いくら旅しても、 日本は食べきれない(笑)。 こんな国は世界中どこにもない。

― 「PAPERSKY」 編集長 ルーカスB.Bさん
ルーカスB.Bさん写真1
旅をテーマに世界各国のカルチャーを、独自の視点で掘り起こす雑誌「PAPER SKY」。その編集長として活躍するルーカスB.Bさんは、アメリカから日本に移住して、かれこれ20年が経つ。

日本を拠点に、世界中を飛び回り、時間さえあれば日本国内も全国津々浦々に取材するルーカスさん。外国人の視点から、日本の食文化を語ってくれた。

東京渋谷にある築70年の日本家屋を改装した事務所に、次号(4/30発売)の「PAPERSKY」の編集を終えたばかりのルーカスさんを訪ねた。

まず、次号の「PAPERSKY」はイタリアのサルデーニャ島を特集されていますが、どうしてその場所を選んだのですか?

「PAPERSKY」が訪ねる場所の選定には、その土地でしか食べられないもの、そこでしか出会えないものが、どれぐらいあるのかを重要視しているんだ。今回は特に食べ物の特集をやりたかったから、豊かな食文化が残るサルデーニャを選んだ。

サルデーニャはどんなところが面白かったのですか?

イタリア人の友人に紹介されて知ったのだけど、すごく日本に似ていると思ったね。地中海に浮かぶ、四方を海に囲まれた島で、スペインやフランス、北アフリカ、そしてイタリア本土からの様々なカルチャーがミックスしていて、島でもエリアによって、食べられる料理や器が違う。日本でも九州の別府に行くと、竹細工の皿が使われていたり、エリアごとに特徴があるでしょ。あと古い文化もちゃんと残っている。日本に似た豊かな食文化がサルデーニャにはあるから、日本人も絶対気に入ると思うよ。
雑誌「PAPERSKY」写真

衝撃的だった、うどんとの出会い

日本の食文化に関してですが、ルーカスさんは日本に移住して20年になるとお聞きしましたが、アメリカに住んでいる時、日本料理のことはどれぐらい知っていたのですか?

僕が育ったサンフランシスコには、ジャパンタウンがあって、ときどき日本料理も食べていたけど、やっぱり寿司と天ぷらぐらいしか知らなかった。今でこそアメリカでラーメンが流行したり、居酒屋スタイルが知られたり、日本料理への関心が高まっているけど、当時はみんな寿司と天ぷらしか知らなかったよ。
ルーカスB.Bさん写真2

実際に日本に来てみてどうでしたか?

どんな料理もおいしくてびっくりしたよ。特に、うどんがおいしくて。当時はお金がなかったから東京の祐天寺の知人の家に住んでいたのだけど、近くにうどん屋があって、毎日けんちんうどんという野菜がたくさん入ったうどんを食べていた。スープを作る時のダシという文化はアメリカにはなかったから驚いたし、麺もモチモチしていて、すごくおいしかった。1ヶ月間、毎日うどんを食べたこともあったんだ。
ルーカスさん事務所写真1

日本の食文化に関して、他に驚いたことはありますか?

料理の見せ方もアメリカとは全然違う。日本のレストランは料理の味だけではなく、見た目からも美味しさを伝えてくれる。食材だけではなく、テーブルに並ぶお皿や、お店の空間そのものが美味しさを演出している。さらに「この野菜はどこから来たよ」とか、いまの季節感や物語も含めて、料理をトータルで伝えてくれるでしょ。それが日本のカルチャーのすごくいいところだと思うね。そういう世界観をこれから日本に来る外国人にも少しずつでいいから、理解してもらいたいね。

20年暮らしても、食べ物に飽きない国。

ルーカスさんは世界だけでなく、日本全国を旅していますが、旅先で出会った印象的な食べ物は何ですか?

