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THE POWER OF SHUN(December 2016)

SHUN STYLE

いま再び、「狩猟肉」という選択

イメージ写真

フランス語で狩猟によって捕獲された野生動物の肉を意味する「ジビエ」。

日本では「狩猟肉」と呼ばれ、古くから猪肉を使用した「ぼたん鍋」や鹿肉を使用した「もみじ鍋」が親しまれてきた。明治以降は牛豚などの「畜産肉」が急速に普及し、長らく日本の食卓から遠ざかっていた狩猟肉だが、最近ではスポーツ選手などから、高タンパク・低カロリーなヘルシー食材として支持されている。

ジビエ料理を提供する飲食店や缶詰やレトルトなどの家庭向け商品も増え、狩猟肉は再び身近なものになってきている。

自然に生きる狩猟肉ならではの魅力

東京・天王洲に店を構える「SOHOLM(スーホルム)」は、こだわりのジビエ料理を一年中堪能でき、連日多くのお客さんで賑わう。

「ジビエの一番の魅力は、鹿や猪がとにかく元気なこと。きのこやどんぐりなど自然にある美味しいものしか食べてないから健康に育つんです。牛豚肉に比べてカロリーは約半分だし、鉄分も豊富。非常に身体に良い食材です」。

そう語るのは、「SOHOLM」の運営責任者を務める河合祥太さん。自らも狩猟免許を取得するほどジビエに心血を注いできた人物だ。

ジビエの“旬”は一般に秋冬であるといわれているが、それはかつて狩猟の時期が11月~3月と決められていたから。いまは増えすぎた鹿や猪による森や農作物の被害を防ぐために一年中狩猟できるようになったことで、ジビエに対する“旬”の感覚が変わってきたという。

「たとえば鹿は、秋冬は痩せていて脂肪が少ないので赤身の美味しさを味わえるし、夏はあばらに脂肪がぎっしりとつくので脂の旨みを味わえます。鹿のオスは夏場、メスを取り合う繁殖期に向けて体を鍛え、たくさん食べるから太っているんです。猪は逆で、餌が少なくなる冬場の前にたくさん食べるから、秋冬に脂肪がつき、夏は痩せています。ぼたん鍋などは脂の旨みが合うので冬の猪が向いていますね。季節によって肉質が変わり、変化に合わせて焼く、煮込む、鍋にするなど、様々な楽しみ方ができるのもジビエならではの魅力です」。

ジビエは高級食材と思われがちだが、もっと気軽に食べてほしいという河合さん。

「ジビエの本場フランスでは、目の前で獲ってきた肉をさばくことから安全な食材として認知され、日常的に食べる文化が育ちました。日本でもジビエの価値を広め、牛・豚・鶏と並んで鹿や猪を選択してもらえるようにしていきたいです」。

河合祥太さん

ジビエ

家庭で気軽に楽しめるジビエ

鳥獣被害抑制のため年間何万頭と捕獲されている鹿や猪だが、そのうち食肉として利用されるのはわずか数%のみ。しかし最近では、食材として新たな命を吹き込み、地域の資源にしようとする商品開発の試みが活発化され、ジビエはより家庭に身近な存在になってきている。その一部をご紹介しよう。

GIBIECAN

・SOHOLM 「GIBIER CAN」 ―北海道・島根県

「ジビエを一過性のブームに終わらせないために、日常的に家庭でも食べてもらいたい」。そうした河合さんの想いを形にしたジビエの缶詰「GIBIER CAN」。河合さんが最もこだわったのは、地域でのモノづくり。北海道と島根県の肉を使い、パッケージデザインから調理、製缶、シール貼りまで、すべて地域でおこなっている。もちろん美味しさも追求し、肉のポトフや鹿肉のフリカデラ(ミートボール)など、お店の味を家庭でも楽しめる一品だ。
URL:http://www.soholm.jp

猪肉のサムライ煮

・成美 「猪肉のサムライ煮」 ―大分県

大分県の食材や食文化を加工品にして全国へ届ける地元メーカー、成美(なるみ)がつくるレトルトパウチ商品「猪肉のサムライ煮」。「地元大分で育った猪肉を手軽に気軽に美味しく食べてほしい」という、社長の岩切知美さんの想いが詰まった商品だ。日本酒と本醸造醤油、砂糖などを使って甘辛く煮込んだ猪肉は、とても柔らかく、ご飯のおかずやお酒のおつまみ、サラダやパスタのトッピングなど、幅広い楽しみ方ができる。
URL:http://narumi-oita.com

