目利きが選ぶ、最高品質の白ネギ「千寿葱」
「ネギ」は日本最古の伝来野菜のひとつ
ネギは、奈良時代に中国大陸から朝鮮を経由して伝来したと考えられている、日本人とつきあいの長い野菜だ。平安時代には栽培が始まっており、比較的温暖な西日本では、一年中収穫が可能な「九条ネギ」や「万能ネギ」、「ワケギ」などの葉ネギ(青ネギ)が普及した。
関東では、天正年間(1573〜1592年頃)に大阪からの入植者が砂村(江東区)でネギの栽培を始めたとされている。関西よりも寒冷な関東以北では葉が霜枯れしてしまうため、土寄せをして地中の軟白な部分を食する根深ネギ(白ネギ)に改良されて広まった。江戸時代にはネギの特産地は千住などの隅田川の流域に広がったため、この白ネギの品種を指して“千住群”と称する。
蕎麦屋がひいきにした最高品質の白ネギ
現代では関東の白ネギの主な産地は千葉県や埼玉県などに移っている。しかし食文化として、国内唯一のネギ専門の市場が今も千住のまちには残っている。ネギだけを扱う問屋「葱商」も6軒ほどあり、最高級の白ネギといえば、この千住の目利きを通したものという評価は変わらない。
その目利きの家系を受け継いでいるのが、創業百余年の「葱茂」三代目、安藤将信さんだ。
「明治時代に祖父が創業した頃は、東京中の蕎麦屋がお得意様でした。当時は蕎麦に今よりももっとたっぷりと白ネギを添えていたので、巻きが多くてずっしりと重い葱茂のネギは、1本から2本分の薬味がとれると喜ばれていました」と、家業のルーツを語る。
現在は、かつての伝統野菜、千住群の白ネギと区別する必要性もあり、冬は埼玉産、夏は栃木産と産地リレーをおこないながら、太くて上質な白ネギを集め、「千寿葱」という葱茂のオリジナルブランド名で市場に卸している。
特に、12月から2月が最も美味しい季節。安藤さんによると、品質のよい白ネギには3つの条件があるという。
①糖度が高い
葱茂が最高品質と認めるのは、糖度が18〜19度に達する白ネギのみ。一般的なマンゴーの糖度が15度程度なので、フルーツ並みの甘さということになる。また甘いだけでなく、硫化アリルという辛味成分からくる香り高さも重要だ。
②巻きが多い
青い部分と白い部分の境目がはっきりとしていて、弾力があること。ネギの巻きがしっかりとしていて、見た目よりずっしりと重いこと。繊維が細かくて、みずみずしくジューシーであること。その証拠として根元付近を切ってもらうと、すぐさまジワリと汁がしたたり落ちてきた。
③加熱することで甘さが引き立つ
よいネギは熱するとさらに差がわかるといい、巻きが詰まったネギは煮崩れせず、火を通すことでいっそう甘さが引き立ち、深いコクがうまれる。十分に料理の主役を張れる白ネギである。
葱茂が選んだ「千寿葱」は、これらの条件を全て満たしているものだ。
「白ネギは栽培に技と手間がかかるわりに、正しい評価がされていないと思います。私はネギづくりの名人といわれる確かな作り手だけを選んでおり、葱茂が扱うから、値段は高いが美味しいとお客様に言ってもらえるよう努力しています。」と、安藤さん。
「千寿葱」の美味しい食べ方
白ネギを使った代表料理といえば、焼鳥の「ねぎま」やマグロとねぎを一緒に煮込む「ねぎま汁」などがあるが、安藤さんにおすすめの食べ方を教えていただいた。
「炭焼きにするか、2cmくらいにスライスして天ぷらにすると美味しいです。ネギと油の相性は抜群ですよ」。
また、千寿葱に惚れ込み、北千住駅前で千寿葱にこだわった一品料理を出している居酒屋「八重寿」の人気メニューも、次のように実にシンプルなものだ。
「千寿葱の肉巻き一本焼き」は、一本まるまる豚バラ肉を巻いて焼いた豪快な一品。肉の脂がしみたネギのうま味がたまらない。そして、ぶつ切りのネギを炭焼きにしただけの「千寿葱焼き」。「千寿葱の天ぷら」の具は斜め切りにしたネギのみ。味付きの衣で揚げており、素材そのものの味のよさが引き立っている。
また、通常は白ネギの葉の部分は固くて使わないが、千寿葱は緑の葉の部分まで薬味にしたり、卵とじにして美味しく食べられるのが特長だ。
「八重寿」を運営する東武食品サービス株式会社の山崎武郎さんは、千寿葱の魅力を「内側の芯のほうが甘くてまわりは香りがよい。他のブランド葱のようにただ甘いだけでもなくて、辛みもしっかりと感じられ、非常にバランスのとれたネギです」と話す。鍋物の季節には、千寿葱を使った寄せ鍋などのメニューも出すそうだ。
ちなみに千寿葱の場合、根っこを切らずに販売することもあると言う。
「びっしりと密に生えた根がついているのは、ネギの密度が高い証拠。品質に自信があるから根付きで販売することもあります」と、安藤さんは語ってくれた。
「千寿葱」というパッケージを見かけたなら、手に取ってみて欲しい。そして、厳選された白ネギ料理の美味しさを、ぜひ味わっていただきたい。