いっぱいありすぎて困る。それこそ高松のうどん、丹波篠山の黒豆もおいしかったし、鹿児島で食べたさつまあげと焼酎もおいしかった。でも、一番おもしろいと思ったのは、山菜だね。山菜をこんなに食べる国というのは、珍しいと思う。日本はまるごと山を食べている感覚だよね。雑誌でキノコ狩りの特集をした時に、キノコ名人と一緒に山に入ったことがあるけど、あれも食べられる、これも食べられるって、見たことがないキノコがたくさん。こんなにたくさんの種類のキノコを食べるのは日本がダントツじゃないかな。「旬」な時に食べるとすごく新鮮で、栄養もたっぷり、天ぷらにして食べると本当においしい。
ルーカスさん事務所写真2

山菜もそうですが、日本は日本人でも食べきれないぐらい、食材や料理が豊富ですよね。

日本に住んで20年になるけど、今でも見たことないものをたくさん食べられる。こんな国は普通じゃないよ(笑)。いろんな国を旅したけど、ほとんどの国は2週間もいれば、だいたいのものを食べてしまい、飽きてしまう。だけど、日本の食は飽きることがない。同じものでもいろんな作り方がある。「旬」という意味でもそうだけど、バリエーションや、そのコンビネーションがすごく豊富。

その時期にできるものを、その時期に食べるという「旬」を大事にする日本の文化をどう思いますか?

「旬」という考え方はどの国にもあるけど、それを文化として今でも大事にしているか、していないかが重要なことだと思う。大量生産が行き過ぎてしまい、「旬」を失ってしまっている国もある。日本では、農家1人1人が食べ物を作っているケースが多いので、まだ「旬」を楽しめる環境があるし、それをキープして、大切にできればいいと思う。「旬」なものを食べるということは、おいしいだけじゃなく、本来、自然の中で生きている人間の姿に戻れるという意味なので、健康にもいい。例えば、ほとんどの動物も「旬」なものしか食べないよね。この時期にこの野菜を食べると、涼しく感じるとか、体を暖めてくれるとか、この時期にこれを食べると、病気になりにくいとか。人間の体が本来持っている欲求を満たしてくれる力を食べ物は絶対に持っている。自然と上手に付き合う生き方をキープできている日本人だから、「旬」を大事にできているんだと思う。 もともとアメリカにもネイティブアメリカンの人には、そういう自然と寄り添う考え方はあったけど、大量生産の時代で、ほとんどがだめになった。それが最近またアメリカでも、オレゴン州のポートランドとか、ライフスタイルを見直したいという動きが一部で生まれてきているんだ。 日本のいいところは、そういう考え方が流行とかファッションとしてではなく、もともと、おばあちゃんとか、その前のおばあちゃんとかから、しっかりと受け継がれて残っているところだと思う。
ルーカスさん事務所写真3

2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるなど、今後、多くの外国人が日本に訪れることになると思われますが、彼らには日本のどういったところを知って欲しいですか?

いわゆる、東京や京都とかの主要な観光地だけではなくて、日本には地方にも素敵な場所がいっぱいあるから、そういうところにも行って欲しい。食べ物も寿司と天ぷらだけでなく、いろんな地域で、いろんな食べ物を体験して欲しいね。例えば、ゲストハウスに大勢で泊まって、八百屋で日本の「旬」な食材を買って、料理して過ごすのも面白いかもしれないね。
ルーカスB.Bさん写真3

ありがとうございます。それにしても素敵な事務所ですね。お庭もきれいですね。

ありがとう。自慢の庭なんだよ。ここに植えているのは、柿の木で、柿の実も食べているんだけど、5月の時期は、葉っぱを摘んで天ぷらにして食べるのが、楽しみなんだ。そのまま食べてもおいしいし、塩を振って食べても本当においしい。それこそ、「旬」だよね。今度食べにきてください(笑)。
ルーカスB.Bさん写真4
Writer : TAICHI UEDA
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Photographer : CHIZU TAKAKURA

プロフィール

ルーカス・B.B.(「PAPERSKY」編集長)
1971年4月17日 米国・ボルティモア生まれ。8歳の時にサンフランシスコに移住。カリフォルニア大学を卒業した次の日に日本へ。1996年にニーハイメディア・ジャパンを設立。カルチャー誌『TOKION』を経て、現在、トラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』、キッズ誌『mammoth』を発行。『retro min』や『PLANTED』の創刊等、他社メディアのクリエイティブも手がけている。また、ファミリー向け野外フェスティバル「mammoth pow-wow」のプロデュースや日本各地を自転車で巡る「ツール・ド・ニッポン」のイベント企画など、雑誌以外のさまざまなフィールドでもクリエイティブ活動を行う。
ニーハイメディア・ジャパン http://www.khmj.com/
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