戸隠山信仰から生まれた地元の誇り。日本三大そばの一つ「戸隠そば」

長野県長野市戸隠地区
戸隠堂のそば
(取材月: July 2025)
日本各地に根付いているそば文化の中でも、広く知られている「戸隠そば」。その歴史は平安時代、霊峰戸隠山を目指す修行僧の携行食糧として、そばが重宝されたことに始まるという。現代も脈々と受け継がれる、戸隠のそば文化を追った。

戸隠山信仰から始まった戸隠そばの歴史

戸隠神社奥社

日本には全国各地にそばの名産地がある。寒さに強く、稲作が難しい地域でも育つことから、特に山間部にそば文化が根付いていることが多い。数あるそばの名所の中でも、長野市戸隠地区で受け継がれてきた「戸隠そば」は、日本三大そばの一つとして全国区の知名度を誇る。その背景にはまず、戸隠山信仰とのつながりがある。

平安時代、霊峰戸隠山を有するこの地は山岳修験道場として栄えた。戸隠山は現在でも難所が多い上級者向けの山として知られており、登山道は荘厳な戸隠神社の奥社から始まる。修行僧の胃袋を支える携行食糧として重宝されたのが「そば」。当時はそば粉をお湯で練った「そばがき」などを食べていたのではないかと考えられる。

そば切りの様子

麺状のそばをつくる「そば打ち・そばきり」の技術が戸隠に伝わったのは江戸時代。全国から訪れる参拝者にそばきりを振る舞っていたことが、現在の「戸隠そば」へと繋がっていく。戸隠山山麓にある戸隠神社の中社では、現在も毎年11月上旬に「新そば献納祭」が行われ、収穫したばかりの新そばで職人たちがそばを打ち、神様に供える儀式が行われている。

夏と秋。一年に二度訪れる戸隠そばのシーズン

6月下旬から7月の頭にかけて、そば畑には真っ白なそばの花が咲く。取材に訪れたそば畑にも、圧巻の景色が広がっていた。そばは景観作物と言われており、毎年開花のシーズンになると全国から多くの観光客が訪れるそうだ。

そばの花が咲き乱れるそば畑

「そばは他家受粉といって、別の個体の花粉でしか受粉しない植物。花が咲き、ミツバチなどに花粉を運んでもらわないと、そばの実ができないんです。きれいな花が咲くのにも理由があるんですね」と話すのは、畑を管理している農業生産法人「蕎麦の國」の竹内裕希さん。

農業生産法人「蕎麦の國」の竹内裕希さん

戸隠では夏そばと秋そばといって、年二回の栽培・収穫を行う。霜が降りるとそばが傷んでしまうため、夏そばは5月〜7月、秋そばは8月〜10月にかけて栽培する。そば畑が広がる戸隠高原の標高は800〜1,100mほど。朝夕の寒暖差が大きい気温や、傾斜がある地形、火山灰土でできた水はけの良い土壌がそばの生育に適している。

実がつき始めたそばの花

また寒暖差の大きい気候にはこんな利点もある。「夏の昼間は30℃近い気温ですが、夜になると10℃台まで冷えるので、そばに朝露がつくんです。この朝露をそばが吸収することで、水分を取り込みます。だから戸隠のそばは雨が少なくてもしっかり成長するんですよ」。

乾燥させたそばの実

品種も季節で異なり、夏そばは早生品種、秋には戸隠の在来種を栽培する。長野県オリジナルの品種開発も進んでいるそうで、将来的には県産の品種で統一できたら、と竹内さんは話す。

そばつゆ以外はすべて戸隠産。唯一無二のそば

「戸隠そばはおもしろくて、そばの栽培から製粉、そば打ちをする職人がいるのはもちろん、薬味は戸隠大根という伝統野菜、そばを盛るざるは『戸隠竹細工』という、戸隠に自生する根曲がり竹を使った伝統工芸品を使います。そばを食べるための要素がこんなにそろう地域は、全国でも他にないのではないでしょうか」と竹内さん。戸隠そばには地元の歴史と気候風土、そして人が受け継いできた伝統の技術が詰まっているのだ。

戸隠そばが食べられる「戸隠堂」

さっそく戸隠そばを味わうべく、戸隠神社の中社近くに店を構える「戸隠堂」を訪ねる。竹細工でできたさまざまな形の照明が飾られた、民芸調の趣のあるお店だ。さっそく三代目店主の村上龍太さんがそばを打ってくれる。

そば粉を練っているところ

戸隠堂では石臼で挽いたそば粉を使う。粘りが出てしっとりとした食感になるそうだ。そばの品種は時期で変わるが、夏そばと秋そばの味わいはやっぱり違うらしい。「夏そばは青々とした香りで、さっぱりしているかな。秋そばは味も香りも濃くて芳醇です。うちは夏はしなの夏そば、秋は戸隠在来種や信濃一号を使っています」。

そばを伸ばしているところ

戸隠そばの特徴の一つが「ぼっち盛り」というそばの盛り方。戸隠堂のそばも、一人前のそばを5つに分けて、半分にくるっと折って盛っていく。歴史にも明るい村上さんは、ぼっち盛りの由来をこう考察する。

戸隠堂のそば

「もともと宿坊で出されていた時は、一つの大きいざるに盛ってみんなで食べていたんだと思うんです。その時に食べやすいように、ひと口分ずつ分けて盛るようになったのが、ぼっち盛りの起源なんじゃないかなと。諸説ありますが、僕はそう思っています」。

ぼっち盛りになったそばは箸で掴みやすく、とても食べやすい。村上さんのそばはちょうど良い太さで、なめらかな舌触り。つゆをつけずに食べても、そばの甘味が広がった。

「戸隠堂」の店主、村上龍太さん

「戸隠にはたくさんのそば店があって、そばの食感も太さもつゆの味も、それぞれ全然違うのがおもしろい。ぜひお気に入りの戸隠そばを見つけてほしいですね」。

戸隠で生まれ、戸隠に伝わる技術で仕上げられた戸隠そばは、まるで土地をまるごと味わっているような一品だ。そばに込められた背景も含めて、ぜひ味わってみてほしい。

Writer : ASAKO INOUE
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Photographer : SATOSHI TACHIBANA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

戸隠堂

戸隠堂の外観
所在地 長野県長野市戸隠3520
TEL 026-254-2129
定休日 ホームページを参照
営業時間 10:30〜16:00(売り切れ次第終了)
URL https://togakushido.com/

戸隠観光協会

URL https://togakushi-21.jp/

長野県  観光情報

japan-guide.com https://www.japan-guide.com/list/e1216.html
Japan Travel https://ja.japantravel.com/nagano
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