農家とカレー屋の自家製ピクルスで、農業の課題と向き合う
農家とカレーライス店がフードロス削減に挑戦
栃木県下野市でキュウリ農家を営む若松農園。手塩にかけて育てたキュウリは、地元の農協やスーパーマーケットに出荷されるほか、サイズの小さいものはカレーライス店と共同開発した自家製ピクルスにも使われます。
ピクルスの瓶には、長さ10cm程度のキュウリがぎっしり。こうした小ぶりのキュウリは、市場で定めた基準を満たしていないため「規格外」扱いとなり、流通することはほとんどありません。本来であれば、廃棄される野菜なのです。市場で価値がつかないキュウリに着目した理由とは? 農園の代表・若松靖幸さんは次のように話します。
「家業を継いで就農したとき、廃棄されるキュウリの多さに驚かされました。形が悪かったり、サイズが小さかったりすると問答無用で規格外。『摘果』する分も含めると、全体の1、2割が廃棄されてしまうんです」
廃棄量削減を喫緊の課題と考えた若松さんは、同じくフードロスに関心のあったカレーライス店「KITSUNE CURRY STAND」(現在は狛犬珈琲)と連携。店主の宮田剛さんとともに、規格外のキュウリを使った加工品開発に乗り出しました。
小ぶりなキュウリほど、ピクルスづくりにマッチする
規格外キュウリを加工品として、どのように生まれ変わらせるのか。若松さんの行きついた答えが、開発コストを抑えられるピクルスづくりでした。
「ピクルスづくりは作業工程が少ないので、大規模な設備が不要。製造するにあたって、保健所の許可もおりやすく、小さくはじめるにはうってつけでした」
じつは、小ぶりのキュウリはピクルスづくりに最適。若松さんによると「うま味が凝縮されていて、味染みもいい」とのこと。
「キュウリを浸けこむピクルス液は、マイルドな味わい。カレーライス店で廃棄されるはずだったパクチーの根っこやレモングラスの切れ端なども入れて、風味づけしています」
こうして生まれたのが、「農家とカレー屋が作ったピクルス」でした。
廃棄野菜のピクルスを通じて、農業の課題と向き合う
その後、およそ1年間の開発期間を経て、2019年に「農家とカレー屋が作ったピクルス」改め、「Re: pickles」が完成。マルシェでテスト販売したところ飛ぶように売れていき、大急ぎで追加生産したほどでした。
「対面での販売がポイントです。消費者の方たちに廃棄野菜やフードロスの課題を直接伝えることができる。この販売スタイルは、今後も続けていきたいです」
コロナ禍以降「Re: pickles」の製造を中止していますが、若松さんはべつの手段で廃棄量削減を進めています。
「スーパーマーケットで規格外のキュウリを直売するようになりました。見た目は不格好ですが、意外なくらいよく売れています。こうした実情を目の当たりにすると『規格』とは誰に向けられたものなのか、考えさせられます」
直売が奏功して、いまでは廃棄されるキュウリはほとんどなくなりました。しかし、若松さんは「Re: pickles」の再販を諦めてはいません。
「今後はほかの農家とも連携したい」と、ラインナップの拡大にも意欲的。「Re: pickles」を通じて、業界の課題と向き合い続けます。