、程よくかき混ぜることが大事。

「忙しいときや旅行などで家をあけてしまい、かき混ぜることができないときは、冷蔵庫に入れれば問題ありません」。

■温度管理 発酵に適しているのは20~25度。ぬか漬けを始めるなら5月~6月初旬頃がおすすめ。乳酸菌の活動は、夏場は活発になり冬は穏やかになる。

「真夏の東京の気温だと発酵しすぎてしまうので冷蔵庫をうまく活用するのがおすすめです」。

■水分量に注意 ぬか漬けは、ぬか床に含まれている塩分の浸透圧で食材から水分が染み出て、逆にぬか床の旨み成分が食材に染み込んでいく。ぬかに水分が染み出ると、水分が増えてぬか床がゆるくなるため、適度に「足しぬか」をして、ぬかの状態を整える必要がある。

「足しぬかのタイミングは人それぞれですが、漬けている量と漬ける食材によって1ヶ月に1~2回程度でしょうか。ぬかの状態を確認するときは、ぬかの味見をしたり、目で見て水分量を確かめます」。

生きたぬか床と向き合って、楽しいぬか漬け生活を

ぬか床

手間ひまをかけてつくるからこそ、自分でつくったぬか漬けは、美味しさが全然違うのだそう。

「ぬか漬けはぬか床から出したてが一番美味しい。まさに手づくりならではの楽しみです」と寺本さんは話す。

「他の発酵食品と比べても、ぬか漬けは手入れが必要な分つくるのは大変です。でも、その分思い入れは一番かもしれません。ワークショップのお客さんの中には、ぬか床に名前をつけている人もいます。管理するというよりも、会話をするような感覚で愛着が湧くんです」。

ぬか漬けを楽しむ秘訣は、「無理なく、楽しく、自分らしく」だという。自分だけのぬか床で、ライフスタイルに合ったぬか漬け生活を楽しんでみてはいかがだろうか。

Writer : YUKI MOTOMURA
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Photographer : CHIZU TAKAKURA & YUTA SUZUKI

プロフィール

寺本 りえ子さん写真 「JOY of AGING」 「有機JAS認証の米糠と天然塩で作るぬか漬けキット」
寺本 りえ子(フードコーディネーター、ベジオベジコ ディレクター)
宮崎県生まれ。高校卒業後、都内の音楽の専門学校に進学。自身のCDをリリースしたり、様々な音楽アーティストとコラボするなど活躍。その後ケータリングやフードコーディネーター、飲食店のディレクション、アドバイザーを務める。また現在では宮崎県産野菜を販売する「ベジオベジコ」のディレクターとしても活躍。各地でぬか漬けの魅力を伝えるワークショップをおこなっている。
著書紹介 「JOY of AGING」
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