森守

・森守 「Sausage of Sauvage」 ―静岡県

静岡県の南伊豆町で野生獣肉処理業を営む森守(もりもり)がつくる、鹿肉と猪肉によるジビエソーセージ「Sausage of Sauvage」。自身も猟師として森林環境を守りながら野生動物に向き合う社長の黒田利貴男さんは、廃棄される命を無駄にしないという信念のもと、ロースなどの流通しやすい部位以外の肉を有効活用しソーセージとして商品化。ボイルしてから焼き色を付けシンプルに味わうのはもちろん、ポトフやブイヤベースにもぴったりだ。
URL:http://izu-morimori.jp/

ジビエ料理を支える「卸」の存在

こうして様々なジビエ商品が誕生し、家庭でもジビエを食べられるようになったのは、生産者(猟師)と消費者を仲介する「卸(食肉販売業者)」の存在が大きいという。

「SOHOLM」の河合さんも絶大な信頼を置く大分県の食肉販売業者、椿説屋(ちんぜいや)の河野広介さんは「いつどこで誰がどのように獲ったのか、そして解体処理したのかを徹底的に把握しています」と話す。

通常猟師が獲ってきた肉は食肉処理施設に運ばれ、解体されてから食肉販売業者の手に渡り流通されていく。ほかの食材と同じように狩猟肉にもトレーサビリティーが求められ、徹底した情報管理が狩猟肉の安全性を担保するのだ。

また食肉処理施設も営む河野さんは猟友会メンバーに向け、食肉利用することを前提とした適切な捕獲方法や止めさし方法についての講習会を開催。正しい知識をもって猟師に肉を持ち込んでもらっている。

さらには他の食肉処理施設に向けても、衛生管理や解体処理技術についての講習会を開催し、狩猟肉全体の品質向上に努めている。

安心して口にできる安全で美味しい狩猟肉を消費者に届けるために、こうして一役も二役も買っている河野さんら「卸」の人たちなしには、いまの日本のジビエ料理は成立しなかったに違いない。

ジビエから、森の未来を考える

増えすぎた野生動物による農作物被害に悩む地域のため、さらなるジビエ普及に向けて日々全国を駆けまわる河合さん。

今年、新たに「wildlife management」という名のプロジェクトを立ち上げた。ジビエという「食」に限らず、すべての森の恵みを暮らしに活かし、循環させることをコンセプトにした取り組みで、間伐材で作られた木皿を「SOHOLM」で積極使用したり、鹿の皮革を使用したエプロンを商品化している。

河合さんがヒントにしたのは、狩猟を生業とする「マタギ」の暮らし。

「鹿や猪が増えすぎているのは、人が山に入らなくなって森が荒れてしまったから。昔はマタギたちが定期的に山に入って、狩猟するだけでなく、木を切って炭や薪にしたり林道を整備したりして、きれいな森が守られていたんです」。

ジビエもまた、森からの恵みの一つ。ブームを一時のものにせず、ジビエをもっと身近に日常的に楽しむことで、森の環境保全にもつながっていく。ただ美味しくてヘルシーな食材というだけでなく、ジビエは、森の未来を考える教材にもなってくれているのだ。

木皿

マタギ

Writer : AYAKO KOMATSU / Photographer : CHIZU TAKAKURA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

SOHOLM(スーホルム)

住所 東京都品川区東品川2-1-3
※東京モノレール天王洲アイル駅徒歩8分
 東京臨海高速鉄道 りんかい線天王洲アイル駅徒歩6分
TEL 03-5495-9475
営業時間 11:00-17:00(ラストオーダー16:00)
18:00-23:00(ラストオーダー22:00)
土日・祝日 11:00-23:00(ラストオーダー22:00)
定休日 不定休
URL http://www.soholm.jp

株式会社 椿説屋

住所 大分県由布市湯布院町中川1141-2
TEL 0977-85-7231
URL http://chinzeiya.com/
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