海と向き合うアップサイクル出汁。熱海の未活用魚から作られた「まるごとフィッシュブイヨン」

熱海ブイヨン
年間約300万人が訪れる人気観光地・熱海。眼下に広がる相模灘、約1500種類もの魚が水揚げされる日本屈指の豊かな海です。その反面、“未活用魚”と呼ばれる市場に出回らない魚が数多く発生していることは、地元でもあまり知られていません。そんな“未活用魚”を活用したプロダクト、「まるごとフィッシュブイヨン」について取材しました。

<「まるごとフィッシュブイヨン」のここに注目>

「まるごとフィッシュブイヨン」のイメージ画像

・未活用魚や廃棄されてしまう魚の部位を活用した、アップサイクル濃縮出汁
・特殊な製法で、身も骨も内臓もまるごと使用
・スープだけでなく、サラダや煮物など幅広い料理に使える万能さ

地元民も知らない、未活用魚の存在

「まるごとフィッシュブイヨン」を開発した熱海千魚ベースプロジェクトの代表・水野綾子さんは、熱海市出身。熱海のまちづくりに携わるなかで、地元の海の豊かさを改めて知ると同時に、未活用魚の課題についても関心を寄せるようになりました。

漁の様子

「規格外のサイズや、骨や鱗が細かくて加工にコストがかかってしまうなどの理由から、水揚げされても市場に出回らない魚が発生してしまうことを知りました。世界では、未活用魚の3〜4割がそのまま廃棄されているというデータも。そうした未活用魚の存在は、地元でもあまり知られていません。そこで、未活用魚の価値化を通して、より多くの方に熱海の海に興味を持ってもらうための機会をつくりたいと思い、このプロジェクトを立ち上げました」。

特殊製法でまるごと濃縮。ソーシャルグッドな万能だし

学校教育

2020年に熱海千魚ベースプロジェクトを発足し、未活用魚を地元の小学校の給食で活用したり、学校や親子に向けた出張授業など、教育事業を軸に取り組んできた水野さん。それらと並行して、プロダクトの開発をスタート。開発に1年以上かけ、2024年1月に「まるごとフィッシュブイヨン」を発売しました。

未活用魚

「プロジェクト名に掛けて、料理の“ベース”となる出汁の商品をつくりたいと思っていました。ただ、未活用魚と言われるだけの加工面で課題ある魚たちを使った商品の開発は、想像以上に大変で。安定的にとれる未活用魚の選定が難しいことに加え、加工が大変な魚たちをまるごと加工できる技術を持つ企業さんを探すのも一苦労でした」

試行錯誤を重ねた結果、未活用魚のマルアジとシイラに加え、従来廃棄されていたサイズの小さいイサキや金目鯛のあらを使用。およそ1年半かけて出会った特殊製法で、骨や内臓、鱗までまるごと煮込み、ブイヨンに。魚の旨味がこの1本にぎゅっと凝縮されています。

「スープやお吸い物だけでなく、パスタやカオマンガイなど、幅広い料理に使えるようにつくりました。『1本あると重宝する』と、好評をいただいており嬉しく思っています。また、熱海は意外と特産品が限られているので、地域に根ざしたプロダクトというところで、地元のお土産屋さんからも人気なんですよ」

使用例

ちなみに水野さんのおすすめの食べ方は、マヨネーズとレモン汁を合わせて、サラダにかけるというもの。ドレッシングとしても使える、まさに万能調味料です。

目指すのは、すべての魚が“未活用魚”を卒業すること

一方で、特定の未活用魚の活用については、安定的な供給が難しく、乱獲などの問題にも発展しかねないというジレンマも。今後は、魚を大量に必要としないかたちで、未活用魚や海の保全への関心に繋がる取り組みもしていきたいと、水野さんは話します。

フィッシュビール

2024年6月1日に発売された「FISH BEER 夕凪のペールエール」は、まさにそうした思いから生まれた商品。静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターと共同開発したこのクラフトビールは、なんと未活用魚から採取された酵母からできているんだとか。もちろん、魚臭さは一切ナシ。爽やかな味わいに、未活用魚のイメージがまた一つ変わるかもしれません。

水野さん

「“未活用魚を食べよう”というより、地域でとれている魚をまんべんなくいただこうよ、ということなんです。熱海に限らず、今は未活用魚と呼ばれている魚たちが、ゆくゆくはそれを卒業して、プロダクト自体がなくなるのがいいことだと思っています。そのためには、一人ひとりが考え、自分にできることから行動してもらうことがとても大切なんです」。

小さくとも多様な取り組みを、熱海を拠点に広げていく。おいしいだけでなく、海の資源や生き物の大切さと向き合うきっかけをくれる「まるごとフィッシュブイヨン」を、ぜひご賞味あれ。

Writer : AKI MURAYAMA
 / 
Photographer : YUTA SUZUKI
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

熱海千魚ベース

URL https://atami-sengyobase.com/
シェア
ツイート

おすすめ記事