スイス人が教えてくれる日本の魅力 ~ 「旬」を愉しむ旅のすすめ ~

― 「ジャパンガイド」編集長 ステファン・シャウエッカーさん
ステファン・シャウエッカーさん写真
スイス出身のシャウエッカーさんが1996年に立ち上げたwebサイト「ジャパンガイド」は、外国人向け日本観光情報サイトのパイオニア的存在。メジャーな土地だけではなく、あまり知られていない地方のスポットまで幅広く取り上げ、実際に現地に足を運んで集めた“生きた情報”を発信し続けている。

シャウエッカーさんは日本在住歴11年。山と温泉を愛する彼いわく、外国人観光客にもっともっと日本の地方や田舎を訪れてほしいのだとか。
全国1000カ所以上の土地を訪れてきた彼が語る、愛すべき日本の魅力とは。

カナダ留学時代に触れた、初めての“日本”。

日本を好きになったきっかけは、カナダで出会った日本人だったそうですが。

そうです。カナダのバンクーバーに10年間住んでいたのですが、そこで素敵な日本人と出会ったのがきかっけで日本に興味を持ちました。そこから「漢字が書けたらかっこいいな」と思って勉強したり、日本食のお店に行ったりして文化に触れるうちに、どんどん日本好きがエスカレートしました(笑)。

そして「ジャパンガイド」を立ち上げて、日本移住に至ったのですね。

「ジャパンガイド」は1996年にカナダで立ち上げました。当時はまだ企業のホームページすら発達していなかった時代なので、同じようなサイトは少なかったと思います。その後、カナダで知り合った日本人の妻と結婚し、2003年頃に一緒に日本へ移住しました。それから「ジャパンガイド」も観光情報により力を入れ始めましたね。自分で各地を取材して回り、写真を撮って記事をアップしていって、今までに訪れたスポットの数は1000カ所以上あります。昔は一年の5分の1は旅行をしていましたが、今はスタッフと手分けして進めているので自分で行くことは減りました。本当はもっと行きたいのですが。
ステファン・シャウエッカーさん写真

取り上げる観光スポットはどのように選んでいるのですか?

一つはユーザーのニーズに合わせて選んでいます。サイト内の質問コーナーを通して、ユーザーからの問い合わせが多くなってきた土地に足を運びます。私たちも知らなかったようなマニアックな場所が送られて来ることも多くて、最近だと北九州市の「河内藤園」という藤の花が綺麗な公園へのリクエストが増えてきたので、行かなくちゃいけないなと思っています。自分たちで新しい場所をピックアップする時は、その土地の景色や歴史的な背景など、外国人目線で面白いかどうかをリサーチします。取材に行く時は、その土地の郷土料理や食材を必ず食べるようにしていて、それも大きな楽しみですね。

記憶に残る味。乳頭温泉で食べた“ふきのとう”

日本の食文化のどんなところが好きですか?

生もの!シンプルで、素材の味をそのまま楽しめるから。だから僕にとって日本の刺身は夢のような食事です。なかでも金沢の近江町市場で食べた海鮮丼は忘れられません。のどぐろが本当においしかった。北海道の利尻島や礼文島で食べたウニ、知床のイクラ丼などもおいしかったですね。衝撃的だったのは、沖縄で食べたヤギの刺身。独特の臭みがあって、少し毛が残っていて、あれはすごかった(笑)。でも、次回また訪れたらチャンレジしてみようと思います。生ものは食材の鮮度がないとおいしく食べられないので、日本のそういうところは素晴しいです。あと多くの外国人が感動するのは、目でも料理を楽しめるというところ。盛りつけはもちろん食材の彩り、お皿までちゃんと合わせている。本当にアートです。
海鮮丼写真

スイスにも「旬」という考え方はありますか?

