THE ROOTS OF SHUN(November 2015)

リアスの地形が育んだ“それぞれ”の浜の文化

― 岩手県

リアス式海岸写真

(取材月:September 2015)

世界三大漁場の1つとして知られる三陸沖。なかでも岩手県沿岸南部はいくつもの湾が複雑に入り組んだリアス式海岸を形成する。リアス式海岸とは、川が少しずつ山地を浸食し、海に流れ出て小さな湾を形成するようになった入り江の連続している地形を指す。沿岸部にはいくつもの港がつくられ、古くからさまざまな漁業が営まれてきた。

豊かな漁場を育むリアス式の地形

リアス式海岸の恵みを受ける地域のひとつ岩手県大船渡市三陸町の綾里(りょうり)地区は6つの漁港を持つ。人口の6割以上が漁業者とその家族という、海とともに発展してきた漁師町である。

ここ綾里地区では一年を通してさまざまな漁がおこなわれ、岩手県の主流魚種のワカメ・帆立・ウニ・アワビだけでなく、ムール貝やサンマやサケ・アナゴなど、多彩な海産物が水揚げされている。

「大船渡の海は湾の入り江ごとに文化が違うのが面白い。それぞれに生産者がいて、獲れる魚が違えばこだわりも違うんです」と語るのは帆立漁師の佐々木淳さんだ。淳さんは越喜来湾(おきらいわん)に面した小石浜(こいしはま)で「恋し浜ホタテ」というブランド帆立を養殖している。

もともと谷だった地形に海水が流れこんでできたリアス式海岸は岸から離れるとすぐに深くなるので、砂が混じることなく形のきれいな身が育つ「耳吊り式」の養殖に向いているという。また、森の養分をたっぷり含んだ川が海まで流れ込み、帆立の餌となるプランクトンがよく育つのが大きな特徴だ。

漁港写真

帆立写真

少量・高品質にこだわったブランドホタテ

豊かな漁場で帆立を育てても稚貝の数が多すぎると、餌となるプランクトンは限りがあるため、一つひとつの帆立の出来が悪くなってしまう。そこで、淳さんの先代の時代から漁場の能力にあわせて養殖の数量制限をしている。

「今から40年ほど前に漁業者同士が話し合い、それぞれが1年間に獲ることのできる帆立の数を決めました。帆立の品質をよりよくするために漁業者同士が足並みを揃えたんです。そのおかげで、『恋し浜ホタテ』は身が大ぶりで旨みが凝縮され、首都圏でも評判のブランドに成長しました」と淳さんは教えてくれた。

いち早くブランディングに成功した「恋し浜ホタテ」だったが、獲ったものを市場に卸し、ひとくくりに“三陸産”として販売する従来の方式では、その強みがなかなか活かせなかったという。

「せっかく小石浜でこだわって作っているのに、それが消費者に伝わらないのがもどかしかった」と語る淳さん。そこで、今から12年ほど前に浜からの直送を始めた。当時の水産業界の中では異例のことで、消費者だけでなく生産者からも大きな反響があったという。

佐々木淳さん写真

生産者の視点で漁業の魅力を発信する新しいメディア

そして2015年9月、小石浜を含む綾里地区の6つの漁港を巻き込んだ新たな取り組みがスタートした。それが生産者発のメディア「綾里漁協食べる通信」だ。

「綾里漁協食べる通信」の編集長を務める綾里漁業協同組合の佐々木伸一さんが、創刊への思いを語ってくれた。
「12年前に淳さんたちが帆立の産直販売に挑んだ時、生産者が消費者とつながることで誇りとやりがいを得られることを学びました。震災ですべてが流されてしまい、またゼロからのスタートになってしまいましたが、昨年『東北食べる通信』代表の高橋さんに恋し浜ホタテを取材してもらい、読者の方とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でつながることができました。読者の中には浜までお越しいただいて、直接顔を合わせる方もいて、綾里漁協のファンページまで作っていただきました。そこでは“いただきます”や“ごちそうさま”だけでなく“もっとこうしたらいいよ”など率直な意見をもらうこともあり、生産現場以外からの声に気付かされることも多いです。『東北食べる通信』を通じて私が味わわせてもらった感動を他の漁師さんにも是非体験してほしいと思い、綾里漁協の『食べる通信』をつくろうと思ったのです」。

「綾里漁協食べる通信」では生産者の視点で漁業の魅力や現状をありのままに発信する予定だという。「浜のストーリーはもちろん、漁業の裏話も知ってもらいたい」と伸一さんはいう。創刊号の発送作業の際には読者の中から有志のメンバーを招いて梱包作業をおこなう「出荷まつり」を開催。これまであまり表に出ることのなかった漁業の生産現場そのものをエンターテイメント化する試みは漁業の可能性を広げていく。

佐々木伸一さん写真

浜の文化を体験できる観光拠点も登場

淳さんがこだわり抜いた「恋し浜ホタテ」を堪能できるスポットがあるとのことで、我々は三陸鉄道南リアス線の恋し浜駅に向かった。ホームに降り立つと木製のオープンデッキが目に飛び込んできた。「ホタテデッキ」と名づけられたその建物は震災の時に海の清掃ボランティアをおこなっていたダイバーたちが建てた恋し浜駅の観光拠点で、訪れた人がバーベキューをしながら地域住民や漁業者と交流することができる。

目の前に小石浜が広がる眺めのいいデッキで焼きたての「恋し浜ホタテ」をいただいた。大人の手のひらサイズほどもある大きな貝殻に乗った貝柱は分厚く、ずっしり重たい。「小石浜のホタテは何もつけずにそのまま食べるのが一番!」と淳さん。磯の香りが漂うプリプリの身は適度な塩気がうま味を引き立ててくれる。

ホタテデッキでは、バーベキューの他にも漁師による帆立やホヤのむき方講座や養殖作業体験なども実施している。たまに三陸鉄道の列車がゆっくりと通りすぎていく穏やかな風景は叙情感たっぷり。浜の文化を五感で感じられる場所になっている。

ホタテデッキ写真

  • 恋し浜ホタテ写真
  • 三陸鉄道写真

リアス式海岸が生んだ様々な浜の文化は、これからもそれぞれが個性豊かな魅力を放ち、消費者を魅了してくれることだろう。

Writer : YUKI MOTOMURA / Photographer : CHIE MARUYAMA

岩手県大船渡市綾里漁協食べる通信

URL http://taberu.me/ryouri/

恋し浜ホタテデッキ

住所 岩手県大船渡市三陸町綾里小石浜 恋し浜駅前
※三陸鉄道南リアス線恋し浜駅から徒歩1分
TEL 090-6686-5148
営業時間 10:00-15:00
定休日 月曜日

岩手県 観光情報

japan-guide.com http://www.japan-guide.com/list/e1204.html