日本の食卓に欠かせない健康食「豆腐」
いまでも夏には冷奴、冬には鍋料理にと、いつの時も我々の食卓に豆腐は欠かせない。子供からお年寄りまで、日本人に愛される「豆腐」の魅力を探るため、我々は東京・人形町の老舗豆腐専門店「とうふの双葉」を訪れた。
下町で100年以上続く老舗の豆腐作り
いまではスーパーマーケットやコンビニでも手に入る豆腐だが、日本には古くから豆腐を専門に扱うお店が残っている。東京・人形町で明治40年(1907年)に創業した「とうふの双葉」(以下、双葉)の四代目店主・田中実さんは、昔ながらの豆腐作りをいまもなお受け継ぐ職人だ。
「豆腐は無くしちゃいけない日本の食文化。豆腐って味噌汁に冷奴、煮物にと、いろいろな料理に使えるでしょう。だから日本人の生活の一部として根付いている。この食文化を守りたいという想いで、僕は豆腐を作り続けているんです」。
豆腐職人の朝は早い。それは昔、朝食用の豆腐を求めて朝からお客さんが来ていたことの名残だそうだ。田中さんの仕事はまだ日も昇らない朝の4時から始まる。厨房には湯気とともに、蒸した大豆の甘い香りがふんわり漂っていた。
まずはベースとなる豆乳作りから始まる。前日から水に漬け込んだ大豆を挽いて煮込んだものを機械に通すと、なめらかな豆乳が生成される。豆乳の熱が冷めないうちに数回に渡ってにがりを加え、少しずつ混ぜ固める“寄せ”の作業に入る。
大豆の吸水量は温度や湿度によって変わるため、豆乳の濃度を見ながらにがりの量を調整。木の棒で絶えずかき混ぜながら、ちょうどいい固さを見極めるのが豆腐職人の腕の見せどころだ。
その後、絹・木綿とそれぞれ型に入れて少しおけば、乳白色の美しい豆腐が完成する。どの行程も一切気を抜けないため、田中さんは「豆腐作りは手間仕事です」と笑いながら、素早く作業をこなしていく。
こだわりの原料で作り出す美味
豆腐の種類は大きく分けて2つある。一つは、豆乳をにがりで固めたものを木枠に入れて作る「絹ごし豆腐」、もう一つは布を張った木箱で水分を抜いて作る「木綿豆腐」だ。
双葉では最も重要な原料である大豆に青森県産の「おおすず」を使用。糖分と脂質のバランスが良く、田中さんのイメージする味や食感を作り出すのに「おおすず」が最適だという。豆腐を固めるにがりは、主に高知県・室戸の海水からとった天然のものを使用。シンプルがゆえに、素材の質が味を左右する。
「うちの豆腐は絹ごしがしっかり、木綿は柔らかな食感が特長です。大豆やにがりは商品によって使い分けていますが、やはり国産のものが圧倒的に美味しい。特に国産大豆は風味も濃厚で甘味があり、糖質とタンパク質のバランスも良いんです」。
豆腐と並ぶ双葉の人気商品が「がんもどき」だ。がんもどきとは、精進料理で肉の代用品として作られた豆腐の加工品。通常は余った豆腐を崩して具を入れ成形して油で揚げるのだが、双葉ではがんもどき専用の豆腐を一から作るのがこだわり。なかでもユニークなのが銀杏、栗、昆布、ニンジン、ゴマが入った手の平よりも大きい「ジャンボがんも」。つなぎに大和芋を使用しているので食感はふんわり。たっぷりのお湯で茹でこぼしてから出汁で味付けをしたり、またオーブントースターで焼いて生姜醤油を付ければ、十分に食事のメインとなる一品になる。
古いものを守りつつ、新しい挑戦を
人形町は地元の主婦からビジネスマン、観光客まで、さまざまな人が行き交う街。それぞれのニーズに合わせ、老舗豆腐店の双葉にも多種多様な商品が並ぶ。
豆腐やがんもどきを買いに来る地元の人をはじめ、出勤前に豆乳を飲むビジネスマン、観光客には店頭で食べられるフレーバー付きの竹豆富や豆乳ソフトクリームが人気だ。また2階には豆腐料理専門店もあり、ベジタリアンの外国人客も多く訪れる。
「伝統は大事にしつつ、お客さんのライフスタイルや街の変化に合わせてうちも常に変わっていかないといけない。これからも豆腐職人として、変化に合わせたこだわりの豆腐を出せるようにしたいです。それと、日本の豆腐は本当に美味しくて、健康にも良いので、海外の皆さんにもぜひ味わって欲しいですね」と田中さんは語る。
日本が誇る健康食・豆腐を、東京の下町で味わってみてはいかがだろうか。