りんご栽培の常識を覆す、もりやま園の挑戦
「ベンチャー企業」の志しをもつ、りんご農家
りんごの名産地として知られる青森県弘前市。国内におけるりんご栽培の歴史は、明治初期にこの地ではじまりました。“りんご栽培 発祥の地”の生き字引ともいえるのが、100年以上の歴史をもつりんご農家「もりやま園」です。「岩木山」を背負うように広がる9.7ヘクタールの園地で、約20品種を栽培しています。
園の4代目を務める森山聡彦さんは、いわば業界の革命児。「うちは農家ではなくベンチャー企業」と宣言して、慣習を覆す革新的な農業経営を実践しています。
森山さんが行った大胆な試みのひとつが、徹底した省力化です。例えば、果実に陽を当たりやすくするために葉を摘みとる「葉とり」の作業を撤廃。これにより労働時間が大幅に削減されました。果実の表面に色ムラが出るものの、森山さんは「味には全く影響しない」と強調します。
「海外のりんご農家は『葉とり』なんてしていないんです。葉とりに限らず、日本のりんご栽培は生産効率がとにかく悪い。労力のわりにリターンも少ないから、産地とはいえりんご農家が年々減ってきています。“農家は儲からないから都市部に出る”ではなくて、ものづくりに真摯に向き合う人が報われる仕組みを構築していかなくては」
リンゴ栽培の“無駄”をなくすため、加工品づくりに挑戦
りんご栽培において、森山さんがとりわけ問題意識を抱いていたのが「摘果」でした。6月〜8月頃にかけて行われる作業で、りんごの実がまだゴルフボール程度のサイズのうちに、状態の良い実だけを残します。これにより、一つの樹木からの養分の奪い合いを避け、りんごの育成が促されます。
しかし、摘果作業は労力がかかるばかりか、全体の9割のりんごが摘みとられ廃棄されてしまいます。「この膨大な手間を何とか有効活用できないものか」。そう考えた森山さんは、摘果りんごを使った加工品づくりに挑戦。5年の歳月をかけて、2017年に「テキカカシードル」を完成させます。
2019年には、市場をさらに広げて、炭酸飲料の「テキカカアップルソーダ」を販売。
その後、「テキカカシードル」もフレーバーを増やして、カシス風味やいちご風味などを販売しました。
「農業には、まだまだ伸びしろがあるのだと多くの人に知ってほしい」と、意気込む森山さん。りんご栽培の未来を支える萌芽は、力強く育ち始めています。