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THE ROOTS OF SHUN (August / BACK NUMBER 2014)

歴史と人が紡ぐ白い糸の輝き

三輪風景写真

― 奈良県三輪

(取材月:October 2014)

奈良県桜井市三輪駅に降り立ち、駅前の茶屋で教えていただいた情報を足がかかりに町を散策してみる。
彼方には高さ30mを超える大鳥居が町を見下ろすようにそびえたち、盆地特有の山々に囲まれた風景は、朝もやの中で神々しい輝きを放つ。
街並みを彩る建物は古い趣に溢れ、徒歩でまわれる範囲だけでも歴史を感じる神社が多数あり、タイムスリップしたかのような気分になる。
三輪といえば、そうめん発祥の地として有名だが、町の人に話を聞くと、日本酒、市場などの歴史も長く、日本古来の食文化の礎を築いた町であることを教えてくれた。

大神神社写真

清流写真

日本最古の神社の一つ、大神神社

歴史や神事を重んじる三輪の人々の中心には、日本最古の神社の一つともいわれている大神(おおみわ)神社がある。町の中心にそびえる三輪山の麓に位置し、有史以前に創建されたとされる歴史ある場所だ。信心深い著名人の参拝客も多く、近年はパワースポットとしても人気を博し、若い女性参拝客も頻繁に訪れる。ご神体である三輪山には入山することもできるため、標高500m近い険しい山道を歩く参拝者の姿が多く見られた。

ところで、この大神神社は神道における重要な場所としてだけでなく、実は、三輪そうめんの歴史とも関連している。

今から遡ること千二百有余年前、当時の大神神社の宮司従五位上大神朝狭井久佐(おおみわのあそんさいくさ)の次男、穀主(たねぬし)が三輪の里の土地と三輪山から流れ出る清流が小麦の栽培に適することを知って種を蒔かせ、小麦粉を原料にそうめんを製造したのが始まりといわれている。

また、現在においても大神神社では、毎年2月5日に三輪そうめんの初値を占う卜定祭(ぼくじょうさい)がおこなわれている。この神事によって決まった価格は、その年の全国のそうめんの価格の参考になるといわれるほどの影響力を持っているとのことだ。

そうめんの“旬”は寝かせてつくる

盆地に位置する三輪は、比較的乾燥した降水量が少ない気候と、南西から吹くという独特の乾風、清らかな水流と、山々の傾斜を利用した水車など、そうめん作りに最適な環境条件が揃っていた。また、農閑期である冬場に家庭で作業ができるそうめん作りは、瞬く間に三輪中に広がっていき、町の特産品となった。

そうめんといえば、夏を思い浮かべてしまうが、実は製造に最も適した時期は11月から3月いっぱいの寒い時期である。この時期に作られたそうめんを蔵のなかで寝かせ、梅雨を越すことで、三輪そうめんの特長でもある強い「コシ」が生まれ、そうめんの美味しい時期でもある“旬”がつくられる。

池利の手延べそうめん写真

そうめん製造写真

嘉永3年創業。池利の手延べそうめん

このそうめん発祥の地、三輪で160年以上に渡りそうめんを作り続ける老舗、池利を訪れた。

池利のそうめん作りは、「手延べそうめん」と呼ばれる作り方。小麦粉に食塩と水を混ぜてよく練り、その生地に綿実油などの食用油を塗ってから、引き延ばして乾燥、熟成させて作られている。生地を帯状に細く切って乾燥させる製法の「機械そうめん」とは違い、約2日間に及ぶ製造過程の中で、刃物は使わずひたすらに細く細く引き伸ばし、麺に仕上げる伝統的な製法だ。それゆえ、多くの工程が機械化された現在も、池利では熟練の職人による繊細な手仕事がそうめん作りを支えている。

