強い生命力の恩恵をいただく。日本古来のハーブ「ヨモギ」

神奈川県相模原市
日本古来のハーブ「ヨモギ」
(取材月: May 2025)
古来より人々に重宝されてきた「ヨモギ」は、私たち日本人にとって最も身近なハーブ。どんな土地でも育つ強い生命力を持ち、その成分にはさまざまな効能がある。今回は「ヨモギ」のことをもっと知るべく、神奈川県相模原市の里山にある農の学校「すどう農園」を訪ねた。

伝統行事にも欠かせない一番身近なハーブ

「ハーブの女王」と呼ばれるヨモギは、青々とした爽やかな香りが楽しめるだけでなく、美容や薬にも使われる万能な植物。古くから魔除けや厄払いの霊力を持っているとも考えられており、日本では5月5日の端午の節句に、ヨモギを練り込んだ草餅を食べる風習が残っている。道端に生えているほど身近な存在でありながら、多くのパワーを持つ不思議な植物だ。

すどう農園の代表・須藤 章さん

神奈川県相模原市にある「すどう農園」は、自給自足や自然農に興味のある人たちのための学校。春から初夏は、ヨモギの中に芽吹きのエネルギーが満ちるピークの時期だ。園主の 須藤 章さんに連れられてやってきた里山の原っぱには、ヨモギをはじめとする草花がのびのびと自生しており、小さなコオロギやテントウムシの姿も見える。

自然農を語る須藤さん

「自然農は生態系を活かした農業。一つの畑にヨモギだけを育てると病気や虫が出たりしますが、他の草花が一緒に育つことで絶妙なバランスが保たれます。生命力の強いヨモギは都会では嫌がられますが、植物の世界では“パイオニアプランツ”と呼ばれる、いわば始まりになる植物。たとえ土地がまっさらになっても一番最初に生えてきて、葉が地面を覆ってくれるので、やがて他の植物や生物も育ち土壌が豊かになっていく。自然のサイクルの出発点をヨモギが担ってくれるんですね。ヨモギが持つ力の源は、この生命力にあるんじゃないでしょうか」。

5月初めまでが“旬”。生命力が詰まった新芽をいただく

ヨモギはキク科の多年草で、春に芽吹いた後はぐんぐん成長していく。どんなに荒れた土地でも育つことができるのは、地下茎という茎を地中に張り巡らせているからだ。地下茎は栄養を貯蔵したり、株を増やす役割を持っている。「冬に地上部が枯れてしまっても、地下茎があるから春には復活します。種から育つわけじゃないから、他の植物よりも強いんですね」。

のびのびと育つヨモギ

ヨモギのピークは5月初旬。それ以降は葉が硬くなり、花をつける時期には開花にエネルギーを使うため、香りも成分も弱くなってしまう。食用として一番のおすすめは、4月下旬〜5月初旬に生えてきたばかりの柔らかい新芽を摘み取ること。新しい葉ならアク抜きも必要ないと須藤さん。ためしに少しちぎって噛んでみると、春菊を思わせる濃くて青いシャープな香りが広がる。

ヨモギを摘む須藤さん

「植物の先端部分は今まさに成長中ですから、細胞分裂が活発に行われていて酵素が働いている。風味が良く最も生命力がみなぎっている時期なので、ヨモギのパワーを食べて取り入れるには最適です。ヨモギは摘むのも楽しいのでぜひ体験してほしいですが、道端に生えているヨモギは除草剤が怖いので、けして食べないでください。当園では毎年4月下旬にヨモギを摘む会を開催しています」。

風味豊かな万能薬・ヨモギを生活に取り入れる

ヨモギは万能で、出血を止めて傷の治癒を促進する効果や、抗炎症作用、血行促進、デトックス効果、抗酸化物質を豊富に含んでいることから美肌にも良いなど、さまざまな効能があると言われている。沖縄では「フーチバー」と呼ばれ、体調が悪い時に雑炊にして食べる習慣もあるという。

食用にするなら、前述のように若い新芽を選ぶのがおすすめだ。天ぷらならアク抜きは不要。ただしスムージーなど生で食べる場合は成分が強いので、人によってはお腹を壊してしまう可能性もあるという。

青々としたヨモギ

「アク抜きをしすぎるとせっかくの風味や成分が薄まってしまうので、若い葉は茹でる時間も一瞬にして、できるだけ全部を食べてほしいなと思います。茹でたヨモギをブレンダーにかけてペーストにしておくことで使いやすく、冷凍保存もできるので便利ですよ。草餅はもちろん、パンや麺に練り込んで楽しめます」。

よもぎペーストを練り込んだ蒸しパン

またヨモギには身体を温める効果があるので、煮詰めた煮汁を飲んだり足湯にすると身体がポカポカに。また太白ごま油で30分ほど煮れば、切り傷に効果のあるヨモギオイルが完成し、大きく成長しすぎた葉は草木染めに使うなど、生活に取り入れる方法はたくさんある。

「ハーブというと外国の珍しい植物が思い浮かびますが、実は近くにこんなに素晴らしいハーブがあるんです。どこにでも生えているからこそ、ヨモギは私たち日本人の生活と密接に繋がってきたんでしょうね」。

私たちにとって最も身近なハーブであるヨモギ。今日からそのパワーを生活に取り入れてみては。

相模原のよもぎ

“旬”の時期

4月下旬〜5月初旬

目利きポイント

生えてきたばかりの新芽がおすすめ。葉が青々として柔らかいもの

美味しい食べ方

新芽はアク抜きなしで天ぷらに。すりつぶしてペーストにしておけば冷凍も可能で、草餅やパン、麺にアレンジができる。

Writer : ASAKO INOUE
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Photographer : SATOSHI TACHIBANA

すどう農園

所在地 神奈川県相模原市緑区寸沢嵐2134
URL https://www.sudofarm.net/

神奈川県  観光情報

japan-guide.com https://www.japan-guide.com/list/e1215.html
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