収穫の喜びとともに味わう、小麦粉を使った郷土菓子

焼きまんじゅう
春から夏にかけて米をつくり、米の収穫後の冬季に小麦をつくる「二毛作」。二毛作が盛んな地域では、小麦粉を使った郷土菓子が数多く生まれ、長きに渡り地域で親しまれてきた。また、米がなかなか取れない地域では、雑穀文化も発展しており、調理方法はもちろんのこと、その味わいも千差万別。今回は、東日本を中心に根づいている郷土菓子のなかから代表的な逸品を紹介する。

がんづき
画像提供元 : 岩手県農林水産部農業普及技術課

■がんづき(岩手県南部)

「がんづき」は岩手県南地域を中心にして、県全域で食べられている郷土菓子。材料は小麦粉、砂糖、卵、重曹などで、これらを合わせた生地を蒸し上げると完成する。蒸しパンのような見た目をしており、中はもっちりとした食感。腹持ちがいいので、昔から農作業の合間の間食や、日常的なおやつとして食されてきた。大きく分けて「黒がんづき」と「白がんづき」があり、前者は生地に黒砂糖を使用。後者は白い砂糖を使用する。

スーパーマーケットや地元の菓子店、産地直売所などで気軽に手に入り、家庭でつくられることも珍しくないのだとか。実際のところ、家庭科の時間に「がんづき」のつくり方をレクチャーする中学校もあるという。素朴な味わいの「がんづき」も時代とともに進化しており、近年はオレンジ、レーズン、かぼちゃなどを使った、現代風のフレーバーも人気を集めている。なお、「がんづき」の名称は、丸い形状とM字にトッピングされたゴマが、満月に向かって飛ぶ雁に見えることに由来しているという。

きんかもち
画像提供元 : 柴田学園大学短期大学部

■きんかもち(青森県南部)

古くから「やませ」(夏場に拭く北東寄りの風)による冷害に悩まされたてきた青森県の南部地方。稲作の不作を乗り切るために小麦、あわ、ひえ、蕎麦などの栽培が盛んになり、雑穀文化が発展した。そんな農家の知恵から生まれた郷土菓子が「きんかもち」である。つくり方はシンプルで、黒砂糖やくるみ、味噌などでつくった餡を小麦粉の皮で半月状に包み、茹で上げる。つるんとした食感がくせになるが、不用意にかぶりつくと、熱々の餡が溢れ出るので要注意だ。

小麦まんじゅう
画像提供元 : 『ふる里の和食 宇都宮の伝統料理』(柏村祐司/半田久江)

■小麦まんじゅう(栃木県全域)

8月13日の迎え盆に帰ってくるご先祖様は、8月1日の「釜蓋朔日」(かまぶたのついたち)にあの世を出発。この日、栃木県ではご先祖様が道中にお腹を空かせないように小麦粉でつくった皮で小豆餡を包み蒸した郷土菓子「小麦まんじゅう」を供える習慣がある。「釜蓋朔日」にちなんで「釜の蓋まんじゅう」とも呼ばれている。一風変わったところでは「炭酸まんじゅう」の呼び名も。これは材料に重曹(炭酸)が使われていることに由来する。

栃木県は、二毛作による麦の作付けが多く、古くから小麦を使った料理が数多く食べられてきた。なかでも「小麦まんじゅう」は間食用としてだけではなく、年中行事や冠婚葬祭にも欠かせない一品。とくに新鮮な小麦粉が出回る時期は格別の味わいだ。近年は皮にカボチャやほうれん草、春菊などをペースト状にして加えることも多く、色や香り、味ともにバラエティーに富んでいる。家庭でつくる機会は減ってしまったが、和菓子店や直売所などが供給を担っている。「釜蓋朔日」が最も需要が高まり、大量に注文が入る直売所もあるという。

おやき
出典 : うちの郷土料理

■おやき(長野県全域)

長野県を代表する郷土菓子といえば「おやき」。小麦粉と蕎麦粉を水または湯で溶いて練り、薄くのばした皮にあんや野菜などを包み焼いたもので、地域によっては「やきもち」とも呼ばれる。焼いたり、蒸したり、さまざまな調理方法で親しまれているが、かつては、鉄鍋で焼いた「おかき」をさらに囲炉裏の灰の中で蒸す「灰焼きおやき」が主流だったという。稲作が適さない山間部ではとくに重用されてきた歴史があり、1日1食は「おやき」を食べていたとも言い伝えられている。その一方で、小麦の栽培が適さない豪雪地帯では、米粉を原料とした「あんぼ」という「おやき」がつくられている。

ホットプレートで手軽に焼ける「おやき」は、地元民にとって身近な存在だ。どんな具材とも相性がよく、それが現代まで愛されてきた理由のひとつであろう。行事食にも用いられ、北信地域はお盆の時期に仏前に「おやき」を供える。そんな「おやき」の文化を次世代に伝えるべく、地元では保存活動も実施。「おやき」に関する各種イベントや「おやき」つくり教室などが積極的に行われている。

焼きまんじゅう

■焼きまんじゅう(群馬県全域)

小麦の生産が盛んな群馬県では、小麦粉を使った郷土料理が根づいている。とくに「炭酸まんじゅう」や「そばまんじゅう」などのまんじゅう系はバリエーションが豊富。なかでも「焼きまんじゅう」は“群馬のソウルフード”とも評される定番中の定番だ。串に刺したまんじゅうに甘辛い味噌だれを塗って焼くスタイルは、江戸時代末期に誕生した「味噌づけまんじゅう」にルーツがあるという。当時、どぶろくを発酵剤に使ったまんじゅうは珍しく、串に刺して食べる発想が客にウケたのだとか。もともと甘い味つけではなかったが、明治時代に黒蜜を加えるようになり、現在に近い味付けへと変化したとされている。

道の駅などで販売されているほか、祭りやイベントなどの屋台に並ぶことも多い。昔ながらのスタイルが継承されている一方で、“進化系焼きまんじゅう”も続々と登場しており、クレープやマフィン、パフェなどに派生している。

農家の工夫から生まれた、小麦の郷土菓子。素朴な味わいだからこそ、万人に好まれ、時代を超えて愛されてきた。調理方法や食習を通じて、地域の特色に思いを巡らせるのも郷土菓子の醍醐味だ。

Writer : NAOYA NAKAYAMA
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Photographer : NAOZUMI TSUKAMOTO

農林水産省Webサイト「うちの郷土料理」をもとに作成

https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html

※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。
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