森本さん写真

おもし写真

そうめん作りを支える職人の勘

そうめん作りにおいて特に重要なのは、塩加減。麺の熟成の進み具合や味、コシなどの決め手になる塩加減は、その日の気温、湿度に大きく左右されてしまう。その作業は機械には決してできるものではなく、“おもし”と呼ばれる職人が一日中、温度、湿度に気を配りながら工程を進行させていく。“おもし”は「今日は、くるぶしまで湿気がきているな」とか「膝まできているな」と、温度計や湿度計では計測できない空気の状態を鋭敏に感じ取り、瞬時に判断を下すという。

「1~2月は天気も安定し、温度、湿度ともに変化が少ないため、苦労は少ないが、春先や秋口など季節の変わり目は、気温・湿度の変化を予測して動かなくてはならない。こればっかりは、機械で計ることもできない長年の経験と職人としての勘が頼りになります」と、池利の “おもし”を20年以上任される、森本祐弘工場長が語ってくれた。

この日も、こびき部屋と呼ばれる熟成専用の部屋を忙しく動き回りながら、温度・湿度調節、工程の管理を行う姿が印象的だった。

「そうめん作りに大事なのは、熟成具合を読む勘と細かい作業を厭わないきめ細かさ。勘の鈍い人や横着してしまう人にはできません」と、森本さん。
そうめん作りの基本は、麺を引き延ばす作業と熟成させる作業の繰り返し。一見シンプルに思われる工程だが、それゆえに作業をどれだけ丁寧におこなえるか、空気の状態の微妙な変化を感じとって熟成の管理ができるかが決め手になる。機械では読み切れない熟成具合を見極める繊細な感覚と、細部まで心血を注ぐ職人達の心意気によって、コシのある池利の美味しいそうめんは生み出されている。

きのこにゅうめん写真

千寿亭写真

「千寿亭」に学ぶ、三輪そうめんの楽しみ方

そうめんと言えば、夏にめんつゆでいただくのが一般的だが、寒い時期にあたたかくして食べるにゅうめんをはじめ、様々な楽しみ方がある。

取材がてらに池利が営む伝統的な三輪そうめんの専門店「千寿亭」へと足を運んだ。冷たいそうめんはもとより、にゅうめん、会席風お膳と、幅広い伝統的なそうめん料理を楽しめる「千寿亭」は、地元の人々や、観光客で連日賑わいを見せる。

秋も深まり始めたこの日は、しめじ、しいたけ、えりんぎ、里芋、水菜など”旬”の食材を使用した、温かい「きのこにゅうめん」をいただくことに。ちょっと甘みのある出汁とゆずの香が効いたスープがそうめんによく絡み、さっぱりしながらも深みのある味わい。付け合わせでいただいた焼きそうめんは、細い麺の独特の食感が主張しすぎずに他の具材と調和し、ご飯のおかずや酒の肴にも最適なあんばい。

料理長の藤田さんは、大変研究熱心な方らしく、「トマト味噌にゅうめん」、「くるみ素麺」など、他にも幅広いそうめんのバリエーションを取り揃えており、そうめんの楽しみ方の幅広さに改めて気づかされた。

ついつい、型にはまった食べ方をしてしまいがちなそうめんだが、ここ「千寿亭」のように、その時々の”旬”の食材や、季節の趣を取り込んで調理することが、そうめんを楽しむ秘訣なのかもしれない。

「千寿亭」の料理に使用しているそうめんは、お取り寄せすることもできるので、三輪へ足を運ぶことが難しい方も、是非ご自宅で”旬”の食材とともに、自分なりのそうめんの楽しみ方を見つけてほしい。

Writer : TOSHIFUMI KIUCHI / Photographer : KOJI TSUCHIYA

株式会社池利

本社所在地 奈良県桜井市茅原419
TEL 0744-43-2421
URL http://www.ikeri.co.jp/

千寿亭

住所 奈良県桜井市芝293
*JR三輪駅から徒歩約10分
TEL 0744-45-0626
営業時間 11:00~17:00までご入店
定休日 金曜日(金曜日が祝日、または1日の場合前日が休日)
※元旦を除く

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