平塚の伝統を受け継ぐきゅうり「相模半白節成(さがみはんじろふしなり)」
洋食ブームで一度は姿を消してしまった、幻の白いきゅうり
農業が盛んなまちとして知られる平塚市。相模川と金目川の下流域に位置し、豊かな水源と平地に恵まれた地の利を活かし、稲作は県内一の生産量を誇る。また東京や横浜といった大消費地に近いことから、トマトやきゅうりなど野菜の施設栽培も大きく発展した。
「湘南きゅうり園」は、平塚市で1971年創業のきゅうり専門農家。その3代目として、2011年に就農したのが吉川貴博さんだ。自分がきゅうりを作るにあたり、研究を兼ねて栽培しはじめたのが、当時市場から姿を消していた幻の品種「相模半白節成」だった。
「きゅうりは価格だけを見られる野菜。『相模半白節成』を復活させることで、きゅうりにも多様な種類があることや、平塚のきゅうり栽培の歴史を伝えたかったんです。また『相模半白節成』は見た目も食感も変わっているので、いまのお客さんには新鮮に感じられるかもしれないと思いました」
「相模半白節成」はその名の通り、半分白い色をしたきゅうりで、歯切れの良い食感を持つ。かつては漬物などにして一般家庭でよく食べられていたが、前々回の東京オリンピックが開催された1964年頃から洋食ブームが到来。ハンバーグやパスタの付け合せとして、彩りの良い緑色のきゅうりが選ばれるようになると、「相模半白節成」は徐々に栽培されなくなっていった。
1929年に平塚で生まれた「相模半白節成」には、地元の農業の歴史が詰まっていると吉川さんは話す。
「きゅうりの旬は夏ですが、『相模半白節成』の旬は晩春になります。首都圏の大消費地に向けて、他産地より早く出荷できるよう、東京の『馬込半白きゅうり』という品種からより早生系統を選抜することで『相模半白節成』が作られたんです」
天候に左右されやすいきゅうり栽培
湘南きゅうり園で栽培しているきゅうりは全部で6種。のべ2400坪5つのハウスが建っている。ほとんどは一般的な品種のきゅうりで、「相模半白節成」やピクルス用の「ガーキン」といった変わり種は一部のみ栽培する。
もともと「相模半白節成」の収穫時期は4月から5月下旬だが、吉川さんはできるだけ長く市場に供給できるようにと、2月下旬から7月中旬までを収穫期間としている。「相模半白節成」は高温と乾燥に弱く、天候によって収穫量が大きく変動するため、生育状態をコントロールするのは至難の技だ。
「水やりや日当たりなどきゅうりにとって心地よい温室の環境作りを大切にしています」
「相模半白節成」は最新の品種と比べると、そもそも収量が少ない品種で、病気になりやすいなど栽培には一層の手間がかかる。それでも吉川さんは、食育の一貫として、この珍しいきゅうりを作り続けたいと話す。小学生の農業体験を受け入れるなど、地域との関わりも大事にしている。
「平塚を表現する伝統野菜として、『相模半白節成』を伝えていきたい。そういう想いで、これまで10年以上つくり続けてきました。地元のレストランで使っていただいたり、若いお母さんたちには珍しい野菜として、年配の方には懐かしい野菜として喜んでいただいたりしています。たくさんの量はつくれませんが、平塚に来た方が、地元の野菜として楽しんでいただけたらと思います」
吉川さんおすすめの絶品レシピ「半白さんの長々肉巻き」
「相模半白節成」を美味しく食べる方法を、吉川さんの母・八千代さんに教えてもらった。
「私の妹が考えたレシピで、神奈川県の小中学校に通う家庭を対象とした「我が家の自慢料理コンクール」にも入賞したんですよ。このきゅうりは加熱して食べるのがおすすめです。マヨネーズをつけるのを忘れずに。子供でもペロッと食べてしまいますよ」
加熱した「相模半白節成」は、ズッキーニに似た食感。旨味のある豚肉と、しっかりと効かせた塩コショウ、マヨネーズの相性が後引く美味しさだ。
平塚市の相模半白節成
情報提供:湘南きゅうり園 吉川貴博さん“旬”の時期
2月下旬~7月中旬
美味しい食べ方
漬物や、加熱して食べるのがおすすめ。
豚肉を使った「肉巻き」はマヨネーズを忘れずに。