異文化交流によって拓く麺文化の可能性
そうめんといえば、暑い夏にさっと茹で、冷水で冷やし、めんつゆでスルッと味わう麺類として定着しており、「そうめん=夏」というイメージが強いことだろう。しかし、そうめんは夏だけではなく色んな楽しみ方できる。温かいだし汁で食べる“にゅうめん”や、ヘルシーな“そうめんサラダ”など、“旬”な具材と合わせれば、四季に合わせた美味しさも堪能できる。
このように色んな楽しみ方ができるそうめんを「海外の食文化との融合」という新しいアプローチで国内外の人たちに向けて提案している製麺店がある。そうめん発祥の地といわれている奈良県三輪で手延べそうめんの製造を営むマル勝髙田商店だ。
そうめんの常識を覆す
「そうめんって“美味しいな”、“便利だな”って気づいてもらい、そうめんをもっと食べてもらいたいと思っています。夏だけではなく、その季節や自分の好みの味に合わせた自由なアレンジしてもらって、そうめんを様々に楽しんでもらいたいです」と、話すのはマル勝髙田商店の代表取締役、髙田勝一さんだ。
髙田さんが取り組む新しい挑戦の一つが、そうめんとイタリアンが融合したメニューの開発だ。
そうめんの新しい切り口を発見することで、夏だけでなく四季を通じてそうめんを楽しめる提案をしている。
「きっかけはイタリアのファッションショーのレセプションでそうめんを出すことになったときです。そのショーがあったのは冬の時期だったので、温かいにゅうめんとしてそうめんを提供しました。すると、現地のイタリア人から、麺のコシや、細さ、アルデンテの茹で方など、たくさんの質問をいただくほど、そうめんに興味を持ってもらいました。そのときに、イタリアンの素材としても認められるそうめんの可能性に気づいたのです」。
日本人自身が気づいていなかったそうめんの新しい可能性を高田さんが気づいた瞬間でもあった。そこからマル勝髙田商店のイタリアンのメニュー開発が始まった。
それ以降に培ったイタリアとの関係性を大切にして、いまではイタリアのミシュランスターシェフたちと新しいそうめんのレシピを開発し、国内外の人々へそうめんの楽しみ方を提案している。
マル勝髙田商店のそうめんとイタリアンの融合で生まれたレシピを一つ紹介しよう。
イタリア最大の港町ジェノバにあるミシュランスターのレストラン「バルディン」のオーナーシェフ、ルカ・コッラーミさんによる「La Ricetta」。トマトとたらばがに、そしてチーズのそうめんだ。ルカ・コッラーミさんは、そうめんの魅力について、「どんな食材にも合わせることができて、そうめんのアレンジの幅は広い。コシが強くて美味しく、とても気に入っている」と話す。
素材にこだわりぬく老舗の誇り
根幹であるそうめんづくりについて、髙田さんは次のように話してくれた。
「そうめんは“素材”にすぎないのです。夏に冷たいそうめんを食べるだけでなく、朝ご飯ににゅうめんを食べたり、鍋の〆にそうめんを使ったり、様々なカタチでそうめんを楽しんでもらいたい。その中で、わたしたちがやるべきことは、“素材”であるそうめんづくりにこだわりぬくことです」。
代表商品「神糸」をはじめ、マル勝髙田商店のそうめんは、原料の油にオリーブオイルを使用している。一般的な手延そうめんの製法では、小麦粉と塩、水、そして、長く細いそうめんをつくるために油を使用する。マル勝高田商店では、その油をオリーブオイルにすることで、そうめん本来の小麦の香りが劣化しにくく、美味しさを長く保つそうめんをつくりあげている。また、熟成の結果、そうめんに残るちょっとした油の香りもオリーブオイルを使用することで、そうめんの風味に深みを持たせることができるという。
そのほかにも、国産小麦粉に奈良の吉野葛粉を練り込んだ「奏」というそうめんは、つるつるとした食感を楽しめるなど、商品開発にも余念がない。新しい挑戦をしながらも、そうめんづくりにこだわりぬく姿勢には、マル勝髙田商店の誇りが感じられる。
「本当に良い食材を取り入れたいという想いはイタリアを始め各国にあります。わたしたちは新たな食文化を広めるべく、イタリアと日本の食の懸け橋になっていきたいと思っています。イタリアで認められた日本食は、きっと日本人にも新たな発見をあたえてくれるでしょう」。
そうめんとイタリアン、一見全く異なる食べ物だが、お互いの食文化を尊重しながら、マル勝高田商店とイタリアのシェフたちによって、そうめんを通じた和食とイタリアンの邂逅が起きている。
海外の人たちにもそうめんを楽しみ、味わってもらいたい。その想いの実現のために、海外の人たちにも好まれる味を探求し続けるマル勝髙田商店。このマル勝髙田商店が取り組む食の異文化交流は、日本人自身も知らなかった新しいそうめんの可能性を照射している。そして、その可能性は日本のみならず世界へと発信されているのだ。