目利きが語る:“旬”の魚「アジ」を楽しむ
産地によって異なる「アジ」の個性
一年中、スーパーや魚屋に並んでいるアジ。一般的には初夏から夏にかけて、刺身でよく食べられているイメージがあるが、“旬”の時期に疑問を持つ方も多いのではないだろうか。そんなアジについて、ねぎお寿司の根岸和也さんにお話を伺った。
「アジは暖流に乗って日本沿岸を回遊しているので、全国各地で季節を問わず漁獲されている魚です。産卵期も海域や条件によって幅があるため、一概に“旬”をいうのは難しいのですが…」と、根岸さん。
この日根岸さんが用意してくれたのは、大きさや色の違う4地域のアジ。アジの仲間は百数十種いると言われているが、一般に「アジ」というと、「マアジ」を指す。今回の4種もすべてマアジだ。
「アジは大きく2種類に分けられます。内湾に住んでいる瀬付きアジか、外洋を泳ぎ回っている外洋性のアジかの違いです。魚体がやや黄色っぽいものが瀬付きアジで、身が厚く脂がよく乗っているアジです。一方、黒っぽいものは外洋を泳ぎ回っていたアジで、身が筋肉質でさっぱりしています。アジは産卵期の直前直後は雌雄ともに生殖器に栄養を取られるために味が落ちます。そのため、多くの近海にとどまるアジに関しては産卵を控えた夏の時期が“旬”といえます」。
目利きが選んだこの日のアジは順に、
①愛媛県宇和島の大アジ
②島根のブランド魚「どんちっちアジ」
③大分県佐伯のアジ。本日のなかでは一番の高級品
④兵庫県淡路島のアジ
「このなかで②の『どんちっちアジ』は例外で、体は白いけれど近海物で脂がしっかりと乗っています。サイズ50g以上で脂質含有量が10%以上のアジを、島根ブランドの『どんちっちアジ』と格付けしているんです」と、根岸さん。
全国平均ではアジの脂質含有量は3.5%程度なので、いかに脂のりがいいかがわかるだろう。島根では「どんちっちアジ」は、4〜9月の“旬”の時期に水揚げされたアジと定めており、その時期だけの限定品と決められている。
ちなみに、大分県佐賀関の「関アジ」も高級魚として知られているが、こちらは同じ近海アジでも、豊後水道の荒波に揉まれて身がプリプリと締まっているのが特長。さらに一本釣りで丁寧に扱われ、身の質を保持しているものだけが「関アジ」の称号を名乗れるのだそうだ。関アジの“旬”は、脂が最も乗っている冬とされている。このように、アジは産地や時期によって個性が生まれる魚といえそうだ。
美味しいアジの選び方
黄色く脂が乗った瀬付きアジか、身が締まって風味のある外洋性のアジか。どちらを選ぶにしても、身の付き方がいいのに越したことはない。根岸さんによると、魚体の大きさは身の付き方、脂の乗りには関係がないのだという。
「身の付きがいいのは、尻尾の方まで盛り上がっている、体が全体的に丸いアジ。ボディに対して顔が小さい“小顔”のアジを選ぶのがおすすめです。また、ウロコの残り具合も参考になりますね。しっかりとウロコが残っている方が、漁で丁寧に扱われてきたアジだとわかります」と、根岸さん。鮮度の観点からは、エラの中の鮮やかさや、お腹の部分を触ってぶよぶよとしておらず固いものを選ぶといいとのこと。
なお、一般的に目の澄んだ魚のほうが新鮮と思われているが、最近の流通方法では水氷が使われており、鮮度がよくても水で目が白くなってしまっていることがあるそうなので、注意が必要だ。
またアジは、鮮度が味に影響しやすい魚なので、買ってきた後の処理の素早さがより重要だという。
「アジに代表されるヒカリモノの魚が『あしがはやい(日持ちがしない)』といわれているのは、魚自身の消化酵素が強すぎて身を溶かしてしまうからです。できる限り早く内臓、ウロコ、エラを取り去ることが重要です」。
ヒカリモノの魚は温度変化や酸化にも弱いので、皮も食べる直前に素早く引く(剥がす)ほうがよい。アジは三枚におろしたあと、包丁の背で抑えるようにしながら頭の方から引っぱると、皮を剥がすことができる。意外と簡単にできるので試していただきたい。
アジの楽しみ方
タンパク質由来の濃厚な旨みがあるアジは、シンプルな塩焼きや干物、寿司、フライなどさまざまな調理法で食される。特に鮮度のいいアジは、脂に溶けこんだ香りを刺身などで味わいたい。わさびや大葉、生姜などの香りを添えて、複雑な脂の旨みを引き立たせて食してみてはいかがだろうか。
また、白子は丸の魚をさばいた人が楽しめる特権だ。お店でも毎回楽しめるわけではないが、家庭で丸の魚をさばき続ければ出会うチャンスが広がるかもしれない。ほかにも、余すことなくアジを堪能できる、家庭でも挑戦できるおすすめのレシピを教えていただいた。
根岸さんの目利きを参考に、さまざまな個性を持つ種類豊富なアジを、“旬”の季節に味わってみてはいかがだろうか。
アジ
情報提供:ねぎお寿司 根岸和也さん“旬”の時期
一般的に産卵期の直前直後を避けた4~9月頃。
*品種や水揚げ港によって異なる。
目利きポイント
・尻尾の方まで盛り上がっていて、体が全体的に丸いもの
・からだに対して顔が小さいもの
・しっかりとウロコが残っているもの
・エラの中が鮮やかな赤色のもの
・おなかの部分を触って固いもの