日本の“農的な暮らし”を体験して欲しい

―写真家/epa通信社日本支局長/ブラウンズフィールド代表 エバレット・ブラウンさん
エバレット・ブラウンさん写真
全国を旅しながら日本の伝統風俗を撮り続けている写真家、エバレット・ブラウンさん。1999年からマクロビオティック料理研究家である夫人(中島デコさん)とともに千葉県いすみ市に移り住み、昔ながらの知恵に基づく心地よい暮らしを提案する「Brown`s Field(ブラウンズフィールド)」を経営している。ブラウンさんを魅了した日本の魅力とは。

農や食の引力によって人々が出会う場、それがブラウンズフィールド

いすみ市でブラウンズフィールドを始めたきっかけは何ですか?

ここはもともと知人が住んでいた場所です。その人がビジネスで中国に移住することになり、家を譲る人を探していました。見に来てみたら、古民家の目の前に田んぼがあり、林に囲まれて独立しているという希少な土地で。しかも、東京から1時間半と近く、海からも近い、でも湘南と違ってこちらは夏のオンシーズンでも道路が混まないんですよ。ビーチも混んでいなくて、朝方は夏の海岸を一人きりで歩けます(笑)。それで引っ越してくることに決めました。最初は普通の住まいでしたが、次第に、食と自然のつながりを求める人々が集まるようになっていき、カフェ、宿、ギャラリーをおこなう場へと広がってきました。 それと、東京に住んでいた頃、私は民俗学を勉強していたんですが、日本の神道、祭り、年中行事のすべてが米作につながっていることを知りました。「これは自分で農業をやらないと日本を語る資格がないな」と思い始めたことも、いすみ市に住み始めたきっかけです。アタマでわかるのと、カラダでわかるのは全然違うことだと思ったのです。
ブラウンズフィールド写真

長寿国ニッポンの食文化に興味

ではエバレットさんがそもそも日本に興味をもった理由とは何なのでしょうか?

いろいろな理由があるけど・・・何から話そうか(笑)。 大学時代は文化人類学を専攻し、20代は世界を50ヶ国以上旅してまわり、旅の途中で日本に着いたときに「とても相性がいい」「人との関係が気持ちいい」と感じたんです。文化が多彩で、最先端のものと伝統的なものが同時に存在しているし、食や東洋医学にも惹かれました。 特に東洋医学では“食は最も優れた薬である”という考え方がありますね。日本が長寿国なのはなぜだろうと追究していくうちに、日本の食文化にも興味を持つようになりました。
インタビュー中のエバレットさん写真

日本全国を旅してきたエバレットさんが、その時その場所でしか食べられない食べ物のなかで気に入ったものは何ですか?

私が好きな食べ物は「こんにゃく」ですね。ただし、イモから作った自家製のこんにゃくでないとね。自家製のこんにゃくは、ほんの少し醤油をつけるだけで奥深い味わいが楽しめますよ。 あとは「ほおずき」も好きです。季節性があって、カリカリの皮のなかに宝物が入っている姿に東洋の神秘を感じますね。というか、本音と建前がある日本を象徴するような食べ物だと思いますね。 また、日本の「発酵文化」はすごく奥深いですね。その地方ならではのテロワールや、その年の発酵具合を求めて、発酵ものを食べに行く旅をしたりしています。20年~30年もののまろやかな「なれずし」や、冬になると秋田まで「がっこ(漬け物)」を食べに行きたくなりますね。日本には各地域の風土や歴史と一緒に育った沢山の発酵文化があるので、発酵ものを食べに行くということはその地域を知るきっかけにもなります。

観光地だけでなく、普通の田舎も訪ねてみてほしい

日本を訪れる旅行者が増えてきていますが、エバレットさんから旅のアドバイスをするとすれば何ですか?

日本で食べるイタリア料理は、イタリアで食べるより美味しいお店も沢山ありますよってことかな(笑)。 日本は職人文化が生きており、料理人の世界にも「守破離(日本での茶道、武道における師弟関係のあり方の一つであり、修行における段階を示したもの)」の精神が守られています。だから料理修業においても、はじめに徹底的に師を真似ることによって、技を盗む。そして、ほかの良い考えも取り入れ、自分のものにしていく。こうした職人文化があることによって、異文化が日本に入ってきて、ハイブリットになってアウトプットされる。これは日本の特長だと思います。 もう一つ、日本に来る旅行者に伝えたいのは「観光地だけではなく、もっと田舎に足を運んで“農的な暮らし”を体験してほしい」ということ。 身体にいいものをゆっくり食べて、お風呂に入って、ゆっくり眠る。私たちブラウンズフィールドでも、そうした農体験ができるプログラムを提供していて、人気です。農的な暮らしが体験できる場所が、日本各地に誕生するといいですね。
ブラウンズフィールド写真

日本のなかでおすすめしたい地域はありますか?

おすすめの地域は沢山あって困りますね(笑)。最近、好きなのは奈良ですね。柳生、五條、吉野、天川のあたりが好きで、神話に残されているような日本のルーツに強く興味を持っています。 私は、日本は東アジアの人類のるつぼだと思っているんです。日本は単一民族というけれど、実は神話時代から脈々と大陸から人が渡ってきて一つになったと考えられます。渡来人は長い旅のなかで生き残ってたどり着いた強靱で強運な人たちであり、新しい何かをもたらしてくれる人たちでした。彼らをおもてなしして力を合わせ、新しい血として取り入れてきたのが日本人であるということを、もっと発信すればいいと思います。
インタビュー中のエバレットさん写真

最後に、エバレットさんがこれから取り組もうとしていることについて教えてください。

4月に、「NPO会所プロジェクト」を立ち上げました。“会所”とは勉強する会と場所のこと。 平安時代の終わり、世の中が混乱していた時代に会所がつくられ、身分に関係なくいろいろな人が集まって、文化的な活動をしたのです。最初の集まりは桜の花見をしながらの句会だったといわれています。戦国時代にそれはいっそう確立されて、寺や神社や武家屋敷が会所になりました。銀閣寺を築いた東山文化も、公家、僧侶、武家、町人など、身分と関係なく感性で集まった会所のなかから生まれたものです。 植物の種の世界では、品種改良した種を植え続けると、何世代か後に、原種に戻るということが起こります。これは「先祖返り現象」と呼ばれているのですが、いま日本社会にも、ちょうど同じことが起こっているといえるのではないでしょうか? まず若い世代たちから原種に戻ろうとしている。一度廃れたものがまた復活してきている。そういった意味でも、これから古民家で会所を復活させることはとても価値があると思っています。 私たちは、会所を日本独特のご縁づくりと捉え、古民家を使って、今の時代に合った会所を復活させる活動を始めます。数年後には会所文化を日本全国に広めていたいですね。
エバレットさん写真

プロフィール

著書写真
エバレット・ブラウンさん(写真家/epa通信社日本支局長/ブラウンズフィールド代表)
1959年、アメリカのワシントンD.C.生まれ。1988年から日本に定住。日本芸術文化国際センター芸術顧問、文化庁長官表彰(文化発信部門)被表彰者。epa通信社日本支局長を経て、2012年より日本文化を海外に紹介する企画に携わる。著書に『俺たちのニッポン(小学館)』『ガングロガールズ(Konemann)』、共著に『生きてるだけで、いいんじゃない(妻である中島デコとの共著・近代映画社』、『日本力(松岡正剛氏との共著・パルコ出版)』ほか多数。

ブラウンズフィールド

ブラウンズフィールド写真
所在地 千葉県いすみ市岬町桑田1501-1
TEL 0470-87-4501
URL http://brownsfield-jp.com/

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

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