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SHUN CURATORS(June 2015)

世界に出て実感した「日本の食」の奥深さ

― 「山田チカラ」オーナーシェフ 山田チカラさん

山田さん写真

10代の頃に料理の世界に入ったことをきっかけに、生まれ育った静岡から東京、スペインへと飛び出していった山田チカラさん。
自分の世界を広げてくれた「料理」は彼にとってさまざまな出会いをもたらせてくれる大切なツールだ。
“世界一予約の取れないレストラン”といわれたスペインの三ツ星レストラン「エル・ブジ」で腕を磨き、現在は、東京・南麻布の静かな路地に佇む小さなレストラン「山田チカラ」で客を迎える。

料理人として海外と日本、両方の世界を見てきた山田チカラさんが語る、日本の食の魅力とは。

自分を世界へ連れ出してくれた「料理」

Q料理の道に進まれた“きっかけ”を教えていただけますか?

不純な動機なんですが(笑)。とにかく家を出たくて、縁があった熱海のホテルのフレンチレストランで働くことになりました。でも、その店で出会ったフランス人のコックの話を聞いたり、東京のイタリアンや和食などのレストランへ修行に行ったりしているうちに、どんどん料理の世界に夢中になっていきました。

それに、飲食業って普通じゃ知り合えない人と出会える仕事なんです。その出会いがまた世界と繋がっていたりするから面白くて。同時に、もっと外の世界が見たいという気持ちも大きくなっていきました。

レストラン山田チカラ写真

Qそれでスペインに行かれたんですね。「エル・ブジ」に入るまでの道のりを教えて頂けますか?

言葉もあまりわからないままスペインに行ったので苦労しましたね(笑)。まずは現地のレストランで修業しようと思い、店をまわりましたが、なかなか雇ってもらえなくて“無給”という条件でやっと店に入れました。

ただ、無給では生活ができないので日本食レストランでアルバイトもしていました。そうしたらある日、そのアルバイトしていた日本食レストランの経営を任されることになり、店舗を持つことになりました。「エル・ブジ」の総料理長であるフェランと出会ったのもちょうどその頃です。

初めて「エル・ブジ」で食事した時、すごい衝撃を受けました。料理人って普通ならこの料理には何の食材が使われていて、どんな調理法なのかということがある程度は想像できるんですが、「エル・ブジ」の料理は全くわかりませんでした。そうした想定外の衝撃を受けたことをきっかけに「エル・ブジ」で働いてみたいと思ったんです。

山田チカラさん写真

Q実際働かれてみて、どんな発見がありましたか?

次から次に新しい料理を創り出していくアイデアは素晴らしくて、本当に勉強になりました。
また、「エル・ブジ」は世界中から料理人が集まる店だったので、各国の情報を教えてくれる彼らと知り合えたことが今も大きな財産になっています。

日本は全国の美味しいものが手に入る

Q食材について、海外と日本との違いなどありましたか?

ヨーロッパのレストランは地元の食材をよく使います。「エル・ブジ」はバルセロナの中でもフランス寄りの海岸線にあったので地場の海産物だったり、春には山に入ってアスパラガスを取ってきたりしていました。

日本でも地元の食材はよく使いますが、それに加えて全国の新鮮な“旬”の食材を使うことができます。その一つの理由に日本の流通システムの発達があると思います。
こうした日本全国の美味しい食材を手に入れることを可能とする日本の流通システムは料理の世界の可能性を広げていく要因の一つだと思っています。

語る山田チカラさん写真

Q日本の食材は海外でも浸透しているのでしょうか?

ヨーロッパでは日本の農作物の輸出規制などがあって、十分に浸透しているとはいえないと思います。でもシンガポール、香港、マレーシアなど、アジアでの日本の食材の浸透はすごいですね。もちろん、食材の評価もありますが、“日本の食材を使っている”ということが一つのステータスになっているという印象もありますね。

Q海外で色々な食と出会ってきた山田さんから見て、日本の食の良さとはなんでしょうか?

食材へのこだわりですかね。日本人の食材へのこだわり方は世界でもトップクラスだと思います。食材の生産や安心、安全へのこだわりはもちろんですが、日本は良い食材を食卓に届けるまでこだわっています。
例えば、イチゴなんか海外では山積みで売っていたりする場所も多いですけど、日本では一粒ずつキレイに整列している。パックの上のセロファンだって、イチゴが潰れないようにフワッとかけられていてミシン目まで付いていたり。フェランも来日した時に「これどうやってるんだ!?」って驚いていましたから(笑)。

食を通してメッセージを伝える“茶懐石”というスタイル

Q山田さんのお店では「茶懐石(茶の湯でお茶を出す前に出される“一汁三菜”を基本とする茶の湯の精神に則った食事)」という日本独自の文化を料理に取り入れてらっしゃいますよね。

日本に帰国して茶道と出会ったんですが、「エル・ブジ」の料理と同じくらいの衝撃を受けました。茶道の世界では器や生けてあるお花にまで一つひとつ意味があって、言葉を交わさなくてもお互いにその意味を理解し合っています。
茶懐石でもそれは同じで、無言のメッセージを食の中に込めてある。こういった食を通した密かなコミュニケーションを大切にしたいなと思ったんです。

茶器写真

Q料理に込められたメッセージがわかるとより一層、食を楽しめそうですね。

日本料理や日本の料理人は素材や“旬”を大切にしながら、調理法や味付けに工夫を重ねている料理が多くあります。目の前の料理から、その向こう側にある料理人の意図まで想像できるようになったら、日本の食のもっと深いところまで楽しめると思いますよ。

イメージ写真

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : KOJI TSUCHIYA

プロフィール

山田チカラ(「山田チカラ」オーナーシェフ)

1971年、静岡県生まれ。18歳の時、熱海・大月ホテル「ラ・ルーヌ」に入店。その後、スペインに渡り、店舗を経営。帰国した後、再度スペインに渡り三ツ星レストラン「エル・ブジ」のフェラン・アドリア氏に師事。再度帰国後は東京「旬香亭」でシェフを務め、2007年、南麻布にレストラン「山田チカラ」をオープン。
「山田チカラ」では“茶の湯”をコンセプトにさまざまな食との出会いを通して完成された唯一無二の創作料理が味わえる。

山田チカラ

住所 東京都港区南麻布1-15-2 1F
*東京メトロ南北線・都営大江戸線 麻布十番駅から徒歩約10分
TEL 03-5942-5817
営業時間 18:00-翌2:00(ラストオーダー 24:00)
定休日 不定休
URL http://www.yamadachikara.com/
その他情報 完全予約制となっております
山田チカラ写真