「天下の台所」を体現する黒門市場
この「天下の台所」の拠点として古くから栄えるのが黒門市場だ。
黒門市場は文政5年(1822年)~6年の頃より鮮魚商から始まった(公認市場としての認可は1902年)。明治末期(1912年)までこの地域にあったお寺、圓明寺(えんみょうじ)の門が黒塗りであったことが黒門市場の名前に由来しているといわれている。
ここ黒門市場には150店以上の店舗が立ち並び、鮮魚から青果、肉、着物や雑貨まで質の高い“ホンマモン”の品物が手に入る。また、大阪商人に触れられる市場として国内だけではなく、海外にも口コミで広がっていき、いまでは、多くの外国人観光客が訪れる場としても注目されている。
地元の目利きたちに育てられたフグ料理「浜藤」
黒門市場で最初に訪ねたのは、創業90余年のフグ料理の老舗、浜藤。元々はフグの卸業者であったところを現在の店主、和島さんの祖父がフグ料理の店にして、いまに至るという。浜藤のお店で味わえるフグは、フグの中でも高級と呼ばれる「トラフグ」。しかも、長崎や淡路島を中心とした国産の1.5kg以上のトラフグしか出さないというこだわりがある。
フグの魅力でもある“身のしまり”、と“歯ごたえ”を味わってもらいたいという先代からの想いが素材へのこだわりへと繋がり、いまもそのこだわりは浜藤の伝統として引き継がれていると店主の和島さんはいう。
また、浜藤ではフグへのこだわりはもちろんだが、フグ料理を引き立てる他の素材についてもこだわりを持っている。鍋の出汁に使われる昆布は羅臼産、鰹節は枕崎産を使っている。ぽん酢については長年の伝統によって生まれた浜藤特製のポン酢を使っており、浜藤でしか味わうことのできないフグ料理を堪能できる。
毒性を持つフグの調理は専門の知識と技術を要するために、海外ではあまり食べることがないといわれている。ただ、ここ黒門市場ではアジア圏を中心とした外国人観光客の増加によって、「フグ料理に興味を持ってもらえる外国人の方も多くなってきた」と和島さんは話す。
フグの消費量が日本一の大阪の地で、地元の目利きたちによって育てられてきたフグ料理。黒門市場に訪れた際は、伝統の技と味をいまに受け継ぐ浜藤でフグ料理を味わってみてはいかがだろうか。
市場ならではの活気が味わえる「黒門三平」
黒門市場はもともと鮮魚中心の市場として始まったこともあり、いまも鮮魚店が数多くある。その中の一つが、鮮魚を中心に海産物を幅広く取り扱う黒門三平だ。
150平米以上の広いスペースを擁する黒門三平の店内には、地元の料理人や国内外の多くの観光客などで溢れかえっていた。店頭には数多くの鮮魚が並べられ、中には70cmほどもある大きいサワラや殻つきで並べられたウニ、本マグロの大きなブロックなどが並べられている。
そして、数多くの鮮魚と店員さんの意気の良い呼び込みの掛け声が飛び交う黒門三平は、市場ならではの活気までも味わうことができる。
さらに嬉しいことに、黒門三平では店頭の新鮮な魚を使ったお寿司や丼ぶりなどがその場で食べることができるイートインスペースが店内に併設されている。このイートインスペースは外国人観光客にも評判で、1日700食もの料理が注文されるという。
「黒門市場には観光客だけでなく、料理人の方たちも買い付けに来てくれます。そのためにサワラなどの大型の魚も並べているのですが、その豪快さがディスプレイともなって観光客の方たちにも喜んでもらっています。イートインもそうですが、黒門三平ではお客さんに楽しんでもらえることをやっていこうという気風を大事にしています」と黒門三平の代表取締役、岩﨑さんは話してくれた。
“見てよし”、“食べてよし”の活気溢れるこの空間は、鮮魚を主役としたエンターテイメントを感じられる場といえるだろう。
海外からの観光客から料理人まで幅広い客層と日本全国から取り寄せられた鮮魚を中心とした、とっておきの品々が並ぶ「黒門三平」は黒門市場の現在進行形が垣間見える一店である。
四季折々の果物が全国から集まる「ダイワ果園」
黒門市場を歩いていると、色とりどりの果物やスイーツに思わず目を奪われた。昭和23年から続く果物店、ダイワ果園だ。
店頭には“旬”の苺「あまおう」をはじめとした果物や選び抜かれた季節の果実でつくったケーキやお菓子が並んでいる。
ダイワ果園では冬の特定の時期を除いて手軽に店先でフレッシュフルーツジュースが飲める。
果物店だからこそ堪能できる新鮮な素材を活かした爽やかな味わいは、市場を歩きまわり疲れた体を癒してくれる一品だ。
ダイワ果園店長、長谷川さんに “旬”の果物について尋ねてみた。
「冬の時期は、苺、温州みかん、デコポンとかですね。あと、珍しいところでいうとル・レクチェという新潟の白っぽい洋梨がでてきます。ダイワ果園では、全国の果物を厳選し、その季節の“旬”の果物を揃えています。ケーキなどのスイーツも黒門市場にある我々の直営工場で、新鮮な“旬”の果物を使ってつくっていますので、出来立ての美味しさを味わうことができますよ」
黒門市場を行き交う人たちは、ダイワ果園の店頭に並ぶ“旬”の果物やスイーツが四季折々に見せる表情と甘い香りに誘われ、思わず足を止めていた。
130年以上続く黒門市場のエネルギー
黒門市場商店街振興組合理事長の山本さんに、なぜこの黒門市場が130年以上に渡って市場のエネルギーを繋いでこられたのかを尋ねた。
「わたしもここ黒門市場で店を構える漬物屋『伊勢屋』の4代目として産まれて、ここで育ちました。いまは甥っ子が6代目として店を継いでいます。黒門市場がいまも続いている確かで大きな理由は、店が次の後継者に先代たちの想いとともに受け継がれてきているからです」。
各地の商店街では大きな課題の一つに後継者不足があげられる。もちろん多くのお客さんが市場に足を運んでもらえる工夫をすることも重要だが、店や市場を営む人々が、その場を守り続けていくことが重要だと山本さんは話す。そうして店が代々続いていくことによって、先代たちの背中を見た次代の跡取りが「商売はおもろいなぁ」と感じて育っていく。黒門市場では、組合をはじめ店舗同士の繋がりも大切にしながら、いまの黒門市場を創り続けていた。
そして、その黒門市場が繋いできた活気あるこの市場は、いまでは日本人だけではなく海外の人たちにも注目されている。黒門市場では海外の人たちにも市場の魅力を楽しんでもらうために外国語の観光マップや看板を作成したり、Wi?Fi環境を整備したりするなどの様々な取組を行っている。このような工夫と市場ならではの活気によって外国人観光客の満足度は上がり、再び黒門市場を訪れる人も多いという。
地元の人、料理人、国内外の観光客の方たち含め、黒門市場には人が作りだすエネルギーがそこかしこから溢れている。まさに、ここ黒門市場は「天下の台所」大阪の活気を体現する場所であった。