スイスにも季節に応じた料理が多いので、概念は同じだと思います。でも日本はレベルが違いますね。家庭によって違いはあると思いますが、食卓に並ぶ料理やスーパーの品揃えを見ても、すごく「旬」を意識している。テレビを見ていても「秋のグルメツアー」のようなテーマで、“季節”と“土地”と“食事”を合わせて紹介しているし。一度カナダの海沿いの街に行った時に、獲れたての魚が食べられると期待していたら、売っている魚が全部揚げ物でとても残念に思ったことがあります。どんな魚が使われているかも書いていないし。日本ではそんなことないですよね。

全国各地を旅する中で味わった、印象的だった「旬」の味覚はありますか?

私は温泉が大好きなのですが、特に気に入っているのが秋田県の乳頭温泉「鶴の湯」。江戸時代から続く宿で、部屋に囲炉裏があって、都会のように派手な看板もなく本当に昔の日本にタイムスリップしたような気分になれる所です。まだ雪が残る春先にここを訪れた時、山の中で“ふきのとう”を見つけたんです。
乳頭温泉写真
初めて見るもので、形もとても美しいなと思っていたら、その夜、旅館の夕食に“ふきのとう”が出てきました。食べてみると、今まで味わったことのない苦味があって、とても感動しました。春の森から届いた、そのままの味。それから毎年春が近づくと「今年は“ふきのとう”が食べられるかな」と胸がワクワクしてきます。冬と春の間のわずかなときにしか採れない、まさに「旬」のその瞬間を食べるという感覚。私の人生にとって、すごく大事な思い出です。
ふきのとう

地方には未だ知られていない、たくさんの文化がある。

実際に来てみて、日本の印象は変わりましたか?

初めて来た時は、ちょっとイタリアに似ているなと思いました。これはスイス人ならではの感覚かもしれないですね。居酒屋に行ってみたら、おしとやかなイメージだった日本人がとても賑やかに食事をしていて、その雰囲気がイタリアみたいだなと思ったんです。あと、食も景色も魅力的ですが、何よりも“人”が素晴しいと思います。フレンドリーでマナーもよく、観光客にとってとても安心できる国です。私はシャイなほうですが、温泉で一緒になったおじさんと話をしたり、おいしい食べ物を教えてもらったり、そういう地元の人との出会いをいつも楽しみにしています。わたしの印象では、東北の人は、打ち解けるまで時間がかかるかもしれませんが、優しさが深い。一方で関西の人は最初からオープンに接してくれる。パーソナリティも各地でいろいろですよね。自分の性格に合わせて訪れる土地を選ぶのも面白いんじゃないかと思います。
ステファン・シャウエッカーさん写真

外国人観光客の方にはやはり東京や京都が人気だと思いますが、あえてオススメしたい土地はありますか?

私も初めての日本旅行では、東京、日光、鎌倉、京都、大阪、神戸、奈良というゴールデンルートを2週間で回りました。でもやっぱり王道にプラスして、ぜひ地方の自然のある場所へ行ってみてほしいです。そこには、たくさんの知らない文化がありますし、郷土料理や地酒のようなその土地ならではの食も楽しめます。特に温泉は個人的にも素晴しい日本文化だと思うので、たくさんの外国人に体験してほしいですね。また、私は「ジャパンガイド」とは別に日本語で本を出版しているのですが、外国人のフィルターを通した日本の魅力を知ることで、日本人にも自分の国のことを好きになってもらえると最高にうれしいです。
Writer : ASAKO INOUE
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Photographer : KOJI TSUCHIYA

プロフィール

ステファン・シャウエッカー(「ジャパンガイド」編集長)
1974年、スイス・チューリヒ生まれ。ジャパンガイド株式会社代表取締役社長。2008年より国土交通省が主導する「ビジット・ジャパン大使」を務める。1995年に初めて日本を旅行。1996年、カナダでインターネットの日本観光サイト「ジャパンガイド」を開設。日本人の妻とともに2003年から群馬県藤岡市に移り住む。著書に『外国人が選んだ日本百景』(講談社+α新書)、『外国人だけが知っている美しい日本』(大和書房)などがある。
「ジャパンガイド」 https://www.japan-guide.com/
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